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モブ女、寒がる

 愛川光穂。

その名前に聞き覚えがあった。


 もちろん、ゲームをやっているのだからデフォルト名くらいは覚えている。

と言っても私は自分の名前をアバターにつける派だったので、最初のチュートリアルでくらいでしか見たことないが。


 私がなぜ思い出したかというと。



 ……そのネーミングセンスに、寒い思いをしたからだ。


 なんで、苗字に『愛』が入って、名前に『光』なんて入るんだ!?

まるで人から愛されんばかりの名前じゃないか!

(全国の愛川さん、光穂さんごめんなさい)


 当時の私はあまりの寒さに、同人誌を出すときもこの名前は使わなかったっけ。


 あと名前で思い出した。

攻略キャラの苗字か名前に必ず『光』という漢字が入っているのだ。


 夏『輝』しかり、『滉』介しかり。


 まあ、光という漢字そのものを使ったキャラはいなかったはず。

だって光を使うことが許されたのは主人公だけなのだから。



「愛川は外部入学組だな。寮に入るのか?」

「はい、家は遠いので寮生になります」


 それだけ言うと、次の人に順番が回った。


 そうだった、主人公は寮生だっけ。



 この学校には、高等部より寮が設けられている。

通学が困難な生徒のためというのが建前だが、家が近くても何らかの事情で入ることは許されている。


 ちなみに私は、寮生じゃない。

そんなバカ高いお金を出すくらいなら、定期代だけで通うことにしている。

学費だけでも親に負担をかけているのに、寮生活の資金まで頼めるわけがない。


 まあ、電車でちょいと1時間半で着くから楽勝、楽勝。

……泣いてなんかいないもん。


「次、崎谷だな」

「はい、崎谷成実です。外部から進学してきました。よろしくお願いします」



 自分の番になったので、席から立ち上がり名前を言ってちょこんとお辞儀をする。

案の定、誰も私を見ていないが。

そしてそのまま席に着こうとしたとき、担任がとんでもない爆弾を落としやがった。


「おい、崎谷は病弱か?入学式で倒れたが具合はどうだ?」


 はいぃぃぃぃぃぃ!?

いまここでそんなことを聞く!!??


 せっかく注目されてなかったのに、一気にみんなの視線がこっちに集まるのがわかった。

うううっ、中には「新入生代表に挨拶をさせなかったのはあの子」、みたいな視線を送っているのもいるじゃないか!


「寝不足と貧血だそうです。今日をあんまりにも緊張していたので、寝つきが悪かっただけです」


 私は用意していた答えを澱みなく答えた。

だって言えるわけないじゃん。


 前世を思い出したせいで、記憶が氾濫して混乱してオーバーヒートしました。


 なんて!


 担任は「そうか」とだけつぶやくと、私の後ろに自己紹介を回した。

そんな呟きで終わらせるくらいなら、最初から聞くなっつーの!


 自己紹介はその後順調に進み、とうとう夏輝の番になった。

(ちなみに志乃ちゃんは、お嬢様の笑顔を張り付けて卒なくこなしていた。さすがだ)


「次は、姫宮だな」

「はい、姫宮夏輝です。外部からきました。よろしくおねがいします」


 夏輝が立ち上がり、自己紹介を言うと周りから思わず「ほぉ」という感嘆のため息が上がる。

そしてにっこりと笑顔を出しお辞儀をした途端、がたんと椅子が崩れる音がクラスの至る所から聞こえた。


 どうやら一部の女子の腰が抜けたらしい。

たかだが笑顔の一つくらいで。


 ざわざわと教室がにぎわうが、夏輝は構わず座ろうとしている。

そんな夏輝に担任が声をかけた。


「姫宮は後で職員室に来るように。新入生挨拶をすっぽかすなんて前代未聞だからな」

「はい」


 まあ、この場合は仕方ないだろう。

呼びに来た先生を振り払って、私のそばにいたのだから。

自業自得だ。



「なに、その面白いイベント。入学式出ればよかったかしら?……まあ、成実が関わっているのは確かよね」

「なんでそう思うの?」

「あの似非優等生が、その仮面を脱ぎ捨てるのなんて、成実がらみでしかありえないじゃない」

「ううっ」


 何も言い返せません。



 私と志乃ちゃんは、偶然にも席が隣同士で。

だからこうやって小声でお話ができるのだ。

ちなみに夏輝だけ一人、離れた席になっている。



 そんなこんなで自己紹介も終わり、今は放課後。

学校説明会などは明日やるらしいので、今日はこのままお開きだ。



「じゃあ、私帰るね」

「あ、そこまで送っていく」

「駄目よ、夏輝は先生に呼ばれてたでしょ。私一人で帰るから心配しないで」


 じゃあね!そういって私は夏輝と志乃ちゃんに別れを告げて一人、帰宅の途についた。


 だって仕方ないじゃない。

夏輝も志乃ちゃんも寮生なんだから。


 ちなみに私が寮生じゃないと知って、夏輝がひどく落ち込んでたっけ。

我が家は夏輝の家と違ってお金がないんです。

仕方ないじゃない。


 まあ、わざと寮に入るようなそぶりをして夏輝をだましてたのは事実だけど。



 私は夏輝から離れなくちゃいけない。

もういつまでも優しい幼馴染でなんかいちゃいけない。


 だって。


 夏輝には、これから光穂ちゃんという恋のお相手ができるのだから……。

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