数億光年の孤独 [キキ] 冒険の始まり
3月の星空はよく澄んでいてまだ冬の名残を引きずっていた。
「寒いかい。」
僕は聞いた。
「大丈夫。」
彼女は言った。
僕達はしばらく黙って星空を眺めていた。
天然のプラネタリウムはどこか寂しく小さな星達は僕達に何かを訴えているかのようだった。
あるいはそれはついさっき彼女の話を聞いたせいかも知れない。
彼女は黙って星空を眺めていたが、僕には彼女が星達と何か話をしているように見えた。
僕は車からビールを一つ持って来て半分ほど飲んだ。
彼女にもビールを勧めようとしたのだが、今は話しかけてはいけない気がしたので結局、止める事にした。
飲みかけのビールの缶を灰皿代わりに煙草を吸い、しばらくまた星空を眺めていた。
「私、怖いの。」
彼女は言った。
「このまま彼らがみんな生きる事をやめてしまったら。この綺麗な星空は永遠に損なわれてしまう。そしたら私達はこの暗闇の中、何を目印に生きて行けばいいの。」
彼女は酷く怯えているようだった。
僕は彼女の体を引き寄せて抱きしめた。
僕は何か言って彼女の持つ不安を取り除いてあげたかったのだが、彼女の言った言葉の意味がまだ分からなかったので僕には黙って彼女を抱きしめる事しか出来なかった。彼女は僕の胸の中で静かに泣いていた。
どの位の時間が経っただろうか。
僕は彼女を胸に抱き、数億万ある星の中から無作為に選んだ小さな星を一つ見ていた。
それはとても儚く光る星だった。その儚い光が僕には数億光年の孤独の中で一人泣いている少女に見えた。
僕はその星を[キキ]と名付ける事にした。
僕には[キキ]が彼女の言う生きる事を止めてしまった小さな星達の一つである事が分かった。
僕は[キキ]を死なせたくはなかった。
彼女が顔を上げた。
「ごめんなさい。もう大丈夫よ。」
彼女は笑顔で言った。
「いいんだ。それよりそろそろ山を降りないかい。」
「どうしたの。どこかに行くの。」
「これ以上小さな星達を死なせる訳にはいかない。君の小さな星も取り戻さなければならないしね。」
こうして僕達の損なわれた小さな星達を取り戻す冒険が始まる。