第二話 光太郎達、吉備団子など携えて敵キャラ退治の旅始まる(1)
翌朝、六時頃。
「もう朝かぁ」
光太郎は目覚まし時計の音で目を覚ますとすぐに普段着に着替え、あのゲームの電源を入れた。
雅楽の音色で奏でられた和風BGMと共にスタート画面が表示されると、光太郎は続きからを選ぶ。
茶店内部に桃恵の姿が映った瞬間、
「おはようございます光太郎様。体力は全快しましたか?」
桃恵はゲーム画面から飛び出て来た。
「おはよう桃恵ちゃん、出て来れてホッとしたよ。俺、リセットしたらもう出て来れなくなるんじゃないか心配だった」
「うちも飛び出せるかちょっと不安だったんじゃよ」
「今日は着物じゃないんだな」
「動きやすい格好で行きたいけぇ」
「そうか。あの件、今朝のニュースではやるかな?」
光太郎は地上波受信モード切り替え、ローカルニュースが流れるチャンネルに合わせる。
『この時間は、岡山のスタジオからニュースをお伝えします。今日未明から、岡山県内各地で怪奇現象が起きているとの報告が多数ありました。岡山市では路上で備前焼の壺が飛び跳ねていた、真庭市では一メートル以上はある巨大なカエルを見かけたなど……』
トップでこんな報道が。
「目撃情報はあるけど、人的被害はないようだな」
光太郎はとりあえず安心する。
「ゲーム内にいるべき敵キャラが、現実世界に長期滞在すると一般人に被害を与える可能性も無きにしも非ずじゃけぇ、遅くとも明日までにはボスも退治しちゃいましょう。雑魚は無限増殖するけぇ全滅は不可能じゃけど、ボスさえ倒せば残る雑魚は自動的にゲーム内に戻ってくれると思うんじゃ」
☆
午前六時五〇分頃。
光太郎の自室に光太郎、三姉妹、澄乃、桃恵が集った。
桃恵がゲーム内から用意した竹刀などの装備品や、吉備団子、大手まんぢゅう、岡山檸檬ケーキ、ゆべしなどのご当地回復アイテムが床やベッドの上に並べられる。
「装備品と回復アイテムはおもちゃ屋やスポーツ用品店、うちのお店などから用意して来ました。回復アイテムはリアル岡山でも売られているものばかりじゃけど、体力回復効果は桁違いじゃよ。このゲームでは回復魔法がないゆえ体力回復手段は食べ物か宿泊、入浴するくらいしかないけぇ、種類豊富に揃えられとるんじゃ。ただ、回復アイテムは賞味期限がありまして、ゲーム内時間の期限を過ぎて使用すると体力下がっちゃう。最悪の場合0になっちゃうよ。まあ今回は一泊二日の短期決戦じゃけぇ、ほとんど関係はないけど」
「そこも従来のRPGとは違いますね。あのう、この桃の木の葉っぱのような形のは、薬草かしら?」
澄乃は十本くらいで束ねられたそれを手に掴んで質問する。
「はい、毒消しの薬草じゃよ。北部は猛毒持ってる敵もおるけぇ」
「これはリアルでは見かけないな」
光太郎も興味深そうにそのアイテムを観察する。
「猛毒持ってる敵もいるのかぁ。怖いなぁ」
晴帆は不安そうに呟く。
「晴帆お姉さん、ワタシはますます闘争心が沸いて来たよ」
「あたしもだよ」
「鎧とか盾とか、防具は用意してないんだな」
「ゲーム上と同じく、岡山編では防具は普段着で特に問題ないと思うけぇ。いきなりボスの巣食う蒜山へ向かうことも可能じゃけど、皆様の今の力では確実に瞬殺されちゃうけぇ、まずは最弱雑魚揃いの岡山市内、児島、倉敷。その後は新見、湯原温泉で多くの敵キャラ達と対戦して経験値を稼ぎ、レベルを上げていきましょう。日本全国、各庁所在地の敵が一番弱く、田舎、特に山間部ほど強くなる傾向にあるんよ」
光太郎 身長 167 体重 51
防具 Tシャツ ジーンズ
武器 竹刀 マッチ
晴帆 身長 158 体重 ?
防具 チュニック プリーツスカート 麦藁帽子
武器 ヴァイオリン 和傘
彩果 身長 162 体重 ?
防具 カーディガン プリーツスカート 眼鏡
武器 プラスチックバット 手裏剣 マッチ Gペン 黒インク カッター
眞凛 身長 132 体重 30
防具 サロペット ダブルリボン
武器 フルメタルヨーヨー 生クリーム絞り器 水鉄砲 手裏剣
澄乃 身長 154 体重 ?
防具 ショートパンツ ブラウス 眼鏡
武器 Vメガホン 撫川うちわ マッチ
桃恵 身長 153 体重 ?
防具 ワンピース
こんな装備に整えた光太郎達六人は、回復アイテムなどが詰まったリュックを背負い柏野宅から外へ出て、いよいよ敵キャラ退治の旅へ。
第一目標の岡山市内中心部を目指し、最寄り岡電駅へ向かって住宅地をまとまって歩き進む。
「怖いなぁ。敵、一匹も出て来ないで欲しいなぁ」
恐怖心いっぱいの晴帆は最後尾、光太郎のすぐ後ろを歩いていた。
「晴帆さん、みんな付いてるから怖がらないで。わたしはいつかかって来られても大丈夫なよう、心構えていますよ」
「あたしも戦闘準備万端だよ。敵キャラ達、早く現れないかなぁ」
「ワタシも早く戦いたいよぅ」
「彩果様、気持ちは分かるけど戦闘になるまでバットは光太郎様の竹刀のようにケースに入れて運んだ方がいいかも。お巡りさんに注意される可能性もあるけぇ」
「それもそうじゃなあ」
彩果は素直に従って専用ケースにしまう。
「きゃぁっ!」
晴帆は突然悲鳴を上げた。そして顔をぶんぶん激しく横に振る。
「もう敵が出たのか?」
光太郎はとっさに振り返る。
「あーん、飛んで行ってくれなーい。誰か早くとってぇ。後ろ髪の上」
街路樹の葉っぱから落ちた虫が止まったようだ。
「なぁんだただの虫かぁ」
光太郎はにっこり微笑む。
「なぁんだただの虫かぁじゃないよ光太郎くん、背筋が凍り付いたよぅぅぅ。まだ飛んでくれなーい」
晴帆は今にも泣き出しそうな表情を浮かべていた。
「カナブンが乗っかってるね。この場所がお気に入りなんだね」
眞凛は楽しそうに眺める。
「晴帆お姉さん、カナブンくらいで怖がってちゃおえんがぁ。ここは光太郎お兄さんが取ってあげて」
「分かった」
光太郎は晴帆の後頭部を軽くぺちっと叩いた。
「あいてっ」
すると後ろ髪に潜り込むようにとまっていたカナブンは、弾みでようやくどこかへ飛んで行ってくれた。
「光太郎くん、痛かったよ」
「ごめん晴帆ちゃん」
「光太郎お兄さん、なんで直接掴まなかったん?」
「虫を直接手で触るのは、ちょっと抵抗が」
「光太郎お兄さんも情けないがぁ。二人とも、高校生なんじゃけぇ昆虫嫌いは克服しなきゃ」
「虫の類は大人になるに連れて嫌いになっていくものだと思うけど俺は」
「私もそう思う」
「わたしは今も大好きですけど」
澄乃は微笑み顔できっぱりと言い張った。
「晴帆様にとっては、身近な生き物も敵キャラ扱いのようじゃなあ」
桃恵はくすっと微笑む。
「民芸品とか桃の形した敵は現れたら明らかに敵だって分かるだろうけど、アシナガバチとかヌートリアとか鯉とかの生物型の場合、本物との見分け付くのかな?」
光太郎はちょっと気がかりになった。
「敵キャラの形状は現実世界でもCGやアニメ絵っぽく見えるじゃろうし、壁すり抜けるとかあり得ない挙動をしたり、生物型なら異様に大きかったりもするけぇ、見分けは簡単に付くよ」
☆
路面電車を乗り継いで田町電停到着後は、あくら通りを東へ向かって歩き進んでいく。
「リアル岡山市中心部も休日のこの時間なら人通り少ないがぁ。敵キャラ討伐にはちょうどいいけど」
菊恵は楽しそうに町の様子を眺めつつ。
「さっそく白桃んが現れたぞ」
ゲームで見たのとそっくりな敵キャラの姿を発見するや、光太郎は嬉しそうに伝える。
みんなの前方に計八体現れた。浮遊しながらどんどん近づいてくる。直径は四〇センチくらいでリアルな白桃より巨大だ。
「すっごくかわいい。攻撃なんてかわいそうで出来ないよぅ」
晴帆はうっとり眺める。
「晴帆様、白桃んはリアル蚊よりちょっと強い程度で、リアル世界のなよなよした男子高校生でも平手で一発叩くだけで退治出来るじゃろうけど、油断してたら危険じゃよ」
