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「果てしない鉄道物語」

線路に降りてはいけません

踏切では、左右を確認しすばやく渡りましょう

列車が見えていない場合でも、決して立ち止まらないでください

 とりあえず俺は立ち上がった。

 ここにいても、得るものがなさそうだし、座り込んでいる意味はない。

 どこかに移動して誰かから情報を得るべきだ。


「そうだ、ホームがいっぱいあるなら、まずはここが何番線のホームなのか覚えておかないと」


 そこを確認するのを忘れると、万が一この場所に戻りたくなった時に苦労する。

 逆にそれさえ覚えておけば、ラストダンジョン東京駅すら容易に攻略できるのだ。

 このホームが何番線なのか表示を探すと、えーと……400番線と401番線!? この駅、やっぱり気が狂ってるぞ!

 東京駅のホームでも20は超えないと思うんだけど、この国は、どれだけ鉄道輸送が盛んなのだろう?

 そう言う物がありそうな国といったら、アメリカ、EU、中国……ないな。どんな大国でも、さすがにホーム三桁はないだろ。

「っていうか、国の大きさとかじゃないよなぁ」

 駅が広すぎたら、不便すぎる。

 文明レベルの違い、だろうか? 例えば、鉄道以外の交通手段が存在しないとか。


 だとしたら、ここはどこなのか。地球ではない、のかもしれない。

 もしかして銀河鉄道とかか。

 宇宙を又に掛ける様な人々なら、ホームの数ぐらい無視するだろう。

 端から端まで歩いて一時間とかでも、輸送距離と比べたら大して問題にならないだろうし。


 ともかく、俺は歩き出す。根拠はないが、右側へ。

 ホームの端が階段とスロープになっていて、線路に降りれるようになっているらしい。

 左右を見回し、何も来ていない事を確認してから線路を渡る。


 幅十メートルほどのホームを横断し、また線路。左右を確認して渡る。

 何か面倒くさい。

 ここには、跨線橋こせんきょうのような物はないのかな?


 それにしても、どうして俺はこんな所にいるのだろう?

 考えられるのは、異世界転生のような現象。

 だってトラックに轢かれたし。

 機関車を保有しているのがチート要素で、借金の返済が課題だとすると、つじつまは合う。

 いや、合わないけど。

 だとしたら、異世界人と入れ替わりしたとか?

 自分でも何言ってるのかよくわからない。

 いっそ、トラックに轢かれて重体になってる間に夢を見ているとかの方が正しいのかも。


「そうだ、機関車……」

 確か、機関車を担保にした、とか言ってなかったか?

 担保と言うからには、未だに俺が自由にできる状態にあるはずだ。厳密には俺じゃなくて、入れ替わり前の誰かだけど。

 とりあえず、それを確認しておこう。

 どこに行けばいいのかな?

 機関車はたぶん、車庫とか操車場とかに停めておくだろう。


 俺は周囲を見回すが、もちろん操車場など見当たらない。というか、ホームと線路、あとは時々ホームの端に建っている小屋しか見えない。

 右側を見れば、線路が続く先は山と森、反対側はホームが長すぎて向こうがかすんで見える。

 広すぎる。

 この駅の利用者は不満を漏らさないんだろうか? 列車を降りた後、駅の外に出るまでに歩いて一時間ぐらいかかるなんて。俺だったら嫌だ。こんな駅で降りたくない。


 仕方がないので、歩くのを再開。

 ほんとうにどこまで行けばいいんだろう? 駅員でなくても良いから誰かに道を聞いてみようかと思ったが、その誰か、というのが最低でも五百メートルぐらい先にいるのだ。

 遠すぎる。俺が歩いていく前にどっか行っちゃうんじゃなかろうか?


 さらに線路とホームを歩き続ける。

 右から吹いてくる潮風が気持ちいい。

「……ん?」

 ふと右を見ると、線路が続く先は砂浜だった。陽光にさんさんと照らされる中、白銀の線路が二組、波を被りながらも延々と延びている。

「あれ? なんかおかしくね?」


 慌てて十メートルほど戻る。

 ちょうどホームの端に小屋が建っていたので向こうの線路まで。

 やはり、こっちの線路の果ては森と山に続いている。

 なんだこれ?

