モブ女、見つける
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入学式。
それは出会いの場所である。
ワンダーワルツの中でも入学式は一番初めの重要イベントの一つだ。
主人公がその場所で、新入生代表挨拶をする夏輝を認識するのだから。
しかしそのフラグをあろうことかモブである私がへし折ってしまった。
夏輝は倒れた私をそのまま保健室に運んで入学式をさぼったらしい。
呼びに来た先生を振り払って、ずっと保健室にいたとか。
やめてくれー。
まるで私が悪いみたいじゃん!
「成実は大切な幼馴染だからね。心配に決まってる」
「やめてー、そういう完璧な笑顔で、さらりと怖い発言しないでー」
ここはもう教室。
貧血と寝不足で片づけられた私は、病院に行くこともなく教室に戻されていた。
まだ担任は来ていないので、席につくなり夏輝が私に近づいてきたのは良しとしよう。
でも、完璧な笑顔であの発言である。
近くにいた派手目な女の子たちが一瞬本気で殺気を出していた。
私に向かってである。
この男まるでわかっていない。
自分の笑顔がどれだけ人を魅了するのかを。
「あら、相変わらず夏輝はあほっぽい発言をしてるわね」
私が殺気に頭を抱えていると、教室のドアががらりと開いて一人の女子生徒が入ってきた。
茶色く染めた腰まである長い髪を伸ばし、制服はだらしなく見えない程度に着崩している。
しかし、顔はものすごくいい。
「あ、志乃ちゃん。おはよう、今来たの?」
「おはよう成実。入学式なんて面倒なもの、私が出るわけないじゃない」
彼女の名前は篁志乃。
私や夏輝と同じ中学出身で、私の唯一の親友。
少しヤンキー(死語)に見られがちな彼女だが、茶道家元のお嬢様なので言葉使いはものすごく丁寧である。
まあ、丁寧に毒を吐くといったのが正しいのだけど。
そして・・・。
「篁、相変わらず人相が悪いな」
「あら、夏輝ほどじゃないわよ」
我が幼馴染とは犬猿の仲だったりする。
私を挟んでバチバチと火花を飛ばすのはやめてくれ、頼むから!
「お前ら席に着けー!」
私が居た堪れなくなっていると、教室の前のドアがガラガラと開いて少し短めな髪をツンツンに立てた若い先生が入ってきた。
・・・げ。
まさかとは思っていたけど、担任ってやっぱり。
「今日から1年間、この1年B組の担任をする紫藤滉介だ。教科は世界史、よろしくな」
黒板にでかでかと名前を書くこの人。
私の担任であり、ワンダーワルツにおける主人公の担任でもある。
って、ことはやっぱりこのクラスに主人公がいるんだよね?
パッと見誰だかわかんないけど。
ワンダーワルツは主人公視点で物語が進んでいくため、イラストで主人公は描かれることはない。
むしろ自分の分身であるアバターなので、容姿などはカスタマイズしていくゲームなのだ。
もちろん名前も自分で決めるのだが。
確か、デフォルトの名前があったはず・・・。
私が思い出そうともがいていると、紫藤先生が口を開いた。
「よし、さっそく簡単にだが自己紹介をしてくれ。その場で立ってで構わないぞ」
ナイス!!
名前を聞いたら思い出せるかもしれないじゃん!
しかしその案にブーイングを出す生徒もいて。
『紫藤ちゃん横暴ー』
『やだー、恥ずかしいー!』
きっと内部進学組なのだろう。
気軽に紫藤先生のことを紫藤ちゃんなどと呼んでいる。
やっぱりゲームと一緒で、この紫藤先生。
なかなかの人気者らしい。
だから慣れているのだろう。
そんな生徒のブーイングを片手で軽く払うと、右端に座っている生徒から順番に自己紹介をさせた。
そして私の『疑問』すぐに『確信』へと変わる。
一人目の女性生徒の自己紹介とともに。
「愛川光穂です。よろしくお願いします」
みつけた、彼女が『主人公』だ。