桃恵が注意を促した。その矢先、
「いたっ、指噛まれちゃった」
晴帆はさっそくダメージを食らわされてしまった。
「こいつめ、晴帆ちゃん、大丈夫?」
光太郎は晴帆の指を噛んだ白桃んを平手一撃であっさり退治した。
「ちょっと血が出てる。痛い」
「晴帆様に1か2のダメージじゃなあ。吉備団子一つで全快出来るよ」
「本当?」
晴帆は桃恵から差し出された吉備団子を食べてみる。
すると指の傷が一瞬で元通りに。
「すごい」
この効能に晴帆自身も驚く。
「おう、これはファンタジーっぽいがぁ」
彩果は別の白桃んをバットで楽しそうに攻撃しながら感心していた。
「動き遅いですよ」
澄乃は指に噛み付こうとして来た白桃んをメガホン一発で撃破。
「くらえーっ!」
眞凛もヨーヨー一撃で白桃んを退治した。
「倒したら姿が消滅するのもファンタジーだな。全滅させたら何か落としていったぞ。白桃クッキーか」
光太郎は拾ってアイテムに加えた。
「これはゲーム上では体力10回復するんじゃよ。皆様、財布の中を見ねー」
「おう、小銭が増えとるがぁ」
「本当だぁ!」
「白桃ん八体倒して二百円増か。ゲーム上の設定と同じだな」
「これもファンタジーですね」
「ワタシますます戦闘モチベーションが沸いたわ~。敵キャラ倒しまくってお小遣い増やしてアニメグッズ買いまくるがぁ。もっと出て来られっ!」
「あたしもお小遣いもっと増やしたいから、敵キャラさん、どんどん出て来て」
「お小遣いが増えるのは嬉しいけど、私はもう出て来て欲しくないよ」
「わたしは戦ってお小遣いいっぱい増やしたいです」
「俺も。こんな方法で金が入るって、最高過ぎるだろ」
晴帆以外のみんなの願いが叶ったのか、
温羅じゃ! 今は昔の吉備の冠者よ 真金吹く吹く 吉備の国で 今は昔の吉備の冠者よ ぼっけぎょうさん宝を生んだ♪
ほどなくこんな音楽とともに踊りながら近づいてくる、顔に鬼に見立てた化粧を施し法被を身に纏った数体の女性の姿が。
「うらじゃ姉ちゃんの体力は9。竹刀ならきっと一撃じゃろう。ちなみにそれよりちょっと強い兄ちゃんは12じゃよ」
「ゲームでの戦闘モードと同じ、うらじゃ原曲のBGM付きか。なんか、かわいいからちょっと攻撃しづらいけど、敵だしな」
光太郎は見事な踊りっぷりにちょっとときめいてしまいつつも、竹刀で腹部を容赦なくぶっ叩いて一撃で消滅させた。
「まさに岡山らしい敵ですね。リアルうらじゃの踊り子さんよりも上手いかも。祭り以外の日に見られるなんて、得した気分ね」
「お小遣い稼ぎのためには戦わなきゃダメじゃだね♪」
澄乃と眞凛も攻撃し始めてすぐ、
「ぐはぁっ!」
彩果が別の一体に弾き飛ばされた。
「大丈夫? 彩果」
晴帆は心配そうに側に駆け寄る。
「この敵、攻撃力どのくらいあるのかわざと当たって確かめてみたけど、予想以上にダメージ受けちゃったんじゃ。あばらにひび入っちゃったかも。でーれー痛いんじゃ」
彩果は脇腹を押さえながら、苦しそうな表情を浮かべていた。
「じゃあ早く、病院行かなきゃ。一人で立てる?」
晴帆は優しく手を差し伸べてあげる。
「彩果様、これを食べねー」
桃恵はリュックから取り出した大手まんぢゅうを彩果の口にあてがった。
「おう、痛みがすっかり消えたがぁ。すごいわこれ」
彩果、瞬時に完全復活。自力で立ち上がる。
「あらまっ!」
晴帆は効能に驚く。
「リアルな大手まんぢゅうじゃ絶対起こりえないよな」
光太郎は感心気味に呟いて、彩果を襲った一体を竹刀二発で退治した。
「このようにリアルなら入院、絶対安静レベルの大怪我でも瞬時に治るけぇ、皆様、怪我を恐れずに戦いねー」
「想像以上の治癒効果ですね。これは心強いわ」
「あたし、思いっ切り暴れまくるよ」
「すぐに治るって分かってても、私、痛い思いはしたくないよ」
「晴帆ちゃん、俺が敵の攻撃から守るから安心して」
「大丈夫かな? 光太郎くん力弱いでしょ?」
逆にちょっと心配され、
「俺を頼りにして欲しいな」
光太郎は苦笑いする。
「また岡山らしい新たな敵キャラが近づいとるけぇ、光太郎お兄さんが一人で倒していいとこ見せてあげなよ」
「分かった。ドミカツ丼のモンスターか。ゲームと同じで防御力は少し高そうだな」
「岡山市内に出る敵じゃ二番目に防御力高いよ。ちなみに体力は14じゃ」
「二発くらいで倒せるかな?」
光太郎は直径一メートル、高さ1.5メートルくらいある巨大な丼型のそいつに立ち向かっていき、竹刀を振り下ろそうとしたら、
「うぉわっ」
思わず仰け反ってしまった。
今しがた、グリーンピースまじりのドミグラスソースが丼から飛び出して来たのだ。光太郎はズボンにちょっぴりかけられてしまった。
「光太郎お兄さんぶっかけプレーされよったね」
彩果はくすくす笑う。
この時、
「すごい澄乃お姉ちゃん、うらじゃのお兄ちゃん一発で倒しちゃった。あたし一発ダメージ食らっちゃったよ」
「白桃んさん、眼鏡で防御してるわたしには果汁攻撃は効かないですよ」
澄乃と眞凛は近くに現れた白桃ん三体と、顔に鬼の化粧&法被姿で豪快に乱舞するうらじゃ兄ちゃん残り二体と対戦中。
「危ねっ」
光太郎はソースまじりのトンカツ飛ばし攻撃をかろうじてよけると、丼部分を竹刀で二発思いっ切り叩いた。
これにて消滅。
「光太郎くん、強いね。これは本当に頼りになってくれそう」
「これくらい楽勝だったよ。ソースの汚れもちゃんと消えてくれるんだな」
晴帆に満面の笑みで褒められて、光太郎はちょっと照れてしまう。
「汚される系のダメージは、戦闘が終わると自然に消えるようになっとるんじゃよ。服の破れもね」
「それは便利だな」
みんな東方向にさらに数十メートル歩き進んだ頃、
「ぃやぁーん、黍団子さんが、服に中に潜り入って来たぁ。あぁん、おっぱい吸い付かないで」
数体の直径二〇センチくらいの黍団子型モンスターが晴帆に襲いかかった。
「きび団子ちゃん、体力は9。こいつも最弱雑魚じゃ」
「やっぱあれもモンスターになっとるんじゃなあ。あのサイズじゃと一口じゃ無理じゃな」
彩果はバットで、
「俺はゲームではすでに何回も戦ったよ。女の子相手だとこんな攻撃もしてくるんだな」
光太郎は竹刀できび団子ちゃんを次々と倒していく。
時同じく、
「これ全滅させたら、マスカットが貰えるのかなぁ?」
「そうだといいですね。リアルのより粒が大きくて美味しそうだわ」
「岡山マスカットん、体力は11。数十個集まった一房で一体じゃよ。白桃ん以上に強烈な目くらましの果汁ぶっかけに気をつけねー」
眞凛はヨーヨーで、澄乃はメガホンで、一粒あたり直径十センチくらいのエメラルドグリーンに煌くマスカット・オブ・アレキサンドリア型モンスター数体と戦闘を繰り広げていた。
「光太郎くーん、助けてー。ママカリ寿司さんが、私のスカートに噛み付いて来たぁ。頭は付いてないのにぃ」
その最中に晴帆はまた新たな全長三〇センチくらいの敵に襲われてしまった。
「あのママカリ寿司ちゃん、晴帆お姉さんにエッチなことして幸せそうじゃね」
彩果は残るきび団子ちゃんをバットで攻撃しながら楽しそうに眺める。
「ママカリズッシー、体力は14。ママカリ飛ばし攻撃に注意すれば雑魚じゃ」
「確かに雑魚だったな。彩果ちゃん、あとは頼んだ。晴帆ちゃん、ごめんね。敵の攻撃から守り切れなくて」
「気にしないで光太郎くん。何もない空間から突然現れたんだもん。対処しようがないよ」
ゲーム上ですでに対戦経験ありな光太郎が竹刀で攻撃するとあっさり消滅した。
残りのきび団子ちゃん、岡山マスカットん、共に全滅させて、みんなまた歩き始めてほどなく、
「うわっ、なんだこれ?」
光太郎は背後から桃、マスカット、いちご、キウイ、パイナップル、みかんなどまじりの生クリームのようなものをぶっかけられた。
