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モブ女、帝王と会う

帝王。


人は蔵前晃を『帝王』と呼ぶ。

理由は簡単。

彼がこの学園創始者の孫であり、理事長の息子であるから。


まあいうなれば、下手な教師よりも権力を持ってるんだなぁ、これが。


でも、彼はその権力を決して振りかざしたりしない。


『公明正大』『勧善懲悪』


彼が掲げている理念と言っても過言ではない。




まあ、この情報は公式ガイドBOOKで知った情報なので、今の彼が掲げているかどうかは知らないけれど。

でも内部生の反応を見る限り、彼は本当に人気なのだろう。


あの鈴原君の顔でさえキラキラと輝いている。

皆の尊敬のまなざしを一心に集めてるのに。

その視線を受けてなお、平然としている蔵前氏はやっぱり『帝王』だ。



「そういえばこのクラスに、新入生代表をする予定(・・)だった生徒がいると聞いたが・・・」


ほかのクラスにもしていたのだろう。

流れるように、ある意味形式的に学校について説明してくれていた帝王が、突然思い出したかのように口を開く。

その瞬間、みんなの視線は夏輝のほうへ向いた。


そう、今年に限って帝王が自ら新入生に説明してくれていた理由はこれ(・・)


私はこのイベント(・・・・)を知っていたので驚かなかったが。

みんなの視線が夏輝に集まる。

自分に視線が集まらないように、私はそっと鈴原君の陰に隠れた。



「ほう、お前が姫宮夏輝か?」

「そうですが、何か用ですか?」

「いや、難問の外部入試問題をほぼ満点で入ってきた奴がいると聞いてな。入学式で顔を確かめようとしたら、挨拶は別の女がしているから興味がわいただけだ」

「・・・ならその興味はもう終わりましたよね。顔は確認できたでしょう?」

「くっ、面白い。お前、生徒会に入らないか?」



!!!!

生でこのイベントは心臓に悪いよ!!!!

好きなんだよ、このイベント!!!


私に限らず夏輝と帝王のファーストコンタクトのイベントは人気が高かった。

帝王が初めて人間らしいところを見せるイベントだから。

そして別の意味では、腐女子人気も高かったっけ。

だって帝王ってば夏輝に歩み寄ると、その綺麗な顔に不敵な笑みを浮かべながら夏輝を見上げる(・・・・)のだ。



言い忘れてたけど。

帝王って背が低いんだよね。

確か165cm少々、170cmはなかったはず。


漆黒の髪に綺麗な顔、だけど背が低いというギャップが人気を博してたっけ。

一部の女子は彼を描くとき、必ず眼鏡をかけさせていたけど。

現実の彼は目がいいのだろう。

眼鏡はかけていない。

まあ、コンタクトというのも無きにしも非ずだ。


そんなことより、私には一つ気になることがあって、そっと鈴原君のそでをちょんちょんと引っ張った。

夏輝と帝王のやり取りにあっけにとられていた彼は、初めて私が彼のそばにいることに気が付いたのだろう。

ぎょっとした表情をしていた。



「ねえ、鈴原君」

「ん?なに成実ちん」

「・・・夏輝の代わりに挨拶してたのって誰?」

「ああ、確か外部生の愛川さんじゃなかったっけ。・・・実は寝てたから半分覚えてないけど」



や、役に立たん!!!

しかもまだ成実ちんって呼び方有効なんだ!?

・・・夏輝がこの会話を聞いてなくてよかったよ。


しかし愛川さんが新入生代表挨拶って、そんなのゲームシナリオになかったよね?

・・・・まあ倒れた幼馴染に付き添って、姫宮夏輝が新入生代表挨拶をしないってシナリオがそもそもなかったか。



「お断りします。俺には人をまとめるとか向いていない」

「そうか?それだけ優れた容姿があれば、おのずと人はついてくるだろう」

「・・・容姿で生徒会入りですか?ますますお断りしますね」



不敵な笑みを浮かべる帝王に、夏輝は面と向かって断りも入れるが。

帝王はそんなことでは諦めない。

まあ夏輝も負けてはいないけれど。



しかし、夏輝に容姿のことを話すなんて彼もまだまだだね。

夏輝自身が自分の容姿を好きじゃないのに、そこを褒められても嫌悪感しか抱かないだろう。

その証拠に、さきほどまで無関心だった夏輝の瞳に、今は侮蔑の色が混じっている。


まあこれがイベントの流れなんだけど。

帝王はその瞳に一瞬怯み、その隙に夏輝がここを去る、というのが話の流れ。



・・・だったのに。



「まあいい。今は俺を認識したみたいだからな。・・・先ほどまでの無関心のままでは困る。本気なんだ、俺は」



現実の帝王は1枚上手だったみたいだ。

夏輝の瞳の色に無関心以外の色が混じったことを喜んでいる。




彼は知っているのだ。

無関心ほど、人に認識されていないということを。

どんな感情でも、無関心以外の感情だったら人に認識されるということを。



そして最後に、帝王の瞳が一瞬、そうほんの一瞬私の瞳をとらえて。



ぞくっとした。



無関心じゃない、好奇心という色をした瞳の帝王に。

にやりと笑った帝王の瞳は、捕食者の瞳をしていた・・・。

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