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モブ女、惑う

「成実」

「……」

「おい、成実!」

「……ごめん」



 夏輝の手を取って、ずんずんと自分たちの教室のある方向に足を進めること5分。

最初は私の怒りを感じて、黙ってされるがままになっていた夏輝だけど。

さすがにそろそろ聞いてもいいと思ったんだろう、声をかけてきた。

うん、腕が痛かったよね。

なので素直に謝ることにした私だけど、夏輝は違うことで謝られていると思ったのだろう。

足を止めて思わぬ言葉を口にした。



「俺が勝手にやったことだ。成実が気にする必要はない」

「……え?」

「…俺が勝手に副委員長になったから謝ったんじゃないのか?」



 ………忘れてた。

帝王のあんまりな言葉に怒ってて、夏輝が勝手に副委員長になったこと完全にスルーしてたよ。

むしろ私の中では夏輝も副委員長に指名されたくらいの気持ちだったけど。

こいつ、そういえば立候補だ。



「それについてはごめん。正直巻き込んで悪いなとは思った」

「むしろ成実が俺に巻き込まれたんだろう?学級委員だって」

「いや、学級委員はなんとなくあの会長だったらやるかな~とか思ってたから予測の範囲内というか」

「……なんで、成実が会長に詳しいんだ?」



 うぐっ。

夏輝の問いに思わず言葉が詰まる。

だって言えるわけないじゃん。

ゲームの世界の帝王なら、これくらいやりかねないって。

今の夏輝にとって、帝王の地位は地の底といってもいいくらい低い。

それなのに私が帝王のことをかばうような真似をしたら……。



 私の言葉の詰まりをなんとなく悪く解釈したのだろう。

夏輝の目が若干座っている。



 まずい、夏輝が生徒会室に戻りそうになっている!!



「な、夏輝!?」

「やっぱり俺ももう一度文句を言いに」



 いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

生徒会室が血の海になってしまう!!!!

それはやばい!!!



「今戻ったらダメー!!!!」

「なんでだよ!?成実を書記から外させるように言いに行くだけだ」

「もう決まったことだから、覆せないって!!!」



 絶対、夏輝は言いに行くだけじゃない!!

りに行く気満々だ!!!



 私の言葉に一応納得したのだろう。

夏輝が戻るのを諦めたみたいだ。

ふぅ、よかったよかった。



 ……とか安心した私を叱ってください。



 夏輝は少し哀しげな色を瞳に浮かべると、ふっと自嘲気味に笑った。

そして私に向き合う。



「成実はそうやっていつも自分が犠牲になればいいと思ってる」

「え?」

「小学校のあのときだって俺には何も相談しないで、抱え込んで。今度だって同じだ」

「何言って……?」

「俺が守りたいと思ってるのに、成実はいつも自分だけで解決しようとする」



 夏輝はそう私に言うと、そのまま教室の方向へ歩いて行ってしまった。

残された私はただただ夏輝の背を見ることしかできなくて。

私は夏輝に守られたいと思ったことなんか一度もないのに。



 でもどこかで夏輝について、安心していた自分がいたことに気が付かされた。

私がどんなに冷たくしても、そっけなくしても夏輝は絶対に離れないっていう安心。

光穂ちゃんと仲良くなればいいと思っているのに、どこかで夏輝はそんなことにはならないと思っていた。



 私から解放してあげたいって確かに思ったはずなのに。

 夏輝が私から離れるのが嫌なんて。

 ただの我がままじゃんか。



 夏輝は私を守りたいって言う。

でも私は夏輝を解放してあげたいって思う。

いつまでも守られている「幼馴染の成実」じゃ嫌だから。

私に縛り付けられてる夏輝が「可哀想」だから。

なのにあの言葉を嬉しく思う私がいるなんて。



「私っていったいなんなんだろう?」



 ゲームの世界の私は単なるモブ女。

幼馴染っていう設定すら曖昧な、名前すら確認できないような女。

現実の私も幼馴染ひかりの陰に隠れて、ずっと生きてきた。

きっと私の名前を知らない人も多いだろう。

それを望んだのは他でもない私だ。

だからきっとこのままでいいと思ってた。

むしろこのままでいたいとさえ思う。



 夏輝のために私から解放?

そんなのただの自己満足だ。

私の物と思っておきながら、解放してあげなくちゃと口で言う人形遊びと一緒。

なんて上から目線な自分勝手な女なんだろう。

こんなんじゃ夏輝の傍にいる資格なんてない。




 なんてことを考えながら、私はふらふらと自分の教室へ戻ったのだった。



















 いつの間に家に帰ったのだろう?

気が付いたら、私は自分の部屋にいた。

きちんと制服を脱いで、ハンガーに掛けてあるところを見るとちゃんとしていたのだとは思う。

ただ考え事の夢中で、行動の記憶がないんだけど。



 私が部屋でぼーーーっとしていると、どたどたと階段を駆け上る大きな音。

今家にはお母さんしかいないはずだから、お母さんかな?

でもあのほんわかしたお母さんが階段を駆け上がるなんてことしたことがなくて。

とか考えていたら部屋のドアがガタン!と大きな音を立てていきなり開いた。

そして……。




「な、なるちゃん大変だ!!!!」

「春輝?」

「兄貴が……退寮して家に帰ってきた!!!!!!」




 

 春輝が大きな爆弾を投下したのだった。



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