「きゃっ!」
晴帆、
「何じゃこれ?」
彩果、
「体中べたべただぁー」
眞凛、
「これはひょっとして、フルーツパフェかしら?」
澄乃も巻き添えを食らった。
「その通りじゃ。これは体力13のフルーツパフェ衛門じゃよ」
桃恵だけは狙われず。
高さ二メートルを超す、中にフルーツパフェの入ったグラス型モンスターが接近していたのだ。
「迷惑なフルーツパフェだな」
光太郎は竹刀でグラス部分をぶっ叩く。
「なかなか硬いガラスですね」
澄乃がメガホンでもう一発叩いて消滅させた。
光太郎達に付いた汚れも同時に消える。
「私、もう少し食べたかったな」
「あたしもーっ。すごく美味しかったのに」
「ワタシも心残りじゃ。せめて口の中で味わってた分は残して欲しかったがぁ」
三姉妹がちょっぴり名残惜しそうにしていると、また新たな敵の姿が。
「あーっ、桃太郎さんも来たぁっ!」
日の丸の鉢巻に陣羽織、日本一と書かれた幟を持った桃太郎のお人形さんが前方から三体近づいて来て、眞凛はにっこり笑って嬉しがる。
「あの敵キャラは桃太郎人形くん、体力は13じゃよ」
「あれも敵になってるんだね。ゲームの製作者さん、桃太郎さんはヒーローなのに」
晴帆は困惑顔を浮かべて残念がる。
「桃太郎も悪人とする見方もあるから、俺はありだと思うけど。こいつ、ゲーム上では刀の振り回し連続攻撃がかなりきつかったな」
光太郎は攻撃される前に一体の顔を竹刀ですばやく二発叩いて退治。
「これ倒したらお腰につけたきびだんご貰えるのかなぁ?」
眞凛はヨーヨーでお顔を攻撃。
「痛いのう、お嬢ちゃん」
すると桃太郎人形くんは怒りの表情を浮かべ言葉を発し、眞凛に刀を向けて来た。
「怒ったみたいだね。ごめんねー」
眞凛はてへっと笑った。
次の瞬間に桃太郎人形くんは消滅。
「確かにお顔攻撃されたら怒っちゃいますよね」
澄乃がメガホンで背中をぶっ叩いたのだ。
「楽勝じゃったよ。予想通り、吉備団子落としていったがぁ」
彩果はGペン攻撃で退治した。
これで全滅させたと思ったら、
「かわいいお嬢さんじゃのう。ええ桃尻じゃ。わしが入っとった桃よりもええ形じゃ。汗で濡れて瑞々しくなっておるのも最高じゃのう。わしといっしょに鬼退治しに行こう。雉とか犬とか猿とかうざいしあいつらもう用済みじゃ」
「いやぁん、この桃太郎さん、エッチだよぅ。お尻じかに触らないでぇぇぇ~」
新たに現れた一体が刀を使って晴帆のスカートを捲り、もう片方の手でショーツの中に手を突っ込んで来た。
「桃太郎人形くんはこんな猥褻な攻撃もしてくるけぇ、CEROがBになっとるんじゃよ。ゲーム上でも女の子を仲間にしてから遭遇させると見られるよ」
桃恵はにこにこ笑いながら伝える。
「こいつが退治されるべきだな」
晴帆のぶどう柄のショーツをばっちり見てしまった光太郎は、呆れ顔で竹刀を構えて桃太郎人形くんに立ち向かっていく。
「ちょっと待ちねー光太郎様も、他の皆様も、もう少ししたら面白いイベントが起きるけぇ。晴帆様、悪いけどあとちょっとだけ我慢しねー」
桃恵は申し訳なさそうにお願いする。
「早く何とかしてぇぇぇ」
晴帆が涙目で叫ぶと、
ワン、ワン、ワン、ワワン。
キッキッキー、キキキッキー。
ケェェェーン、ケェェェーン。
どこからともなく桃太郎のお話でお馴染み、犬、猿、雉が現れた。
ワン、ワワン、ワン、ワン、ワンッ!
柴犬だろう犬は桃太郎人形くんの足にガブリと噛みつく。
「いでででっ!」
キッ、キキキキキ、キッキキーッ!
「ぎゃあああああっ!」
猿は、顔面に飛び付いて引っ掻いた。
ケェーッ、ケェーッ、ケェーッ!
雉は羽をバサバサ広げて少し中に浮き、桃太郎人形くんに断続的につっついた。
「ぎゃああああああああああああああああああああっ!」
桃太郎人形くん、いろんな部分が千切れ、断末魔の叫び声を上げて消滅。
犬、猿、雉もほぼ同時に消滅した。
銘菓の一口桃太郎を落としていく。
「こんなことが起きるんか。なかなかええもんが見れたがぁ」
「お供が桃太郎さんを退治しちゃったね」
彩果と眞凛はくすくす笑っていた。
「これは斬新な桃太郎さんですね」
「桃太郎人形の周り、モザイクがかかってたな」
澄乃と光太郎も微笑んでしまう。
「解放されて助かったけど、桃太郎さんもあんなひどいやられ方されちゃうなんてかわいそうだよ」
晴帆はホッとした表情を浮かべるも、桃太郎人形くんに同情もしていた。
「ゲーム上では女の子を仲間にしてから桃太郎人形くんと遭遇させて、女の子が襲われた後、しばらく攻撃せずにおるとこういうのが見れるんじゃよ」
「別に見たくはないけどな」
「光太郎お兄さん、ほんまは見たいくせに。そういえば、桃恵ちゃんは敵から全然攻撃されんね。スルーされてばっかりがぁ」
「そりゃぁうち、案内役じゃけぇ。RPGでも村人は攻撃されんじゃろ?」
「確かにほうじゃなあ。桃恵ちゃんもいっしょに戦ったらええのに。スカッとするよ。あっ、あっつぅぅぅ!」
彩果は背後から全身に熱々のスープをぶっ掛けられた。
振り返るとそこには、高さ七〇センチ、直径一メール以上はあると思われる巨大な丼に入ったラーメンが。トンカツ入りで湯気も立っていた。
「でーれー痛いがぁ」
涙目になり苦しがる彩果。
「彩果、早く冷やさなきゃ」
晴帆は心配そうに近寄る。
「彩果様、これを。他の皆様も熱々スープのぶっかけに気をつけねー」
桃恵は岡山檸檬ケーキを彩果に与えてあげた。
「トンカツラーメンがモンスター化したやつだな」
「こんなのもいたのね」
「俺はあれからも少し遊んだらこの敵にも遭遇した。ゲーム上でも熱々スープ攻撃は脅威だったな。トンカツ飛ばしも。丼の体当たりの威力はドミカツ丼ほどはないけど」
「彩果お姉ちゃんを火傷させるなんてひどいラーメンだね」
眞凛はヨーヨーで丼の側面を攻撃。
「飛び跳ねたっ! あつぅぅぅーい」
しかしかわされ、腕に少し熱々スープをかけられてしまう。
「ワタシがとどめさすよ。仕返しじゃ」
全快した彩果はバットで同じ箇所を叩こうとした。
しかし、
「うひゃっ! 緊縛プレーまでしてくるなんてこのラーメンもエッチがぁ」
飛び出した麺に全身絡み付かれて身動きを封じられてしまった。
「おいトンカツラーメン、麺の使い道間違ってるぞ」
光太郎が竹刀ですばやく丼部分を二発叩いて退治。
岡山の地酒、燦然を落としていく。
「サンキュー光太郎お兄さん。酒落としよったねあの敵」
「トンカツラーメンくんが稀に落としていくこれも回復アイテムじゃけど、未成年の皆様が使うと体力減っちゃうんじゃよ。ゲーム上では町中で使ったら即効お巡りさんに説教されるよ」
「せっかくのアイテムじゃけぇ持っとくよ。おう、アニヲタっぽい男の子も前から来よるがぁ」
「あれも敵なのかしら?」
「俺も一昨日から計四時間以上はプレーしたけど見たことないぞ。でも、CGっぽいし、本物の人間には見えんから敵だろう」
「一応そうじゃ。岡山のアニヲタ君、どの容姿も体力は8。レアな敵じゃよ。オタク系の敵は各都道府県主に庁所在地やアニメの聖地に現れるんじゃよ」
開店前のアニメイト岡山店近くで遭遇したそいつは逆三角顔、七三分け、四角い眼鏡、青白い顔。まさに絵に描いたような気弱そうな風貌で、萌え美少女アニメ絵柄のTシャツを着てリュックを背負い、両手に萌え美少女アニメキャライラストの紙袋を持っていた。
「見るからに弱そうだな。素手でも勝てそうだ」
光太郎は得意げになる。
「攻撃するのはかわいそう」
晴帆は憐れんであげた。
「あの紙袋と服、ゲーム上のとは違ってこっちの世界のアニメのになっとるがぁ。護身用のナイフ攻撃をしてくる可能性もあるけぇ気をつけねー」
桃恵は注意を促すも、
「面白そうなお兄ちゃんだね」