 山と海、ほんの十メートルで切り替わるわけがない。

 境い目はどうなってるのか確かめたいのに、ちょうどいい所に小屋が建っていて、よく見えない。

 小屋の両側を行ったり来たりして確かめて、あり得ない状態が維持されているのだけは確認できた。

 時空間が歪んでいるとか、そういう系だろうか?


「もう意味分からないよ」


 途方に暮れた俺は線路に立って呆然と遠くを見る。

 と。

 キィーッ、と悲鳴のような音が響いた。ブレーキ音のようにも聞こえる。

 音が来るのは前からだが、何も見えない。

「え? 後ろか?」

 振り向いたが、何の異変もない。どういう事だ。

 改めて前を見ると、見えた。

 オーロラのように七色に輝く蒸気機関車が。

 常識を無視した速度で近づいてくる。


 なんだあれ? と思っていると、それは一瞬ぶれた後、黒い色に変わった。

 まるで、光が実体化したかのように。

 黒くて重い蒸気機関車が、こっちに向かって走ってくる。

 モクモクとあがる黒煙、シュゥシュゥと吐き出される蒸気、ゴトゴトと揺れる俺の足元。

 え? もしかして俺が立っているレールの上を走ってる?

 あれ? もしかしてこれ、俺が轢かれるパターン?


 早く横に逃げろよ三メートルも移動すれば十分だろ、と頭のどこかで声がする。

 そんな事は分かっている、けど足が動かないんだよ足が!

 後で思い出してスローモーションに思えているだけで実際は一秒もないんだけどな、ともう一人の自分が冷笑した。

 何だよその無責任さは?


 途端、横から何かに吹き飛ばされた。

 トラックにひかれた瞬間の衝撃とは違う、全身を持ち上げられるような、無重力の間隔だった。

「おわっ?」

 空中で一回転した後、俺はホームに叩き落された。

 顔を上げると熱い蒸気がつむじ風を上げて、目の前を列車が高速で通過していく。

「バッキャロー! 線路に突っ立てるんじゃねーよ!」

 機関車から運転士がこっちに向かって叫んでいる。

「し、死ぬかと思った……」

 いや、既に一回死んでるはずなんだけれど。


 目の前を通り過ぎていく機関車と何十両もの客車。

 先頭の機関車が遠く見えなくなった頃になって、ようやく列車は止まった。

 客車からぞろぞろとたくさんの人が降りてきて、静かだった駅がにわかに活気付く。


 だが俺はそちらから目を離し、向かい側のホームを見る。

 機関車に轢かれかかった俺が助かったのは、横から吹き飛ばされたからだ。

 そして、俺を吹き飛ばした物、というか者がいた。


 赤色。それは吹き飛ばされた瞬間にも見えた。

 そいつは、列車が通り過ぎるまでの数十秒の間、身動きもせずそこに立っていたようだ。

 真っ赤な浴衣を着た少女だ。

 浴衣と言ってもあまり清潔感がないというか、少し汚れているし、裾のあたりはボロボロに穴が開いて日焼けしていない足が見えている。

 足は、わらじだろうか? 西洋風な世界観をぶち壊しにしておきながら、ちっとも不協和音を発しない、謎の風格を備えている。

 手には不釣合いに大きな扇子を持っていて、見せびらかすようにゆらゆらと揺らしている。


 少女は、左右を何度か確認してから、歩幅の狭い歩き方でこっちにやってくる。

 線路を渡り、こっちのホームに上がって、座り込んだままの俺の横にしゃがむと微笑んだ。いや、本当に笑っているのだろうか?  何か人をとって食いそうな不気味さが見え隠れしている気がするのだけれど。

「あら、良かったですね。生きてましたか」

「お、おう」

 鈴を鳴らすような声に言われ、俺はそう答えることしかできない。

 少女は俺と同年代か少し年上と言った様子。

 日本人形のような黒髪のおかっぱ頭。背丈は俺と同じぐらい。

 あとかなり美人だ。

「えっと、誰?」

「キュウナです。よろしく」

 少女は不自然な笑みを浮かべながら名乗った。



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