モブ女、回想する
夏樹の話し方に違和感を覚えたので少し直しました。(2013年9月17日)
気が付いたら真っ白な天井だった。
「あ、気が付いた!?」
目を開けた瞬間のぞきこまれる整った顔。
……わが幼馴染様だ。
「夏輝?ここどこ?」
「ここは保健室だよ。成実が目の前で倒れるから本当にびっくりした」
やっぱりここは保健室か……。
まあ、いきなり目の前が真っ白になったんだもんね。
当たり前か。
でも、全部思い出した。
ここは『あたし』が『昔』にはまっていた『ゲーム』の世界だということを。
ワンダーワルツというゲームを御存じだろうか?
その昔、一世を風靡したいわゆる乙女ゲームだ。
声優が豪華で、イラストもきれい、システムもわかりやすくやりこみ要素がある。
そしてなにより登場する攻略対象が個性的で。
対象同士の関係も魅力的。
こういうゲームに世の女の子たちは食いついた。
かくいうあたしもその一人だ。
昔のあたしは、運動はできなかったが地味女にふさわしく勉強はできた。
まあいわゆるオタクだったのだ。
引きこもりとかではなかったが、勉強とオタク仲間の女子と部活でわいわい盛り上がるのが楽しい。
そんな高校生活を送っていた。
そしてそこで話題になったのがこの『ワンダーワルツ』である。
あたしは腐女子ではなかったので、BLに理解があっても積極的に見るわけじゃなかったが。
このゲーム腐った女子にもすごい人気だったな……。
同人誌もバンバン売られてたし、仲間の腐女子はいっぱい絡み絵を描いていた気がする。
まあとにかく、主人公になってこの世界に来てみたい!
そう思うくらいには、このゲームにはまっていた。
色々なキャラの攻略も全部出したし、追加ディスクも全部やった。
キャラグッズやら何やらも買いまくった。
今思えば、ひと財産にはなるよね……。
オタクはお金がかかる。
なのにゲームばっかりやって、勉強をおろそかにするとお小遣いをもらえない。
勉強をしていい成績を残すのは当たり前だった。
そして大学ももちろんいいところに入って、オタク活動をさらに邁進させたことは言うまでもない。
勉強ができるのは当たり前になっていたので、就職もそれなりにいいところにして。
オタク活動で出会った同士と結婚をして。
(いわゆる即売会会場での出会いがきっかけだった)
結婚をして2年したら子供もできて、オタク活動から足を……あらえず。
子供も巻き込んでオタク活動して、子供も立派なオタクに育てたっけ(遠い目)
まあ死んだときの記憶は曖昧だが、それなりにいい人生を送ったことは確かだ。
そう、あたしは死んだんだ。
ならここにいる『私』は何?
そういえば『あたし』だったときの名前は?
旦那様の、子供の名前は?
なんにも覚えていない。
覚えてるのは頑張ってはまったゲームの内容と、過ごした人生の欠片。
……そして、頑張った勉強内容だけだ。
むしろなんで勉強内容を今思い出したし。
もうちょっと早く思い出せば、あの地獄の受験勉強をしなくても済んだのに!!!
目の前にいる夏輝についても思い出した。
こいつ、ワンダーワルツの主要登場人物で攻略対象だわ……。
しかもパッケージにでかでかと描かれるほどの特別人物だった。
うわー、ゲームの私はこのルートでのみ立ち絵が確認できる程度の名前もないモブキャラだったっけ。
決してこんな保健室に運ばれるイベントを起こすキャラじゃなかったことは確かだ。
むしろこんなイベント絶対にないわ。
「何、難しい顔してるんだ?成実」
ぐるぐる考えていたのだろう。
心配そうにのぞきこむ幼馴染の顔。
ああ、『また』そんな顔させちゃったね。
そんな顔させないために、私は地味に生きてきたのにね。
まだ頭は混乱してるけど精一杯の笑顔を張り付けて、私は夏輝に微笑んだ。
「なんでもないよ。ちょっとぼーっとしてただけ。それより、いま何時?」
「今は10時だな。成実が倒れてから1時間も経ってない。そろそろ入学式が終わるんじゃないか」
「…………え?って、夏輝!!??なんでここにいるの!?」
「え、いまさら?俺が運んだんだからここにいるのあたりまえじゃないか」
いまさらじゃない!!!!
なんでこいつここにいるんだ!!??
「あんたは、新入生代表だったでしょーーーーーー!!!!!!!」
どうやら私は、幼馴染に新入生代表挨拶をボイコットさせたらしい……。
本当に、どうなることやら。