「ワタシもこのアニメ大好きじゃ。きみ、ユーフォ―テーブルと京○ニのアニメ好きそうじゃなあ」
眞凛と彩果は躊躇いなく岡山のアニヲタ君のもとへぴょこぴょこ歩み寄っていく。
「……ボク、今忙しいんじゃ。じゃっ、じゃあね」
すると岡山のアニヲタ君は慌てて逃走してしまった。
これによりみんな、お金と経験値は得られず。
「ありゃりゃ、逃げんでもいいのに。お話出来なくて残念じゃ」
「あのお兄ちゃん、百メートル十秒切りそうな速さだったね。壁もすり抜けてたね」
「全国どこのアニヲタ君も弱点は三次元の女の子なんじゃ。体力と攻撃力は白桃んより上じゃけど、すぐに逃げられるけぇこのゲームでほんまの意味での最弱敵キャラなんじゃ。倒した時に貰える金額は二万円。岡山市に出る敵キャラでは破格なんじゃ」
「それはぜひとも倒したいものじゃ。さすがアニヲタは金持っとるね」
さらに付近を散策すると、また新たな敵キャラが。
「うをぉぉぉぉぉぉぉっ、ふぅっ! うをぉぉぉぉぉぉぉっ、ふぅっ! うをぉぉぉぉぉぉぉっ、ふぅっ! ひーちゃん、ひーちゃん、ひーちゃぁぁぁーんっ! うをぉぉぉぉぉぉぉっ! ふぅっ!」
こんな掛け声を上げながら時折ジャンプしつつ、黄色のサイリウムを両手でブンブン激しく振り回していた、背丈は一六〇センチくらい、体重は百キロを超えてそうなぽっちゃり体型で青の法被を身に纏った三十代くらいの男の姿が。みんなの方へどんどん近づいてくる。
「光太郎くん、あの人怖いよ」
晴帆は光太郎の背後に隠れる。
「俺もそう思う」
「わたしも同じく」
光太郎と澄乃は動きを見て思わず笑ってしまう。
「桃恵ちゃん、あれはCGっぽいけぇ敵じゃろう?」
「その通り。あれもレア敵、岡山の声ヲタ君じゃよ」
「声ヲタ君かぁ。ねえねえ、そっちの世界ではどんな声優さんが人気あるん?」
「お相撲さんみたいだね」
彩果と眞凛はそいつにぴょこぴょこ近寄っていく。
「ぐはぁっ、いきなりサイリウム投げつけられたがぁ。もう逃げられとるし」
彩果は腹部にその攻撃を受け、弾き飛ばされてしまった。
「あたし、手裏剣投げたんだけどすごい勢いで逃げたから当たらなかったよ」
眞凛は唇を尖らせて残念がる。
岡山の声ヲタ君、逃走によりお金と経験値得られず。
「岡山の声ヲタ君は勇者達に出遭った瞬間、サイリウムで攻撃してすぐに逃げるんが特徴なんじゃ。倒すんはかなり難しいよ。ちなみに東京、大阪、名古屋、福岡ではさらに激しい動きして雄叫びを上げるアイドルオタクのモンスター、ドルヲタ君って敵も出るんじゃよ」
みんな北へ向きを変えて引き続き歩き進んでいると、
「アタシ、お兄ちゃんといっしょに遊びたいにゃん♪ お兄ちゃん、アタシのお店へ遊びに来て。お願ぁい♪」
背丈一五〇センチちょっとくらい、ゴスロリファッションでネコ耳&紫髪ポニーテールな若い女の子にとろけるような甘い声で誘われ、光太郎は腕を引っ張られた。
「あの、今忙しいから。って、こいつも、敵キャラみたいだな。宙にちょっと浮いてるし、アニメ絵っぽいし」
光太郎はちょっと躊躇いつつも竹刀で腹部を叩き付けると、
「痛いにゃぁんっ!」
猫なで声を出してあっさり消滅した。
「光太郎様、惑わされんかったのはさすが女の子慣れしてるだけはあるなあ。あれもレア敵のオカヤマッドメイド&レイヤーちゃん、容姿違いはあるけどどれも体力は10でレベル1でも竹刀一撃で倒せる雑魚じゃけど、あの敵についていったらええ体験は出来るけど全財産奪われるんじゃよ。ゲーム上でも遭遇したら即攻撃するか逃げた方がええよ」
「敵キャラ名通り、悪質なメイドとレイヤーだな」
光太郎は顔をやや顰めた。
「メイド、レイヤー系の敵はゲーム上では東京編のアキバ、池袋、中野ブロードウェイ。政令指定都市のオタク系の店が多く集まる所が高頻度出没スポットじゃ。さほど大きい都市じゃない徳島市でもマチ★アソビでオタク文化が発達しとるゆえ出没するんじゃよ」
「そういや岡山市は政令指定都市じゃったなあ。おう、メイドちゃんレイヤーちゃんまた登場じゃ。壁から突然出て来たがぁ。徳島のマチ★アソビの時は街中や眉山にこんな格好の人ぎょうさんおるよなあ」
彩果は笑みを浮かべて喜ぶ。
さっきのとは容姿違いが計七体、みんなの前に行く手を塞ぐように現れた。
「きさまぁ、さっきはよくもウチの百合友を消してくれよったなっ。許さんっ!」
チャイナドレスコスプレの子が怒りに満ちた表情でいきなり光太郎に飛び蹴りを食らわして来た。
「危ねっ! おう、消えた。武道派っぽい風貌だったけど、たいしたこと無かったな」」
光太郎はひらりとかわしてこの一体の背中を竹刀で叩くとあっさり消滅。ちょっと拍子抜けしてしまう。
「お嬢様、どうぞこちらへ」
「いえ、いいです。興味ありませんから」
晴帆は青髪ショートヘアな黒スーツ執事コスプレの子に手首を掴まれ引っ張られてしまう。
「客引き禁止!」
澄乃がすぐに背後からメガホンで頭をぶっ叩いて消滅させた。
「美味しくなりねー、美味しくなられ、美味しくなりんちゃい、萌え萌えきゅんっ♪」
「うひゃっ、ケチャップぶっかけて来たかぁ。ワタシの顔はオムライスじゃないけぇ」
彩果はパティシエメイド服姿栗色髪ツインテールなそいつのお顔に黒インクをぶっかけ、休まずバットで攻撃し消滅させた。
「ぶはっ、フルーツパフェまで」
その矢先に彩果はまた顔にたっぷりぶっかけられてしまう。
「ごめんなさぁい、お嬢様。きゃぁんっ」
巫女服姿で黒髪にカチューシャをつけ、眼鏡をかけた子がすぐ横にいた。とろけるような甘い声で謝罪するや、すてんっと転げて前のめりに。
「ドジッ娘ちゃんタイプかぁ。じゃけど敵じゃけぇ容赦はせんよ」
「きゃぅっ!」
彩果はその一体にもバットでお尻を叩き消滅させた。
「べつにあんたのために作ったわけじゃないけぇねっ! たまたま作り過ぎちゃって、それで、捨てるのは勿体ないかなぁって、思ったんじゃ」
眞凛は背丈一五五センチくらい、セーラー服姿黒髪ロングの子に不機嫌そうな表情ながらも照れくさそうに、フルーツケーキをプレゼントされる。
「ありがとうコスプレメイドのおばちゃん、すごく美味しそう♪」
「おばちゃんじゃなくてお姉ちゃんじゃろ。あたくしまだ十七歳なんじゃけぇ」
「えっ、どう見ても二十五歳くらいに見えるよ」
「そっ、そんなこと、あるわけないがぁ」
「おう、学園モノのツンデレタイプじゃ。年齢は自称じゃけど」
彩果は嬉しそうに微笑む。
「眞凛様、そのケーキ睡眠薬入りじゃけぇ食べたらおえんよぉ。オカヤマッドメイド&レイヤーちゃんはこんなあざとい攻撃もしてくるんじゃよ」
「そうなの。やっぱり敵なんだね」
「ちょっとそこの三つ編みのあんた、営業妨害でうっ、ぶほっ、きゃんっ!」
桃恵から警告されると眞凛はすぐに生クリームをこのメイドのお顔にぶっかけて、休まず腹部をヨーヨーでぶっ叩いて消滅させた。
その直後、
「この子でーれーかわいい。妖精さんみたいじゃ。お尻にお注射したいな。えへへっ」
「あーん、助けてー。あたしお注射嫌ぁい」
眞凛はナース服姿で緑髪ミディアムウェーブ、虚ろな目つきの一体にお姫様だっこされ、そのまま持ち運ばれてしまう。
「誘拐はダメですよ」
澄乃はすぐに追いかけてメガホンで背中を叩き消滅させた。
「あれはヤンデレタイプっぽかったよなぁ」
彩果はにっこり微笑む。
「お兄ちゃん、アタシのお店『じゃるろっと』へ遊びに来て♪ お願ぁい。四五〇円から遊べるよ。萌え萌え萌え♪」
「俺自身がそこへ行くのはまず無理だな」
光太郎は呆れ顔で、背丈一四〇センチ台パジャマ姿ピンク髪ロングボブ、クマのぬいぐるみを抱えていた一体にマッチ火を投げつけて消滅させた。
オカヤマッドメイド&レイヤーちゃん、これにて全滅。
「さっきの戦いはでーれー楽しかったがぁ♪」
お顔の汚れもきれいに消えた彩果は大満足だったようだ。
