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モブ女、遭遇する

翌日。


まだ眠い頭を無理やり起こして、私は1時間半かけて学校に向かった。

中学時代は家から20分程度のところに学校があったので、本当に眠い。


いつもは寝坊する私を、夏輝が無理やり起こしに来てくれてたっけ。


そんな夏輝も今は隣にいない。

同じ学区から同じ高校に進学したのは、私と夏輝と志乃ちゃんの3人だけだから、電車で同級生と会うこともほとんどない。

寂しいと言えば寂しいけど。

早くこの生活に慣れないと。





教室に入ると、そこにはすでに志乃ちゃんの姿があった。

ちなみに夏輝はまだ登校していないらしい。

席にカバンが見当たらなかった。


「おはよう」

「おはよう、成実」


にっこりとほほ笑む志乃ちゃんは相変わらず美人さんだ。

うん、癒されるね!

笑顔の志乃ちゃんにほんわかしていると、隣に人がいることに気が付く。



・・・え?



「あ、おはようございます、崎谷さん」





なんで?

なんで、この子がここにいるの?




びっくりしている私に気が付いたのだろう。

志乃ちゃんが説明をしてくれる。



「この子、同室の愛川光穂さんよ。同じクラスだったから一緒に登校してきたの」




ゲームにはなかった展開。

だって、志乃ちゃんは『ゲームには登場していなかった』のだから。


愛川さんの、主人公の同室は情報通の内部進学性だったはず。

確か隣のクラスの・・・あれ?

名前が思い出せない。



ゲームの事なら何でも知ってるはずなのに。



「成実、どうかしたの?」

「崎谷さん、大丈夫ですか?」



2人の声にはっと我に返ると、何でもないよと笑顔を張り付ける。

うまく笑えてるだろうか?


「愛川さん、よろしくね」

「光穂で構いませんよ。私も成実ちゃんって呼んでもいいですか?」

「・・えっと、それは」



できれば名前で呼ばれたくない。

主人公に認識されたら、その瞬間、私は『モブ』ではなくなるのだから。



そんな私の戸惑いを感じたのだろう。

愛川さんがものすごく困ってる。


ああ、どうしよう。

これで「嫌だ」とか言ったら、単なるいやな女だよね。


そんなことをグルグル考えていると。

頼れる親友の志乃ちゃんが助け舟を出してくれる。



「愛川さん、ごめんなさい。成実って人見知りが激しいの。名前のことはまた今度ね」


・・・ごめん、志乃ちゃん。

私が光穂ちゃんて呼べないから。

志乃ちゃんも光穂ちゃんのこと『愛川さん』としか呼べないよね。

同室なのに・・・。



「そうなんですか?じゃあまずお名前で呼べるように、親しくなるところから頑張りますね!」



ぐっと両手でこぶしを軽く作って、満面の笑顔で私に話しかける愛川さん。

ああ、その笑顔が(邪な心を持っている私には)まぶしいよ・・・・。




じゃあお友達が呼んでますから。

そう言って、愛川さんは同中の友達だろう人のところへ行ってしまう。

きっと気を使わせたよね。

だって呼んでるどころか、そのお友達は私たちのことをこれっぽっちも見ていなかったのだから。



気遣いができて、笑顔が可愛いとか本当にできた主人公だよ。



愛川さんが去った瞬間、私がほっとしたのがわかったのだろう。

志乃ちゃんが「ふぅ」と小さくため息をついた。

そしてさっきとは違う、氷のような笑顔で私に微笑みかけた。



・・・こ、こわいよ~~~!!!



「成実、私が言いたいことわかるわよね?」

「う・・・っ、はい、わかっております」

「後で話を聞かせなさい」



もとよりそのつもりです。



『ワンダーワルツ』のことは言えないけれど、ある程度のことは話しておくつもりだ。

この世界がゲームだって言っても、きっと信用してもらえないから。


でも。


志乃ちゃんなら、もしかしたらとは思うけど。

大事な友達だからこそ、失くしたら怖いから。

だから言えないんだ。




この選択を、私は後悔することになるんだけど。

この時の私は自分のことに精一杯で、気づく余裕なんてこれっぽっちもなかったんだ・・・。


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