モブ女、ごまかす
『き~ん、こ~ん、か~ん、こ~ん』
どこの世界も予鈴のチャイムとは同じもので。
少し間抜けな音を響かせながら、教室中にその音が響き渡った。
と同時に。
ガラっと大きな音を立て、クラス後方のドアが開き夏輝ともう一人が連れ立って入ってくる。
珍しい。
夏輝がこんなぎりぎりに登校するなんて。
「あら、珍しいわね。夏輝がこんなに遅いなんて」
志乃ちゃんも珍しいものを見たとばかりに、その怜悧な目を見開いている。
ちなみに志乃ちゃんは夏輝のことをもはや『バカ』としか呼ばない。
それほど嫌っているのだから、心配なんかはしていないのだろう。
「まあもっと珍しいと言えば、成実と夏輝が一緒に登校してないってことなんだけど」
「ははは・・・」
それは言わないでください。
夏輝は自分の席に向かいつつ、ちらっとこっちを見た。
しかし私はその視線に目を合わすことなく、志乃ちゃんに顔を向けたままにする。
うっ、あからさますぎたかな。
夏輝の視線が痛いほど怖いよ・・・!
「何?喧嘩中?」
「・・・それについても後で説明します」
志乃ちゃんの問いかけに、私はそう答えるしかなかった。
夏輝とお友達が席に着いた途端、本鈴の鐘の音が響き渡る。
と同時に、教室前方のドアより「おはよう」と言いながら爽やかに紫藤先生が登場した。
そして出欠をとり始める。
まあ、見てわかると思うが全員揃ってるぞ。
「お、全員揃ってるな。感心感心」
いや、2日目にして誰か欠けてたらそれこそ怖いだろうよ・・・。
「今日はこれから学校案内とクラスの委員会決めを行う。まずは校内を案内するから廊下に出ろ」
その言葉にざわざわと騒ぎながら、みんなクラスの外に出る。
私も志乃ちゃんと一緒に席を立ち、廊下に出た。
その途端。
「成実」
ぽんっと肩に手を置かれ、夏輝に呼び止められる。
まあ、予想はしてたけど。
「夏輝、おはよう」
「おはよう・・・じゃなくて。なんでさっき目をそらしたんだ」
「気のせいじゃない?」
「・・・気のせいなわけあるかよ」
まあ当然だよね。
いつもは自然に目を合わす癖がついてるんだから。
「お、その子が昨日電話してた子?」
夏輝の苦虫を噛み潰したような顔に気付いているだろうに。
勇者な夏輝の同行者様は、呑気な声を上げた。
「俺、内部進学生の鈴原耀一ね。夏輝とは同室だからよろしく!」
人懐っこそうな笑顔を浮かべて、私に微笑みかける鈴原くん。
長めの髪を綺麗なハニーブラウンに染めて、制服はどこかだらしなく見えるように着崩している。
でもその笑顔のせいか、不良には見られない。
そんな感じの生徒だ。
そして私は彼に出会う前から知っていた。
貴方が夏輝の同室者だって。
鈴原『耀』一もまた、攻略対象者なのだから。
「・・・崎谷成実です。よろしく」
「篁志乃よ」
「うんうん、成実ちんに志乃ちんね。可愛い子が2人もいて役得だな、夏輝」
な、成実ちん!?
そんな呼び方をする人がまだこの世にいたなんて!?
あらぬことにショックを受けていると、夏輝がその綺麗な顔を歪ませて鈴原君に迫っていた。
う・・・・、その顔、怖いんですけど・・・・。
「おい、誰が名前で呼んでいいって言った?『崎谷さん』だろ」
「えー、成実ちんのほうが可愛くない?」
「可愛くない!」
「ひでー、横暴ー!お前だって名前で呼んでるくせに」
「俺はいいんだよ!」
ってか、夏輝さん。
志乃ちゃんは『志乃ちん』呼びでいいんですか?
隣の志乃ちゃんは、その綺麗な顔で微笑んでいるけど。
はっきり言って背後に般若の顔が見えるんだよ!!
まあそんなことを騒ぎながら、先生が校内を案内してくれる。
もうすでに生徒が騒がしいのは慣れっこなのだろう。
ある程度の騒ぎは見逃してくれているって感じだ。
まだ新入生しか登校してないから、授業も行われてないしね。
鈴原君は内部生だから珍しくもなんともないんだろう。
夏輝にちょっかいをかけては、無視されている。
う~ん、ゲームと同じでクラスのお調子者キャラってところかな?
でも学校自体は、はっきり言ってさすが私立!と叫びたくなるような造りだった。
まず、普通の学校に温室はない。
そこで薔薇なんかを栽培されているらしいけど、それって普通じゃないと思うのよね。
あと学食もすごい綺麗だった。
メニューも豊富だし。
しかも全部のメニューが500円以内と安い!
・・・前世は普通の公立に通ってたから、学食なんかはなく購買でパンを買って飢えをしのいでたんだよね。
そして図書室。
案内されたとたん、その蔵書量に驚いた。
志乃ちゃんなんか目を爛々と輝かせている。
不良っぽい見た目の割に、志乃ちゃんは読書が趣味という勉強家さんなのだ。
私も本を読むのは好きだったので、ここに入り浸っちゃいそう。
志乃ちゃんとは本の趣味があったから、友達になれたといっても過言じゃないもんね。
最後に案内されたのは生徒会室。
普通こんなところを最後に案内なんかしないと思ったけど。
その理由は生徒会室のドアを開けられた瞬間わかった。
「新入生の諸君、入学おめでとう。生徒会長で2年の蔵前晃だ」
そこには圧倒的な存在感で、学校を支配する帝王が立っていたのだから。
サブタイトルセンスがなさすぎる・・・!