「あのメイドとレイヤーさんも敵キャラ名通りローカル色出してましたね。ん? きゃっあん! 真っ暗です」
澄乃は何かに上空から襲われてしまった。
「澄乃ちゃんが閉じ込められちゃったっ!」
晴帆は慌てて呟く。
「息苦しいです。熱いです」
澄乃は高さ二メートくらいの壺型の敵に覆い被されてしまったのだ。
「備前焼衛門。体力はどの種類も17。防御力は岡山市内の敵じゃ一番高くて弱点は無しじゃ。火にも強いけぇ」
「こいつ、レベル1で遭遇した時、竹刀一発につき2か3のダメージしか与えられなかったな。沼本さん、すぐに助けるからな」
光太郎はさっそく竹刀で攻撃。一撃では倒せず。
「とりゃぁっ!」
彩果もすみやかにバットで攻撃。まだ倒せなかった。
「すごく硬いね」
眞凛のヨーヨー攻撃。これでも倒せず。
光太郎達がもう一度攻撃を加えようとしたところ、備前焼衛門は消滅した。
「皆さん、ご協力ありがとうございます。酸欠になりかけました。あと十秒遅れてたら体力0になってたとこでした」
代わりに現れた澄乃はハァハァ息を切らし、汗もびっしょりかいていた。彼女も中からメガホンで攻撃していたようである。
「澄乃ちゃん、これ食べて」
晴帆は白桃クッキーを与え、澄乃の体力を全快させた。
「んっ、ばら寿司のモンスターも来たか」
高さ八〇センチ、直径一メートルくらいある寿司桶型のモンスターが光太郎目掛けて近づいてくる。
「こいつは絶対」
光太郎が予感した通り、
「やっぱりな」
ばら寿司型モンスターは上に乗っかっていたレンコン、小エビ、鰆、錦糸卵、かまぼこ、しいたけなどをぶちまけて来た。光太郎は頭からぶっかけられてしまうも、
「光太郎くん、大丈夫? ばら寿司さん、食べ物を粗末にしちゃダメだよ」
すぐ隣にいた晴帆は傘を広げてダメージを回避出来た。
「晴帆様、素早い判断じゃったなあ。ばらズッシーの体力は15じゃよ」
「母さん手作りのよりずっと美味いな」
光太郎は具材まみれになりながらも、楽しげな気分で竹刀で桶の側面をぶっ叩いて消滅させた。
「えびめしもでーれー美味いがぁ」
「ママが時々作る手作りのより美味しい♪ 倒すのが勿体ないよね」
「そうですね。攻撃は熱くてちょっと痛いですけど」
彩果、眞凛、澄乃はドミグラスソース&ケチャップ&カラメルソースなどで味付けされたご飯と錦糸卵まみれになりながらも、近くに現れたえびめし型モンスターと楽しそうに戦っていたというよりぶっかけ攻撃を堪能していた。
そんな中、
「きゃあっ! このピオーネさん、美味しそうだけどエッチだよぅ」
晴帆は空間にいきなり現れた黒紫色ピオーネ型モンスターに胸を服越しに吸い付かれてしまう。
「ピオーネのモンスターもやはり現れたか。マスカットんより粒がでかくて強そうだ。またしても女の子に対してけしからん攻撃だな」
光太郎は一粒あたり直径十五センチくらいあるそいつが晴帆の体から離れたのを狙い、竹刀でぶっ叩く。
「ぐはぁっ!」
次の瞬間、紫の果汁をお顔にたっぷりぶっかけしまったものの、とっさに目を閉じてダメージ回避。
「ピオーネさん、体力17。これも一房で一体じゃ。打撃攻撃は一撃で仕留めんと果汁ぶっかけられるんじゃよ」
「でーれー美味そうなピオーネちゃん、まっ黒焦げにしたるがぁ」
えびめし型モンスターを消滅させて来た彩果はマッチ火を投げつける。
「エッチなピオーネくん、甘くなーれっ!」
眞凛は続けて生クリームをぶっかけた。
これにて消滅。
光太郎の顔と服に付いた果汁の汚れも同時に消えた。
「ぃやぁんっ、もう、何するんですかぁっ、ピオーネさんさん、そんなとこ、吸わないで下さい。あんっ!」
もう一体空間に突如現れたピオーネさんに股間をショートパンツ越しに吸いつかれた澄乃はメガホンで攻撃。会心の一撃で消滅させた。
「お顔紅潮させてでーれーええ表情じゃ。澄乃お姉さんのこの表情は超レアじゃね」
「もう、撮らないで下さい彩果さん」
「あいてっ! ごめん、ごめん」
デジカメをかざして来た彩果の頭もメガホンでパコンッと叩いておいた。
ともあれ、みんなは続いて日本三名園の一つ、後楽園へ。
園内を散策し始めてほどなく、
「巨大アシナガバチじゃ。町中の敵より強そうじゃなあ」
体長二〇センチくらいはありそうなアシナガバチ型モンスター計四匹に遭遇した。ブゥゥゥン、ブゥゥゥンと不気味な大きい羽音を立てて迫ってくる。
「実際強いけぇ。体力は蜂の通り8しかないけど攻撃力と素早さが高いんじゃよ。毒状態に侵されるほどの強い毒はないことは安心出来るけど」
「光太郎くん、早く何とかしてっ!」
晴帆は慌てて光太郎の背後に回り込む。
「いたたた。痛いよ。やめて下さい」
澄乃はアシナガバチ二匹から腕と足に針攻撃されてしまった。
「沼本さん、今助けるよ」
光太郎は竹刀をブンブン振り回すも、全て空振り。
「素早過ぎる。ゲーム上の主人公のようにはいかないか。うわっ、やばっ」
アシナガバチのうち一匹から針攻撃を食らってしまう。
「光太郎お兄さんの動きが遅いんじゃない?」
彩果はバットを直撃させ、あっさり消滅させた。
「大きいから簡単に当たるよ」
眞凛もヨーヨー攻撃であっさり一蹴。
「攻撃力は、俺の方が絶対高いと思う」
光太郎はちょっぴり落ち込む。
「あっ、ヌートリアだ。かわいい♪」
木の側で姿を見つけ、晴帆は嬉しがった。
「晴帆様、これもモンスターじゃけぇ。近づくと噛まれるよ」
「リアルヌートリア、旭川でたまに泳いでるの見るよな」
本物のヌートリアと姿形は似ていたが、光太郎は一目見て敵キャラだと気付くことが出来たようだ。
「おう、フラダンスっぽいのしょおる。リアルヌートリアはこんなことせんよね。写真撮っとこ」
「いい動きだね。面白ぉい」
彩果と眞凛はくすくす笑いながら、腰を振りながらリズミカルに踊る一頭のヌートリア型モンスターの姿を眺めた。
「なんか数がさっきより増えていますよ」
吉備団子を自ら食してダメージから回復した澄乃が指摘する。周囲に十頭以上は集まっていた。
「体力16の岡山ヌートリアちゃんのフラダンスは仲間を呼ぶ合図なんよ」
「昨日俺もゲーム上でひどい目に遭ったな。あの電話さえなけりゃ楽勝だっただろうけど」
光太郎は竹刀攻撃で容赦なく次々と退治していく。
「やはり火が弱点みたいね」
「そりゃっ!」
澄乃、彩果はマッチ火を投げて一蹴した。
「あたしはこれで攻撃するよ」
眞凛も手裏剣で一蹴する。
ゲーム上と同じく全滅後、良寛てまりを落としてくれた。
「マッチ棒使ったのに減ってないわ」
「ほんまじゃ。魔法のマッチ棒じゃなあ」
「あたしの手裏剣の枚数も、よく見たら水鉄砲の中の水も全然減ってないよ。満タンのままだ」
「ゲーム内の武器じゃけぇ無限に使えるんじゃよ。生クリームと黒インクとGペンもね」
「それはいいこと聞いたがぁ。これから使いまくろっと」
「ちなみにマッチ火、外して草木とかに投げちゃっても火事の心配はないんじゃよ」
桃恵が説明した矢先、
「光太郎くーん、助けてぇぇぇ~」
晴帆の悲鳴が。
クワッ、クワッ、クワッ!
体長二メートル近くあるタンチョウ型モンスターに追いかけられていた。
「後楽園のシンボル、タンチョウがモンスター化したやつか。こんなのも出るんだな。でか過ぎ」
光太郎はすぐさま駆け寄り、竹刀で頭部を攻撃。
クワァァァーッ!
タンチョウは怒ったようだ。羽を激しくばたつかせ、光太郎に襲い掛かって来た。
「いってててぇ」
光太郎は断続的につつかれ、攻撃する隙を与えてくれなくなってしまった。
「ごめんね光太郎くん、倒した後回復させに行くから」
晴帆は申し訳なさそうにタンチョウ型モンスターからさらに遠ざかっていく。
「光太郎お兄さん、ワタシが倒すけぇ。必殺! Gペンミサイル」
彩果はGペンを五本束ねて投げつけた。
クックワァァァッ!
