モブ女、突撃する(その1)
更新が遅れて申し訳ないです
放課後、私たちは生徒会室の前に立っていた。
私と、志乃ちゃんと……何故か光穂ちゃんと鈴原くん。
まあ、鈴原くんはわかるのよ。
事情を知っているし、夏輝の同室ということである程度知る必要もある。
だけどなぜ光穂ちゃんが付いてきた!?
私がそう問いかけると「なんとなくおもしろそう」という、なんとも気の抜けるお答え。
……仕方ないか。
今回秘密を知っちゃったもんね。好奇心の虫も疼くよね。
そういうことにしておこう。
今日は生徒会活動のある日だと、前もって紫藤先生に探りを入れておいた。
朝疲れていた紫藤先生は、放課後はもっと疲れ切っていた。
どうやら夏輝とのやり取りで疲れたらしい。
何を言っても電話向こうでは無言で過ごされ、そのうち勝手にガシャンと電話を切られるとか。
うん、電話の意味ないね!
ちなみにこの話を聞いた光穂ちゃんの目が、どことなく呆れた色を含んでいたのは見ないことする。
というか、私以外のみんなの目もそんな感じだったけど。
まあ夏輝だしね。
むしろそれくらいで済んでよかったじゃないですかとはさすがに言えなかった。
「じゃあいくよ」
私はそう宣言すると、みんなが頷くのを確認して生徒会室のドアをノックした。
すると中から「どうぞ」という冷たい声。
私は大きく息を吸い込むと、ゆっくり吐いて静かにドアを開けた。
「はい、お茶をどうぞ」
意を決して中に入ると、そこにいたのは帝王と副会長の2人だけ。
他のメンバーの皆様方は今日はいらっしゃらないようだ。
あれ?生徒会の活動がある日だと聞いていたんだけどな。
「ほかの方はいらっしゃらないんですか?」
私の問いかけに副会長は困ったように笑うと、その視線を帝王に向ける。
視線に気づいたのだろう。
なにやら机で書き物をしていた帝王は、その手を止めペンを置いた。
そして帝王はかけていた眼鏡(!)を外すと、副会長が入れたお茶を一口含み。
ゆっくりと私たちに視線を向け、口を開いた。
「……君たちが来るのは予想していた。姫宮の件は他言無用。秘密を知る者は少ないほうがいい」
つまり、私たちのために皆様方はここから離れたということだろう。
今の時期、委員会や部活動の予算決めなどで忙しいと聞いているのに。
少し申し訳ないなと思っていると、副会長が困ったように笑い。
「他のみんなのことなら考えなくても大丈夫。仕事をしなくて自由になったと喜んでましたから」
と帝王に聞こえないように教えてくれた。
まあ、帝王には筒抜けみたいだけど。
気にしなくていいと言われたので、気にしないことにする。
私は頂いたお茶を一口飲んで口を湿らせると、帝王へと視線を向ける。
まあ私の視線を物ともせず、帝王はなにかの書類にサインをしているけど。
「じゃあお伺いします。なぜ貴方は夏輝にそこまでするんですか?」
「生徒会に欲しいから、では納得できないか?」
「今までは私もそう思ってました。だけど、今回のことは違う。夏輝を庇うことがメリットになるとは思えない」
「……」
私の言葉に帝王は押し黙る。
大体、夏輝の突然の退寮騒ぎを庇うこと自体おかしいのだ。
人の口に戸は立てられない。
いずれ夏輝の退寮騒ぎも他の生徒の知るところになるだろう。
そんな時、このことを生徒会長が匿っていたとわかったらどうなる?
……答えは簡単。
生徒会長の信用は一気に落ちるだろう。
一人の生徒に肩入れをして、不平等な扱いをしたと。
『公明正大』を売りにしている生徒会長にあってはならない失態だともいえる。
そんなデメリットしかないことをなぜ帝王はするのか。
私にはそこが疑問だった。
「夏輝を生徒会に入れる、というのも目的でしょうが。他の目的もあるんじゃないかと思えてならないんです。あなたの本当の目的はなんですか?」
問いかけに帝王の瞳がわずかに揺らいだ。
そしてその視線は志乃ちゃんへとほんの一瞬向かう。
誰も気づいていないみたいだけど、私は気付いた。
おそらく志乃ちゃんも。
口を挟まず静かにお茶を飲んでいた志乃ちゃんが、驚いたように目を見開いたのだから。
少しの沈黙が生徒会室を支配する。
その口火を切ったのは、思いもよらぬところからだった。
「生徒会長さんは志乃ちゃんとお知り合いなんですか?」
「……なにを?」
「だって、さっき一瞬志乃ちゃんのことを見てたじゃないですか。だから知り合いなのかな~って」
志乃ちゃんと同じく口を挟まなかった光穂ちゃんが、のほほんと声を挟んだのだった。
そしてにこにこと笑うと、またお茶を飲み始める。
驚いた。
まさかの光穂ちゃんからの支援。
鈴原くんなんてぽかーんとしてるのに。
一番のほほんとしている光穂ちゃんが気付いているなんて。
帝王も同じ気持ちだったのだろう。
初めてその視線を光穂ちゃんへと向けた。
その視線はものすごく冷え冷えとしているのだけど。
光穂ちゃんは、ただにこにこ笑ってその視線を真正面から受け止めている。
な、なんだかこの組み合わせものすごく恐ろしい!?
しばらく睨み合って(?)いた2人だけど、先に折れたのは帝王だった。
ふぅ、とため息をつくと「篁とは親戚なんだ」と一言。
その言葉に鈴原くんと副会長は驚いている。
……私は先に聞かされたから知ってたけどね。
それよりも。
その衝撃の事実に、光穂ちゃんが全く驚いていなかった。
まるでその事実を知っていたみたいに。