モブ女、ロックオンされる(その1)
そして放課後。
とうとう来てしまった、初の委員会顔合わせ。
「成実、いくぞ」
「……行きたくない」
「そういうわけにはいかないだろ」
ですよねぇ…。
午後の授業も終わり、夏輝が傍によって迎えに来た。
それに私はいやいやするように、机にうっぷせる。
そんな私の様子に夏輝の顔も少々呆れ気味。
何とでも言ってくれ!できれば行きたくないんだ!
ちなみに志乃ちゃんと光穂ちゃんは仲良くとっとと図書室に行ってしまった。
ううぅ、羨ましい……。
夏輝に引きずられるように、生徒会室に顔出すとそこには生徒会の皆様と各クラスの学級委員の顔があって。
皆様、夏輝が登場した途端、一瞬息をのんだのがわかった。
最近クラスメイトは夏輝に見慣れたのだろう。
こういった反応がクラス内で起こることもなくなったので、なんかすごい新鮮だ。
私たちは皆様の視線に耐えながら、自分のクラス番号が書かれている席に座った。
まだ全員揃っていないのか、皆様好き勝手におしゃべりを楽しんでるみたい。
1年生の学級委員はほとんど内部生なのだろう。
私たち以外の学級委員も、楽しそうに上級生の方たちとおしゃべりをしたりしている。
「やっぱり内部生が多いのかな」
「学級委員は中等部の生徒会役員や学級委員経験者が多いって話だからな。外部生の学級委員はあまり聞かないらしい」
「へぇ、詳しいんだね」
「耀一情報」
なるほど。
私の疑問に、こういうことに興味のなさそうな夏輝が正確に答えてくれて驚いたけど、鈴原君情報なら納得がいく。
彼は学校内の情報や噂にとても詳しいという一面を持っているから。
まあ、そこらへんはゲームとほぼ同じ設定で。
彼を攻略するためには、主人公も情報通であるか、逆に何も知らなさすぎる面を演じなければならなかったはずだ。
「あなたたち外部生?」
そんなときだった。
一人の女子生徒が声をかけてきたのは。
うっわ、美人!
まるで日本人形みたいに長い黒髪を一つにゆるく縛った、キラキラオーラをまとった美人さん。
でもその眼は「あななたち」なんて問いかけているけれど、夏輝にしか向いていないことは明白で。
……うん、代表して声をかけてきたんだろうね。
彼女の行動をたぶん上級生だろう、じっと何人かが見つめている。
「私は2年C組の学級委員をしている海棠っていうの。よろしくね」
にこっと笑って、今度は私にも視線を向けて手を差し出してくる。
うん、この態度には共感が持てるぞ。
だから私も愛想笑いを顔に貼り付け、その手を握る。
「1年B組学級委員の崎谷です。よろしくお願いします」
「…同じく、姫宮です」
一方の夏輝はにこりとも笑わず、視線だけ向け挨拶をするとそのまま顔をそらしてしまった。
ううっ、相変わらず愛想悪い……。
しかし海棠先輩はそんなことを気にすることもなく、笑顔を崩したりはしなかった。
それどころか「わからないことがあったら何でも聞いてね」と優しい言葉をかけてくれる。
たとえ夏輝と話すことが目的だろうとも、優しい言葉に愛想悪くなんかできない小市民的心臓の私は「ありがとうございます」と笑顔で返した。
「では学級委員会を始めます」
海棠先輩と話が終わり、先輩が席に着くとタイミングを見計らったかのように帝王が生徒会室に現れた。
その横には、にこにこ笑顔の背の高い男子生徒が傍にいる。
……確か、副会長だったよね。
彼もまた攻略対象で、結構人気のキャラクターだったはず。
帝王と彼が並ぶと10cm以上身長差があるからだろう。
一見するとどこかのお笑いコンビのような凸凹コンビだ。
帝王は自分の席に座り、副会長が司会を務めるみたいだ。
私たちの前に立つとぺこりとお辞儀をして、進行を始める。
「本日は第1回目ということもあり、顔合わせと委員会の役員を決めます。尚、慣例通り2年と1年を中心に決めますのでよろしくお願いします」
まあ、委員会は1年間通して行われるものだから、3年生は受験生ということもあり大変だろう。
そこらへんはよくわかる、非常によくわかるのだけど。
副会長の言葉を受けた帝王の視線が、夏輝にしか向いてないことが非常に気になる。
当の夏輝は視線を感じているだろうに、関係ありませんとばかりにしら~っとしているし。
あれ?これってデジャブ???
どこかで見たような……?
私が首をかしげている間にも、生徒会役員の女子生徒が黒板に役職名と定員人数と学年を書き出していく。
委員長(2年・1名)みたいな感じだ。
ちなみに1年生は副委員長と書記と1年総代表の3役を務めなければならないらしい。
「自薦・他薦は問いません。誰かなりたい方・ふさわしい方はいらっしゃいますか?」
その言葉に、2年生を中心に何人かが立候補や推薦をし、2年生の枠はあっという間に埋まってしまった。
ほぼ去年通りなのだろう。
帝王やほかの生徒会役員の皆様は口をはさむことなく、事態の進行を見守っている。
問題は1年生なのだろう。
いくら内部生が多いと言っても、やはりそこは1年。
立候補することも、推薦することもなくなかなか枠は埋まらなかった。
すると事態の成り行きを見守っていたのだろう。
帝王が徐に手を挙げて、発言の承認を得る。
「はい、会長。どうぞ」
「誰もならないのであれば、俺が推薦という形をとっても構わないか?」
「……え、それは……。一応学級委員会であって生徒会じゃないので、あまり役員が口出しするのは…」
帝王のセリフに、言葉に詰まる副会長。
ほかの生徒会役員の反応を見ても、あまりいいことではないのだろう。
皆様の頬に一筋の汗が見える。
しかし1年の学級委員の面々は違ったらしい。
帝王の言葉に皆の雰囲気は「どうぞどうぞ」状態だ。
確かにこのままでは前に進めないからいいのかもしれない。
しかも帝王の生徒会長の推薦を断ることは誰もできないだろう。
これで確実に1年生の枠は埋まる……が。
だけどこれって、夏輝をロックオンしてるよねぇ?
「1年生も俺が推薦することに意義はないみたいだぞ」
「はぁ、わかりましたよ。どうぞ、会長」
司会の副会長も空気を読んだのだろう。
帝王の言葉に今度は渋々といった感じでOKを出す。
その時、今までずっと夏輝に向いていた視線が私の方に向いたのは気のせいではないだろう。
にやりと悪い笑みを浮かべた帝王は。
「書記にB組崎谷を推す」
と言い放ったのだった……。