見事命中。タンチョウは甲高い鳴き声を上げるとすぐに消滅した。
彩果はマシュマロ饅頭【つるの玉子】を手に入れる。
「これは体力40回復じゃ」
「ほうか。傷だらけの光太郎お兄さん、どうぞ」
「どうも」
光太郎、それを食して完全回復。
「クサガメも敵になってるのか。でかいな。ウミガメくらいはあるぞ」
光太郎は目の前に現れたそいつを見て、感心気味に呟く。
「あいつは後楽園クサガメ。体力は19。攻撃力、防御力高いんじゃよ」
「とりゃっ!」
彩果は甲長一メートル以上はあったそいつの甲羅にバットでさっそく攻撃し始める。
「五発で消えた。一発叩いたら頭も手足も引っ込めて何もして来んなりよったよ。きび田楽も落としていったし、楽勝過ぎじゃ」
ダメージ食らわされず簡単に倒して、自慢げに伝えた。
「きび田楽は体力が20回復するんじゃよ」
「確かに体はリアルクサガメよりでかくて硬いけど弱過ぎだな。俺は四発だ」
「あたしは五発ぅ。最初は口をパカッて開けて襲ってくるけど動き遅いし、一発食らわせたら勝ったも同然だね」
近くに現れたもう二体を光太郎は竹刀、眞凛はヨーヨーを用いて手分けして倒した。今度は白餡入り饅頭菓子【夢二】を落としていく。
「彩果、光太郎くん、眞凛。亀さんいじめちゃダメだよ。かわいそう」
「晴帆さん、そんな甘い気持ちではまた攻撃されちゃいますよ」
「晴帆様、後楽園クサガメの噛み付き攻撃はかなり痛いんじゃよ」
桃恵が警告してからほどなく、
「やぁん、もう、この子もエッチじゃなあ」
彩果は全長一メートルくらいの金色に輝く鯱型の敵にスカートを捲られてしまった。
「かっ、噛まないで下さぁい。皆さん、助けて下さぁい」
澄乃も新たに現れたもう一体に襲われた。お尻を狙われる。
「岡山城金の鯱くん、体力は20。金の鯱型の敵では愛知編名古屋城のが最強じゃ」
「このゲームの敵、なんでエロ攻撃ばっかりしてくるんだよ?」
光太郎は呆れ気味に竹刀で澄乃を襲っていた方の尻尾をぶっ叩いた。
「ぶはっ」
一撃で倒せず、尻尾振り回し攻撃を食らってしまうも怯まずもう一発叩いて消滅させる。
「黒の鯱にしちゃる」
彩果は自分を襲った残る一体に黒インクをぶっかけた。岡山城金の鯱くんは全体が真っ黒になる。
「彩果お姉ちゃん、楽しんでるみたいだね」
眞凛はそいつに手裏剣を投げて消滅させた。
その頃、
「光太郎くぅん、鯉さんが吸い付いて来たのぉ。早くなんとかしてぇぇぇ~」
晴帆は全長六〇センチくらいある紅白の錦鯉型モンスター三匹に膝を狙われていた。涙目で救いを求める。
「任せて晴帆ちゃん、おい鯉、おまえらのえさは麩だろ」
光太郎は竹刀一撃で一匹を一蹴。
「空飛ぶ鯉だぁっ!」
「晴帆お姉さん、その傘で叩いたら楽に消せると思うんじゃけど。鯉こくにしちゃるよ」
すかさず眞凛はヨーヨー、彩果はバット攻撃を食らわしそれぞれ一撃で楽々消滅させた。
「このモンスター化した鯉さん、本当にエッチですね。わたしも胸を吸われちゃいました」
澄乃は新たにもう一匹現れた、全長八〇センチくらいあった黄金型のをマッチ火攻撃であっさり消滅させた。
「澄乃お姉さんの胸、ぺったんこなのによく吸われたなあ。不思議じゃ」
「彩果さん、それは失礼ですよ」
「あいてっ!」
彩果、爽やか笑顔の澄乃からのメガホン攻撃により、おでこにわずかにダメージ。
みんなは後楽園から出たあと、城下電停から路面電車利用でJR岡山駅へ。
いよいよ他の町へ移動開始だ。
「倉敷の方が敵手強いけぇ、児島から攻めて行きましょう」
桃恵の勧めにより、
「児島はジーンズで有名なとこだな」
光太郎が代表して六人分の児島までの乗車券を購入。
みんなは高松行きマリンライナーに乗り込んだ。
☆
児島駅到着後、みんなはタクシー利用で瀬戸大橋が一望出来る田土浦公園を訪れ、付近を散策していく。
「リアル瀬戸大橋も立派じゃなあ」
桃恵は楽しそうに瀬戸大橋と周辺の島々の写真を自分のデジカメに収めた。
「すごくいい風景だから敵なんて出て欲しくないなぁ……と思ったら、出ちゃったよ」
晴帆は目にした途端、しょんぼりした気分になってしまう。
「ワタリガニのモンスターからご登場か。瀬戸内海ではよく獲れるもんな。めっちゃでかくて美味そうだ」
光太郎は興味津々に横歩きで近づいてくるそいつを観察する。
「あいつは児島湾ワタリガニくん。体力は23。攻撃力、防御力高いんじゃよ」
「ワタシもでーれー食べたい。とりゃっ!」
彩果は甲幅一メールくらいあった黄褐色水玉模様のそいつの甲羅にバットで攻撃。
しようとしたが、
「受け止められたがぁ。確かに敵手強くなりよるね」
けれどもバットを挟まれてしまう。
「きゃんっ、もう、エロガニじゃなあ」
もう片方のハサミで服をバチンッと切られてしまった。彩果のブラが露になる。
「こいつならどうじゃ」
彩果はマッチ火を投げつけた。
すると児島湾ワタリガニくんはボワアアアッと勢いよく燃えてたちまち消滅した。
「こいつ、打撃攻撃の抵抗力強いみたいだな。俺も竹刀ハサミで受け止められたよ」
「わたし、泡攻撃も食らっちゃったわ。そんなにダメージにはならなかったけど」
すぐ近くにもう三体現れた児島湾ワタリガニくんを光太郎と澄乃はマッチ火、
「飛び道具使えば楽勝だね」
眞凛は手裏剣で攻撃し全滅させた。
「光太郎くん、彩果、眞凛、澄乃ちゃん。そんなにかわいいカニさんじゃなかったけど、倒すのはかわいそうだよ。見送ってあげるべきだったよ」
「晴帆さん、気持ちはよく分かるけど……」
「晴帆様の弱点は敵に対しても心優し過ぎることじゃなあ」
「晴帆お姉さん、敵キャラ退治旅始めてから一回も敵攻撃してへんがぁ。ここは心を鬼にして退治しなきゃおえんよ」
「それは、かわいそうで私には出来ない」
晴帆は困惑顔で主張する。
「晴帆様、敵キャラは触感はあるけどグラフィックで出来てて命は宿ってないけぇ、容赦なく攻撃したらいいんじゃよ」
「グラフィックでも、やっぱり無理だよ」
「晴帆様、そんな甘いこと言いよるうちに背後に敵が」
桃恵はやや表情を引き攣らせ、慌てて伝える。
「えっ!」
晴帆はくるっと振り向くや、
「ぎゃああああああああああああああああああああっ!」
甲高い悲鳴を上げて、そこにいた敵を和傘で殴りつけた。
一撃で消滅。
長さ一メートル、直径五〇センチ以上はある巨大なナマコ型モンスターがいたのだ。
「さっきのは備讃瀬戸のナマコくん、体力は24じゃ。備前焼衛門以上に防御力高いけど晴帆様、会心の一撃が出よったね」
「晴帆お姉ちゃん、すごぉい!」
「やりよるがぁ晴帆お姉さん」
「お見事でした。晴帆さんにナマコや節足動物、昆虫、爬虫類、両生類型の敵と戦わせると、常に会心の一撃を出せそうですね」
眞凛と彩果と澄乃はパチパチ拍手する。
「怖かったよぅ」
晴帆は涙目を浮かばせ、光太郎にぎゅっと抱き付いた。
「確かにあんなでかいナマコは怖いよな。あの、晴帆ちゃん、わざわざ抱き付かなくても」
「光太郎様、晴帆様、背後にまた新たな敵が」
「えっ!」
「またか」
晴帆と光太郎はとっさに後ろを振り向く。
体長一メートルくらいのクルマエビ型モンスターがいた。
「私、えび、苦手。あのもじゃもじゃした足が」
晴帆は慌てて光太郎の体から離れて逃げていく。
「こいつの名は備讃瀬戸クルマエビくん。体力は20。こいつも殻で覆われとるけぇ防御力高いんじゃよ」
「刺身で食ったらでーれー美味そうじゃ。とりゃぁっ!」
彩果が甲羅に向けて攻撃すると、備讃瀬戸クルマエビくんはビチビチ激しく跳ねる。
「ぎゃぁっ、こっち来たぁーっ!」
逃げ惑う晴帆。
「俺に任せて」
光太郎は竹刀を構え、バットでボールを打つかのように備讃瀬戸クルマエビくんの歩脚部分に叩き付ける。
備讃瀬戸クルマエビ、裏返しになって自由に身動き不能に。脚をバタつかせる。
「クルマエビのお刺身落としていかないかなぁ」
眞凛がさらにヨーヨーで容赦なく攻撃を与えて消滅した。眞凛の期待したアイテムは残さず、岡山瀬戸内海えび煎餅を残していった。
「なかなかしぶとかったな。うぉわっ! 海からアナゴが飛び出て来たぞ。いかにも強そうだ」
光太郎のすぐ目の前に新たな敵が現れた。
体長は一メートルくらいあった。本物のマアナゴとさほど変わらぬ大きさだ。鋭い歯をむき出しにして襲い掛かってくる。
「こっ、怖ぁい。食べられちゃう!」
晴帆はまたも慌てて逃げ出す。
「アナゴ寿司にしたら美味しそう♪」
眞凛は食べたそうにじーっと眺める。
