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モブ女、ロックオンされる(その2)

 帝王の言葉を受けて一斉に皆の視線が私に向いたのがわかった。

ただ隣にいる夏輝は驚いたように目を見開いて、帝王を凝視している。



 ざわざわとする生徒会室。

みんな「知ってる?」「いいや、誰?」みたいな会話を繰り広げている。

中には夏輝の苗字を知らないのだろう。

「崎谷ってあの綺麗な男の子?」みたいな声も聞こえてきた。



 ううっ、崎谷は私です……。


 ざわついた生徒会室内を鎮めるように、副会長が手をたたいて皆の意識を自分に向けさせる。



「はいはい、静かにお願いします。この推薦に意義がある方はいませんか?ちなみに本人からの意義は原則認められません」



 うっ、手を挙げようとして先に副会長に先制された。

そうだよね、本人の意義を認めてたんじゃいつまでも会議は終わらないもんね。

私は縋るような視線を夏輝に送った……が。

奴は何かを考え込んで、まるで私の視線に気づく気配もない。



 か、肝心な時に役に立たない!!!!



 私が理不尽にもそう思っていると、誰も意義は出さなかったのだろう。

さっさと私に決定をして、書記(1年B組 崎谷成実)と書かれてしまう。

名前を見て女のほうが書記だったのかと思った数名の生徒が、やっぱり私を見てくる。

うん、夏輝じゃなくてごめんなさい。


「では書記は決定ということで、他の役員の選定に戻りたいと思います。立候補・推薦はいませんか?」




 その言葉に、すっと一人手が挙がった。

……なんのことはない、隣の夏輝が手を挙げたのだ。

このパターンは、委員会決めと同じじゃないか!!!!




 こうして夏輝は、また・・私に巻き込まれるという形で副委員長になったのだった。
















「では、役員になった方は明日の放課後生徒会室にお集まりください。今日はこれで解散とします」



 副会長の言葉に、皆散り散りに解散していく。

(ちなみに1年総代表は厳正なるあみだくじによって決められた)

私もさっさと帰ろうとしたけれど、夏輝が何か考えていて腰をあげないので帰ることができない。

さすがにここで置いて帰ったら、夏輝に恨まれそうだし。

生徒会役員の皆様も忙しいのだろう。

帝王と副会長を残し、さっさと部屋から出て行ってしまう。



 こうして生徒会室のは私たち4人だけが残ることになった。

その途端、立ち上がりつかつかと帝王のもとへ歩み寄る夏輝。

私はただ見ている事しかできない。

だってこんなイベント・・・・ゲームにはなかった。

そもそも学級委員に夏輝がなるということ自体ゲーム内ではなかったけれど。

でも私が動けなかったのは見たことがないからとかそういう理由じゃなく。




 夏輝がものすごく怒っていたから。

あんな夏輝を私は久々に見た。

だから体がすくんで動くことができなかった。



 歩み寄ってくる夏輝にさして驚いた様子もなく。

帝王は悠然と構えながら、自席で夏輝を待っている。

夏輝は勢いそのままに、帝王の机をガン!!と拳で殴った。



 うわっ、痛そう……。



「あんたどういうつもりだ!?成実を巻き込むななんて!!」

「どういうつもりとは?」

「俺を勧誘したいなら、俺を指名すればいいだけの話だろう!?なぜ成実を指名した!!」



 夏輝のいつになく怒っている様子に、すくみ上っていた身体を叱咤して私は夏輝の傍に近寄ろうとした。

しかし、その行く手は副会長によって阻まれる。



「今は近寄らないほうがいい。たぶん逆効果になる」

「でも……っ!」

「それに蔵前が楽しそうだからね、止めないでやってほしいという願いもあるんだ。ごめんね」




 年上の副会長にすまなさそうにそう言われると、私ももう何も言えない。

夏輝は私たちのやり取りすら耳に入っていないのだろう。

さらに言葉を募らせる。



「大体、やり方にしても汚い!紫藤に渡したファイルに成実が学級委員になるように勧めてあっただろう!!」

「ほう、紫藤先生が漏らしたのか?」

「……あいつに相談されたんだ。なぜ、会長が崎谷にこだわるのかわからないって」



 なんと!!

私が学級委員になったのは、帝王の差し金だったのか!!!

……いや、半分そうじゃないかな~とは思ってたんだけどね、実は。



 私の中にはゲームの知識があるので、帝王がこういった賭けにでることがあるのも知っていた。

帝王は公明正大だけど、その自分が決めたルールの中で賭けをすることが好きなのだ。

大体あの学級委員決めだって、立候補者や推薦者が出れば私がなるという選択肢はなくなる。

だけど彼は賭けたんだ。

私が学級委員のなって、それにつられて夏輝もまた自分の掌中に収まることを。

そして帝王は賭けに勝った……。

ただ、それだけのこと。



「俺は賭けただけだ。大体、俺に関わりたくないのなら崎谷を放って学級委員にならなければよかった話だろう」

「そんなこと……!」

「ああ、お前はそんなことできない(・・・・。だから今度もまた崎谷は書記になった」

「指名すれば、断れないのにか?」

「ああ、お前が自ら立候補・・・・・するという事実が欲しかったからな。生徒会役員選で俄然有利になる」



 なるほど、そういうことか。

帝王はまだ夏輝を諦めていなかったのか。

だから私を利用したんだ。


 ……もう、夏輝を私に巻き込ませないという私の想いを踏みにじって。


 私は今度は止めない副会長を置いて、帝王の前につかつかと歩み寄る。

呆然と帝王を見詰めている夏輝もようやく気付いたのだろう。

緩慢な動作で私を振り返る。

そしてさらに絶句した。



 うん、私いまものすごい腹が立ってるよ。

たぶん夏輝が見たこともないくらいには。



 悠然とした笑みを浮かべて私を見つめてくる帝王の前に立つと、私は大きく深呼吸をした。

そして……。





 バッチーーーーーーン!!!!!




「私や夏輝はあんたの駒じゃない!!!!!!」




 思い切り、帝王の頬を平手で叩くとそのまま夏輝の腕を掴んで引きずるように生徒会室を後にしたのだった。

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