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モブ女、友達ができる

 あれから二週間が過ぎた。

授業もやっと通常サイクルになり、生活にも慣れてきたと思う。

夏輝とは、不信がられない程度の距離も取れているし。

うん、順調順調!




「とか思ってるのは成実だけだからね」

「う……っ!」




 今はお昼休み。

私と志乃ちゃんはいつものように、学食でお昼をとっていた。

ちなみに私はお弁当を食堂で開いている。

だって、今月志乃ちゃんに奢ったから苦しいんだもん。





夏輝バカは確実に成実のことをうかがってるわよ」

「……そう?」

「ほら今だって」



 志乃ちゃんの言葉にちらっと視線を向けると、そこには私を見つめる夏輝の姿があって。

私が顔を向けると、慌てて視線をそらす。

……夏輝、バレバレだよ、それじゃあ。



 そんなやり取りをしつつ、お昼休みがあと20分で終わろうという頃。

食堂の入り口に、はあはあと荒い息をついて滑り込んでくる一人の学生の姿があった。

彼女は、私たちを見つけるとにっこりと笑って近づいてくる。



「志乃ちゃん、成実ちゃん。お待たせ!」



 にこにこと愛らしい笑顔を浮かべて走ってくるのは愛川さん……もとい、光穂ちゃんで。

結局、同室で委員会も一緒な志乃ちゃんが、仲良くなんて出来ないはずもなく。

関わり合いたくなかった私も、一緒にお昼を食べる仲にまでなってしまったことは言うまでもない。




「遅かったのね、光穂」

「なんかよくわかんない呼び出しだった。お昼休みはご飯を食べる貴重な時間なのに!どこに付き合ってほしいんだか」

「「………」」




 友達として、付き合うようになって早一週間とちょっと。

その間に、光穂ちゃんはもう4回ほどお呼び出しを受けている。

なんでも新入生挨拶の時に一目ぼれをしたとか、すれ違った時に運命を感じたとか。

でも持ち前の鈍感さで、彼女はすべてをスルーしているのだ。






 そう、この光穂ちゃん。

実はかなりの鈍感な神経の持ち主だった。






 あれは私が「名前で呼ぶのはちょっと」事件(志乃ちゃん命名)を起こした翌日のこと。



 私が登校するなりにこにこと笑顔を浮かべて、「ちゃんづけが嫌なら成実さんって呼ぶね」と高らかに宣言してきたのだ。

しかも「名前にさん付って、なんかお姉さんになった気分でちょっとうれしい!」とかなんとか言葉を付けて。

さすがの私も何も言えず絶句していると「じゃあ成実さん、これからもよろしくね!」と、私の右手を両手で握りしめてぶんぶんと縦に振る始末。

志乃ちゃんは、ツボに入ったのかプルプルと肩を震わせながら笑いをこらえているし。

……結局、クラスメイトから「名前+さん」で呼ばれるのはむず痒かったので、「ちゃん」付けでいいよと許したのは苦い思い出だ。





 大体において、私は積極的な人間が苦手だったりする。

昔はなんでこんなに積極的な人が苦手だったのか理由がわからなかったけれど。

今なら理由がわかる。

前世から、私は一人行動が好きだったのだ!




 思えばコミケやら声優イベントやらには、よくひとり参戦をしたし。

現地でその時知り合った人と楽しくおしゃべりをすることはあっても、常に戦いの場では一人だった。

本を狩るのに、友達はいらない!が私の信条だったと言っても過言ではない……はず。




 自分の領域テリトリーを私は常に持っていたかったのかもしれない。

……よく、会場で出会った人と結婚したよね、私……。





 志乃ちゃんはまるで空気のようにそばにいてくれるから平気だったけど、光穂ちゃんは鈍感だからね。

土足でずかずかと私の領域テリトリーに入ってきては、引っ掻き回してくることもある。

でもそれは全然嫌味じゃないから、怒ることもできないんだな、これが。



 最近では主人公だからか!?と諦めていることもあって。

そういえば、ゲーム主人公って恋愛相手のことだけを考えて行動してるもんな……。

恋愛対象が現れる場所に(用もないのに)行ってみたり、ほかの人がいるのに声をかけてみたり。

あれって一歩引いて考えると、振り回されまくっている周りもいるってことだ。

今度ゲームを買う時は、そのことも考えて買おう…。





 光穂ちゃんは、今日のおすすめであるカレーを買うと席に戻ってくる。

私と志乃ちゃんはもう食べ終わってるので、午後の授業について談笑していた。

午後の授業は担任の授業だったはず。

うげー、あの人苦手なんだよね。

私を学級委員に勝手にしたことは今でも恨んでるぞ。




 とか考えていたら、光穂ちゃんが思い出したように「あ」と小さく声を上げた。

ちなみに、光穂ちゃんはカレーを5分で完食している……。

早食いは太るんだぞーーー!!!

光穂ちゃん、スレンダーな美人さんだからな……。

マジで妬ま……羨ましい。

早く滅しろ、私の胸!!!






「そういえば、今日って初の委員会があったよね」

「あら、そういえば?」

「!!だ、駄目だよ、志乃ちゃん!忘れて帰ったら!!私一人で参加するなんて寂しいんだからね!」



 光穂ちゃん、カレースプーンを振り回しながら志乃ちゃんを説得しないでくれるかな?

カレーが飛んで……ほら制服についた。

知らないよ、後でカレーが落ちなくて泣いても。








 しかし委員会か。

学級委員会は、確か生徒会室に集合だったはず。

また夏輝と帝王のバトルを見ることになるのかな?





 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。



 あのイベントはゲームで見るから面白いのであって、巻き込まれると確実にわかっていると憂鬱以外の何物でもないよね。

周りの気温が、一気に氷点下になるんだもん。

ほんと、勘弁してほしいよ。





「委員会……嫌だな」

「あ~、成実ちゃん学級委員だもんね。私たちみたいに気楽に……ってわけにはいかないか。可哀想…」

「なら光穂ちゃん、私と交代し……「絶対に嫌」」



 ううっ、喰い気味に否定された……。

そういえば光穂ちゃんは外部生だから、帝王に憧れとかないもんね。

学級委員会が生徒会室に集合と発表されたとたん、何人かの女子が「なっとけばよかった」と言ってるのを聞いた気がする。

でも担任が交代はもう認められないとか言ってたっけ。




 今からでも遅くないから、私と交代しよう、マジで。




 私の憂鬱をよそに、志乃ちゃんと光穂ちゃんは楽しそうに図書委員会についてお話している。

ああ、放課後なんか来なければいいのに。







 その時無情にも、午後の予鈴が食堂に鳴り響いたのだった。

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