「備讃瀬戸のアナゴさん、体力は27じゃ。児島の敵では攻撃力最強。噛み付き攻撃は大ダメージ食らうけぇ注意しねー」
桃恵は笑顔で警告。
「光太郎お兄さんも逃げてるし。まあ確かに打撃はやめた方がよさそうじゃ。これは、こいつで倒そうっと」
彩果は接近戦は危険だと感じ、備讃瀬戸のアナゴさんに手裏剣を投げつけた。
「必殺、アナゴ攻め!」
眞凛は水鉄砲で攻撃。
まだ倒せなかった。
備讃瀬戸のアナゴさんは地面をビチビチ跳ね回る。
「眞凛さん、アナゴさんに水攻撃はあまり効かないと思うわ」
澄乃はこう助言し、マッチ火を投げつけた。
備讃瀬戸のアナゴさん、まっ黒焦げになったがまだ少し動く。
「みんなありがとう」
光太郎がすっかり弱ったそいつを竹刀で叩きつけ、ようやく消滅。
またすぐに新たな敵が現れ、
「今度はたこかよ。この近くの下津井港は名産地だもんな。またしてもでかいな」
「姿はマダコさんだけど、サイズはミズダコさん並ね」
光太郎と澄乃は感心気味に呟く。
「私たこ好きだけど、あれだけ大きいと恐ろしいよ」
晴帆は思わず目を背け、光太郎の背後に隠れた。
体長二メートルを優に超す、マダコ型モンスターが八本の触腕をうねらせながら近づいて来たのだ。
「あいつは備讃瀬戸たこ。体力は26。墨ぶっかけと触腕の吸盤絡み付き攻撃に気をつけねー」
「この敵もエロ攻撃して来そうじゃなあ」
彩果はバットで頭を一発叩いた。
「うっひゃっ、避けれんかったわ」
次の瞬間、顔と服に墨をぶっかけられてしまう。
「ひゃぅっ! もう、やっぱエロダコがぁ。お仕置きじゃっ!」
さらに触腕の吸盤で胸に絡み付かれたが、すぐにバットで攻撃して引き離した。
「遠くから攻撃した方がいいね」
眞凛は手裏剣を投げつけダメージを一発与えた。
「巨大たこ、仕返ししたるわ~。本当のたこ焼きにしちゃる」
彩果は黒インクを投げつけ、備讃瀬戸たこを墨まみれにすると休まずマッチ火を投げつけて退治。墨の汚れもきれいに消える。
「今度は鯛だぁ。美味しそう。あたし、お刺身で食べたいな」
「ワタシも刺身派じゃ」
「私もー」
「わたしはお茶漬けが一番いいです。あの大きさなら、かなりの人数分ありそうですね」
体長は二メートルくらいあり、海中で泳いでいるのと変わらぬ動きで中を漂っていた。
「こいつは備讃瀬戸の鯛ちゃん。体力は28。お隣兵庫編明石の鯛ちゃんに比べればかなり弱いんじゃよ」
「的がでかいし動きも遅いし、楽に勝てそうだ」
光太郎が果敢に立ち向かっていったら、
「うぉわっ!」
急にくるっと向きを変えた備讃瀬戸の鯛ちゃんに体当たりされてしまった。
光太郎は吹っ飛ばされてしまう。
「鯛の体当たり食らったら、かなりダメージ貰うけぇ他の皆様も気をつけて」
桃恵は注意を促しながら、光太郎に吉備団子を与えた。
「サンキュー桃恵ちゃん、俺たぶん腕折れてたと思う」
光太郎、完全復活。
「やばそうじゃ。逃げるって選択肢もありだよね?」
「ここは逃げましょう」
「その方がいいよ。光太郎くんみたいに大怪我しちゃう」
「あたしは戦いたいけどなぁ」
「うわっ! 私の方襲って来たぁ」
晴帆はとっさにその場から逃げ出す。
「俺に任せて。今度は上手くやるから」
光太郎はマッチ火を備讃瀬戸の鯛ちゃんに向かって投げつける。
備讃瀬戸の鯛ちゃん、一瞬で炎に包まれて瞬く間に消滅した。
「光太郎お兄ちゃんすごーいっ! これぞ本当の鯛焼きだね」
「光太郎様、弱点を上手く利用しましたね」
「やっぱ光太郎お兄さんは主人公じゃわ」
「ありがとうございます光太郎さん」
「光太郎くん、勇気あるね」
「いや、そんなことないと思う」
「さっきの敵に関しては姿残しといて欲しかったなぁ。ぎゃんっ、いたぁい」
彩果の体にビリッと痛みが走る。
「いってぇ! 俺も食らった。くらげの攻撃だな。動け、ない」
光太郎の予想通り、すぐそばに傘の直径三〇センチくらいのあかくらげ型モンスターが空中を漂っていた。
「彩果様、光太郎様。痺れ状態に侵されちゃいましたか。クラゲの針は毒針じゃけど、この場合毒状態じゃないけぇ毒消しでは回復出来んのじゃよ。倒すかしばらくすれば自然に治るけぇ。備讃瀬戸あかくらげ、体力はたったの21で防御力も低いんじゃよ」
「くらげさん、くらえーっ!」
眞凛の手裏剣一撃であっさり消滅。
「体が動かんかったけど、マッサージされとるみたいでけっこう気持ちよかったよ」
「俺は不快に感じたけどな」
彩果と光太郎は痺れ状態から回復した。
「あっ、また初めて見る敵現れたがぁ。甘月堂のいちご大福もモンスターになってるんか。でかっ!」
「あれもめちゃくちゃ美味しそう♪」
晴帆は飛び跳ねながら近づいてくる直径一メートルくらいあった白色なそいつをうっとり眺めてしまう。
「いちご大福んは体力34じゃ。こいつも体当たり強烈じゃけぇ気をつけねー」
「あたしが倒したーい」
眞凛は楽しそうにヨーヨーでぶっ叩いて消滅させた。
「フルーツ大福詰め合わせ残していったがぁ。太っ腹な敵じゃなあ」
彩果は嬉しそうに拾い上げ、アイテムに加えた。
「児島で手に入るフルーツ大福はどの種類もゲーム上では体力が30回復するんじゃよ」
桃恵が伝えた直後、
「ぎゃあああああああっ! あっ、彩果お姉ちゃあああああっん」
眞凛は突然びっくりするような大声で叫び、彩果の背中にぎゅぅっとしがみ付いた。
「眞凛、あれ、そんなに怖いかな?」
彩果はにこにこ微笑む。
「怖いよ、怖いよ」
眞凛はだんだん泣き出しそうな表情に変わっていく。
「あれは確かにめちゃくちゃ怖いよ。夢に出て来そう」
海から現れたものを見て、晴帆は同情してあげる。
「こんな敵まで出るなんて、さすが水島の戦いの舞台の近くなだけはあるわね」
「地域に纏わる亡霊もモンスター化されてるんだな。強そうだ」
澄乃と光太郎はちょっぴり感心していた。
みんなの目の前に現れたのは、海から姿を見せる全長四メートルくらいはありそうな大きな青白い腕だったのだ。
「亡霊のみならず妖怪もモンスター化されてるんじゃよ。水島合戦船亡霊の体力は35。弱点は水じゃ。特に手強い相手でもないんじゃよ」
桃恵はにっこり笑顔で伝える。
「杓をかせ~、杓をかせ~」
水島合戦船亡霊は物悲しい声でそう訴えながら陸地に上がり、光太郎達の方へどんどん近づいてくる。
「眞凛、倒してあげたら?」
彩果はにやけ顔で楽しそうに勧める。
「怖い、怖い」
眞凛はそう言いつつも、勇気を振り絞って彩果の背後から少し顔を出して長さ二メートル近くはありそうな手のひらに狙いを定め、水鉄砲を発射した。
ぐわぁぁぁぁぁ~。
水島合戦船亡霊は断末魔の叫び声を上げる。
「まだ消えないよぅ」
「眞凛様の今の攻撃力なら、もう一発できっと消えるけぇ」
「消えて、消えてぇぇぇ」
眞凛は涙目でもう一発発射した。
ぐぉぉぉぉぉぉぉ~。
これにて見事消滅。
「怖かったよぅぅぅ」
ぽろりと涙を流す眞凛。
「眞凛、よく頑張ったね」
晴帆は優しく頭をなでてあげた。
「ちなみにさっきの敵、ゲーム上で要求通り柄杓を差し上げたら亡霊仲間がどんどん増えて厄介な目に遭っちゃうけぇ、レベルの低いうちは試さん方がええよ。まあ柄杓を手に入れる状況もホームセンターとかで購入せん限り生じんけど」
桃恵が注意点を述べてほどなく、ラテン系の陽気な音楽が聞こえて来て踊りながら近づいてくる、華やかで露出たっぷりな衣装を身に纏った三体の南国系褐色肌のお姉さん達がみんなの目の前に姿を現した。
「サンバのお姉ちゃんだぁっ!」
泣きっ面だった眞凛の表情は一気に明るくなり、満面の笑みが浮かぶ。
「ブラジリアンパークの敵か」
「ほうじゃ光太郎様。児島ブラジリアンサンバ姉ちゃんの体力は32。ちなみにゲーム上では入園料払ってブラジリアンパーク内に入らんと遭遇出来んけぇ皆様得しょおるよ」
「ぐわぁっ!」
光太郎は一体に腰振りで弾き飛ばされてしまった。
「光太郎くん、これ」
晴帆は慣れた手つきでゆべしを取り出し回復させる。
「光太郎お兄さん、見惚れてたじゃろ? 気持ちはよく分かるけど敵じゃけぇ」
彩果もエロティックな姿にちょっとときめいてしまいつつも、容赦なくブラジリアンサンバ姉ちゃんの丸見せなおへそ付近をバットでぶっ叩いて一撃で消滅させた。
「サンバのお姉ちゃん、くらえーっ!」
眞凛は水鉄砲二発。
「モンスター化されてるのが勿体無いくらい見事な踊り方ですね」
澄乃はマッチ火で消滅させた。
「ちなみにゲーム内ブラジリアンパークで主人公らにバンジージャンプやスカイサイクルを体験させると、経験値アップするんじゃよ」
