転生トラック(嘘)
トラックのシーンは書くのが面倒だからという理由により省略されました。
脳内補完でなんとかしてください。
全身に激しい衝撃が走って、意識が暗闇に吹き飛ばされた。と、思ったら、すぐに明るくなった。
病院で目が覚めたとか、そういうのであればよかったのだけれど、何かが違う。
俺は椅子に座っていた。目の前にはちゃぶ台ぐらいの高さの机があり、書類のような物が何枚も並べられている。
「え? 俺はどうなったんだ? トラックは?」
わけがわからん。
誰か説明してくれないかと顔を上げると、目の前、机の向こう側の椅子にヤクザみたいな顔のオッサンが座っていた。
いや、人を見た目で確証もなく人をヤクザとか言ったらいけないのかもしれないけれど、顔に妙な傷があって、体がでかくて、黒いスーツを着ていて、傍らに剣を置いているのはたぶんヤクザだろう。特に剣がよろしくない。なぜか日本刀じゃないのがちょっとひっかかるけど。
そのヤクザ系オッサンは、何かに驚いたのか、目を見開いている。
こいつ誰だろう? 医者、じゃないよなぁ? じゃあヤクザ兼医者? それもないか。
というか、まず日本人じゃない? 白人か何か。
もちろん、病院に外国人がいたからどうって事はないんだけれど……でもここ病院じゃないよね、少なくとも病室じゃない。
そして、トラックに撥ねられた人間を病室でない場所に放り込む病院なんてあり得ない。
だったら、ここはどこだ?
室内を見回しても、手がかりがない。白い壁、木板の床、薄緑色の天井。
情報源は、ヤクザ系オッサンしかいないか。
俺は視線をオッサンに戻す。なぜかオッサンはぶちきれている。
「な、なんだ今のは! 貴様は誰だ!」
こっちが説明を求めたいぐらいなんだけど……まあ、名前ぐらいなら先に名乗ってもいいだろう。
「俺は、野沢リョウだ」
こっちが名乗ったんだからオッサンも名乗れよ、と思いながら返事を待つ。
だがオッサンは、笑いやがった。
「ふはははははははっ、笑わせてくれるわ。浅知恵よ!」
「人の名前を笑うなよ! あと早く名乗れ!」
イラッと来る。
しかしオッサンは笑うのは辞めなかったし、名乗りもしなかった。
俺をバカにしたように言う。
「はっ、無駄なこった! 変装して偽名を名乗ったって、サインしちまった契約書の内容は変わらねぇぞ!」
「な、何の話だ?」
マジでわかんないんだけど。俺が知ってて当然みたいな態度で話を進めないでくれますか?
改めて机の上を見る。
並べられている紙。何語で書いてあるのかよくわからない(少なくとも日本語や英語ではない)が、なぜか文章の意味はわかった。
「……契約、書?」
借金の期間を延長しろとか、無担保で貸し続ける事はできないので機関車をよこせとか、そんな意味の言葉が書いてある。
借金? 俺の借金なのかこれ?
「おい、オッサン。つまりどういう事なんだ?」
「どうもこうもねぇよ。サインした後で説明求めるとかバカじゃねぇの? しかも、さっき全部説明したじゃねぇか」
「なんだよそれ!」
俺は何の説明も受けてないけど?
もしかして、俺が意識を失ってる間に終わってたとかそういう系なの? そうなの?
「もう一回、念のためもう一回最初から……」
「うるせえなぁ。後で書類読めば済む話だろ。クーリングオフは一週間だぞ。さっさと出てけよ」
「ちょっ、ちょっと待てって」
そもそも、この借金の百万ソネンてあるけど、ソネンて何? どこの国の通貨単位なの? 円に換算したらいくら?
「ふん。こっちの用事は終わりだ。次に会うのは取り立ての時だな。今すぐ機関車を手放した方が、お互いのためだけどな!」
「機関車? え?」
何の事なんだ? 借金の担保にするみたいな事が書いてあるけど……つまり機関車が俺の持ち物で、それを質入れしたって事なのか? 意味が分からない。
あれ、担保と質入って意味が全然違うんだっけ?
「っていうか、俺、未成年だからこういう書類作れないんじゃね?」
「何ガタガタ抜かしてるんだよ、今更になって」
「いや、だからさ。この状況の説明をして欲しいっていうか、そもそもここはどこなんだよ!」
「ふざけんのも大概にしろよテメェ!」
オッサンはキレたのかテーブルを蹴飛ばす。
「頭がおかしい振りしてるなら、もう出て行け! お前と違ってこっちは急がしいんだ! 次の相手が控えてるんだよ!」
「いや、俺は説明を求めてるんだよ。っていうか、まずおまえも名乗れよ!」
俺の言い分を無視して、オッサンはポケットから笛のような物を取り出し、吹いた。何かと思っていると、ドアが開いて、どやどやと何かが入ってくる。
何だこいつら、気持ち悪い。
人間なのか? なんかカエルみたいな頭をしてて、目の位置が明らかに人間じゃない。
しかも、顔が緑色なのに手は肌色だ。被り物か? でも質感がヌメヌメしてるような?
意味不明でなお更気持ち悪い!
「つまみ出せ!」
オッサンは俺を指差して叫ぶ。
カエル男達は俺の両側から腕を掴んで、引っ張り出す。
「ちょっ、ちょっと待てよ!」
待ってくれなかった。
ずるずると部屋から引きずり出され、廊下を引きずられ、何かの受付が並ぶような場所を引きずられ、ついには建物の外に放り出された。
トドメといわんばかりに、書類が詰まった封筒を投げつけられる。
ちくしょう、やっぱあのオッサン、見た目どおりヤクザじゃねぇか。
「なんなんだよ。本当に」
俺は辺りを見回す。
ここは建物の外だが、屋根がある。
屋根と言うか、雨よけ? 壁はないから風は吹きさらしだけど。
俺の目の前に十メートルぐらいの幅で、灰色のコンクリートでできた道が伸びている。
いや、よく見ると道ではない。
なぜなら天井を支える柱とか、ベンチとか露店のような物が並んでいるから。
しかも、両側が一段低くなっていて、線路がある。
強いて言うなら、ここは……
「駅のホーム、か?」
右側を見る。二組の線路を挟んでホーム、そして線路、ホーム、線路。ホーム……そんな光景が、どこまでも果てしなく、視界の果てまで続いている。
数百メートルぐらい先に機関車が止まっていて蒸気を吐いているが、そこが終わりと言うわけではないらしい。
「いやいやいや、それはないだろ」
左側を見る。
やはり線路、ホーム、線路、ホーム
意味が分からない。
この駅、一日にどれだけ列車が出入りするんだよ?
こちらも、遠くの方に機関車が止まっているが、ようやく気付いた。あれは蒸気機関車だ。
煙突から煙を吐き、車体から白い湯気を噴きながら数十両の客車を引っ張りながら走り出す所だった。
「もしかして日本じゃない、のか」
日本では、蒸気機関車は走っていない。いや、どこかの観光地で走っていたっけ? でも少なくとも、こんな大きな駅に出入りしてはいないと思う。
その蒸気機関車が現役という事は、ここは日本ではないのだ。QED!
じゃあ、どこなんだよ。
誰か教えろ。