「ブラジリアンパーク、何度か行ったことあるけどスカイサイクルは恐ろし過ぎるよね」
「わたしもあの乗り物はブラジリアンパークのアトラクションで一番ダメでした。世界一怖い評されるだけはありますよ」
晴帆と澄乃は過去を思い出し、苦い表情を浮かべる。
「ワタシはでーれー好きなアトラクションじゃ」
「あたしもーっ。あれめちゃくちゃ楽しいよね。お化け屋敷の方がずっと怖いよ」
「俺はあれよりジェットコースターの方が怖いと思うけどな。スカイサイクルはただ高い所にあるだけだし」
「光太郎さん、その点は勇敢ですね。ん? いやぁん、なんかべっとりした海藻らしきものが頭に覆い被さって来ました。前が見えません。磯臭いです」
澄乃は何者かに先攻された。
「アマモのモンスターか。沼本さん、大丈夫か?」
「息苦しいですぅ」
「濡れてて重いな」
光太郎は澄乃の顔にこびり付いたアマモを手掴みして引き離してあげた。
「ありがとうございます光太郎さん。疲れました」
澄乃は体力をかなり消耗してしまったようだ。
「澄乃ちゃん、これ食べて」
晴帆はきび田楽を与えて全快させてあげた。
「味野湾アマモんは体力27じゃ。弱点は炎。皆様、まとわりついて身動き封じてくるけぇ注意しねー」
「分かった。うわっ、動き速っ!」
光太郎も味野湾アマモんに包み込まれてしまう。
「鬱陶しい」
けれどもすぐに自力で引き離した。
次の瞬間、味野湾アマモんはさらに巨大化した。
「うわっ!」
光太郎は驚いて仰け反る。
「水かけたら大きくなっちゃった」
眞凛はてへっと微笑む。水鉄砲で攻撃したのだ。
「眞凛様、味野湾アマモんは水攻撃するとパワーアップしちゃうんじゃよ。今の体力値は40相当かなあ?」
桃恵も楽しそうに笑っていた。
「これはやばいな」
光太郎も苦笑いする。
「増えるわかめちゃんと同じじゃなあ。ワタシに任せて」
彩果がすみやかにマッチ火を投げつけて消滅させた。
みんなは付近を引き続き歩き回っていると、
「いってっ!」
光太郎、
「きゃっ!」
晴帆、
「いったぁ。サッカーボールじゃ」
彩果、
「きゃんっ! またブラジリアンパークの敵かなぁ?」
眞凛、
「いったぁい。犯人はどこにいるのかしら?」
澄乃、
「いたたっ。うちまで狙われるとはなあ。児島でこの攻撃方法は、間違いなく児島ジーンズくんのしわざじゃなあ」
桃恵、
全員背後からサッカーボールをぶつけられた。合計六球地面に落ちたそれはすぐに自然消滅する。
「どうだおまえら」
ほどなく木の上から、デニムのジーンズの形をした物体が姿を現す。そいつは体はないものの人間の言葉でしゃべった。
「また先攻されちゃったわ。児島ジーンズくんさん、これくらいでわたし達が怯むと思った?」
「そんなにダメージはないぞ」
澄乃と光太郎は怒りの表情だ。
「おれの必殺技はこれだけじゃないんだぜ。くらえっ! ジーンズ旋風」
児島ジーンズくんは自慢げに言い、超高速回転した。
周囲一体にブワアアアアアッと突風が起きる。
「きゃぁっ!」
「いやぁん、こいつジーンズの癖にエッチがぁ」
晴帆と彩果のスカートが思いっ切り捲れ、ショーツが丸見えに。
「うわっ!」
光太郎はとっさに視線を逸らす。
「よそ見するなよ俺よりださいジーンズ履いてる少年。せっかく見せてやったのに」
「ぐわっ!」
児島ジーンズくんに飛び蹴りを食らわされてしまった。
「いってててっ、背骨折れたかも。起き上がれねえ」
光太郎は弾き飛ばされ木の幹に叩き付けられてしまう。
「光太郎くぅん、大丈夫?」
晴帆は心配そうに駆け寄っていく。
「晴帆お姉ちゃん、危なぁいっ!」
眞凛は晴帆の背後に迫っていた備讃瀬戸のアナゴさんをヨーヨーで攻撃。
会心の一撃で退治して、瀬戸大橋まんじゅう岡山物語を手に入れた。
「ありがとう眞凛」
「どういたしまして」
「晴帆様、戦闘中に他の仲間の心配をし過ぎると、自分もやられちゃうんじゃよ。光太郎様ならうちが回復させるけぇ。光太郎様、これを」
桃恵はすぐさま瀬戸大橋まんじゅう岡山物語を光太郎に口に放り込んだ。
「おう、痛み消えた」
光太郎、完全回復だ。
「光太郎さん、わたしは問題なしですよ。あれ?」
澄乃の穿いていたショートパンツもビリッと破れて、熊ちゃん柄のショーツがまる見えに。
「俺、何も見てないから」
光太郎はとっさに顔を背けた。
「澄乃お姉さんのパンツも子どもっぽくてでーれーかわいいがぁ」
彩果はにこにこ微笑む。
「あの、光太郎さん、なるべく早く忘れて下さいね」
澄乃は頬をカァッと赤らめ、ショートパンツを両手で押さえながらお願いする。
「分かった」
光太郎は澄乃に対し背を向けたまま承諾した。
「油断したな」
児島ジーンズくんは表情は分からないが、嘲笑っているように思えた。
「児島エリアで最強の敵、児島ジーンズくん。体力は38じゃ。弱点は見た目通り炎じゃよ」
「やっぱ火に弱いんか。なんか回転する前より色落ちてる気がするがぁ」
「あっちちちぃぃぃっ、何てことしやがる。おれさまは児島の伝統産業だぞぉぉぉっ!」
光太郎にまた飛び蹴りを食らわせようとした児島ジーンズくんに、彩果はマッチ火攻撃を食らわす。
「児島ジーンズくん、火、消してあげるね」
「サンキューお嬢ちゃん、でもおれさま、水も苦手なんだ。重くなって動きが鈍っちまう」
眞凛は真っ黒焦げになった児島ジーンズくんに水鉄砲を食らわし、ぐっちょりにさせた。
「かなり倒しやすくなったようだな」
「ぐえっ!」
光太郎がすぐに竹刀攻撃を食らわし退治成功。
「わたし、児島では酷い目に遭ったな」
澄乃はショートパンツの破れも瞬時に元に戻ったものの、しょんぼりした気分だ。
「澄乃様、元気出しねー。澄乃様の本領を発揮出来るイベントも道中であるけぇ。それは澄乃様がおらんと突破出来んと思うんじゃ」
「どんなイベントなのかしら?」
「それは着いてからのお楽しみということで。皆様、ここの敵もさほど苦戦せずに退治出来とるけぇ、そろそろ倉敷に移動しましょう」
「そうだな。ん? 眞凛ちゃん、体調悪いのか?」
光太郎は異変に気付いた。
「あたし、ちょっと頭がくらくらして来たの」
眞凛は地面に座り込んでしまっていた。
「眞凛、熱中症になっちゃった?」
晴帆は心配そうに問いかけた。
「そうみたい」
眞凛は俯き加減で伝える。
「眞凛、日陰に移動させちゃる」
彩果がおんぶしてあげようとしたら、
「眞凛様、これ飲みねー」
桃恵は玉桃ジュレを差し出す。これもゲーム内にあったものだ。
「ありがとう桃恵お姉ちゃん」
眞凛は一気に平らげると、
「気分、すごく良くなったよ♪」
瞬時に完全回復。
このあとみんなはバス利用で児島駅へ戻り、直近でやって来た特急列車に乗り込む。
☆
「皆様、岡山市内に戻ったら、そこの敵ともう一度戦ってみねー」
桃恵の勧めにより、光太郎達は終点岡山駅到着後、再び駅近辺の人通りの少ない所をぶらつくことに。
「全然痛く無いがぁ」
彩果はトンカツラーメンくんからまた熱々スープをぶっかけられたが、ほぼノーダメージ。このあと丼部分にバット一撃で消滅させた。
「確かにめっちゃ弱く感じる」
「武器がいらないね」
光太郎と眞凛はうらじゃ兄ちゃんを平手打ち一発で倒した。
「白桃んは指でつついただけで倒せますね」
澄乃は五体で一斉に襲って来た白桃んをあっという間に撃退。
「姉ちゃん、ええ桃尻じゃのう。わしのお供にしたるわ」
「あーん、またスカート捲って来たぁ。やめてー。あっ、あれ?」
晴帆は桃太郎人形くんの肩をポンッと押しただけで消滅させることが出来た。
「やったぁ! アニヲタ君倒せたよ。お小遣いぎょうさんゲットじゃっ! ワタシの素早さが上がったおかげじゃな」
彩果は岡山のアニヲタ君の姿を見かけるや、すぐに追いかけてGペンミサイルを投げつけ消滅させることが出来た。
レベルアップを実感したみんなはJR岡山駅に戻り、各駅停車で倉敷へ。
「ここはどんな敵が現れるか楽しみじゃ。戦う前にお昼ご飯食べよう。もうお昼過ぎてるし。ワタシ、回復アイテムけっこう使ったけど普通にお腹すいて来たがぁ」
「回復アイテムは食糧代わりになるほどカロリーないけぇ、よほど大量に摂取せんと満腹感は得られんのじゃよ」
「リアルのものと同じか凌駕するくらいの美味しさなのに、そんな仕組みになっているのは素晴らしいですね」
「ちなみにゲーム上では日中、ゲーム内時間で七時間くらい食事させずに冒険させ続けとったら空腹の表示が出て敵からダメージ受けんでも体力減ってくるんじゃよ」
「そこも面倒なリアル感だな」
☆