モブ女、過去を語る(その1)
更新再開します!
結局誘惑に負けて一口もらってしまった……。
非常に美味しかったです。
「で、結局成実はどうしたいの?」
「え?どうしたいって?」
「夏輝とのことよ。成実の口ぶりだと愛川さんと夏輝が付き合えばいいと思ってるみたいだけど」
スプーンを振り回して、志乃ちゃんが私に問いかけてくる。
でもその問いかけに、今の私は答えを持ってはいなかった。
ただ。
「私は……夏輝から離れなくちゃいけないの」
私から夏輝を解放してあげたい、それだけ。
「それって……私たちが出会う前にあった事件が原因?」
「知ってたの?」
「まあね、お節介な同級生からよく言われたもの。崎谷成実に近づくな、姫宮夏輝がキレるぞって」
「……」
私と志乃ちゃんの出会いは中学校の時。
小学校は学区が違って、別々の学校だったから。
そして、あの事件が起こったのは小学校のとき。
志乃ちゃんは、だから知らないのだ。
そしてその話を私も夏輝もあえてしない。
今思えば、他愛もない事件だろう。
だけど、小学生だった私たちには大きな事件だったのだ。
私と夏輝、そして春輝の3人は赤ちゃんの頃からの幼馴染だった。
当時から一緒にいるのは当たり前で、それがいつまでも続くと思っていたのだ。
そんなことあるわけないのにね。
ずっと小さい頃は男だとか女だとか関係なくなんでも一緒にやった。
お風呂だって一緒に入ったし、プールだって体育だって寝るのだって一緒。
それが当たり前で、日常だった。
だけど高学年になるにつれて、男だとか女だとかの線がはっきりしていって。
周りの視線がどんどん変化していった。
そのころから夏輝は(春輝もだけど)綺麗なお人形さんみたいな造形をしていた。
小さいころは女の子に間違えられるのは当たり前。
「男女」とか「ひよわ」とか言われてからかわれる事すらあった。
(まあ夏輝は昔から性格は形成されまくってたので、泣かされることなくつーんとしてたけど。)
だけど、高学年になるにつれて背がぐんぐん伸びていった。
それと同時に、どんどん男の子らしくなった。
小学校5年生になる頃には校内だけじゃなく、周囲の学校とかにまでその人気は飛び火していて。
夏輝を一目見ようと、校門の前には常に2、3人の女の子がいたくらいだ。
対して私はどこにでもいる普通の女の子で。
ただあの頃は今と違ってもう少し友達がいた。
夏輝や春輝とも遊ぶんだけど、女の子のグループにも所属していて。
今よりも普通に学校生活を送っていたかもしれない。
そんな私たちに転機が訪れたのは小学5年生の時。
林間学校で初めてのお泊りをした時のことだ。
女子というのは今も昔も恋バナというものが好きである。
当然、みんなの恋バナにも花が咲いた。
そして、そこで私は標的にされたのだ。
「ねえねえ、成実ちゃんと夏輝くんって恋人なの?」
「え……?」
「だっていつも一緒にいるじゃない!怪しいな~」
布団にもぐって、みんなの恋バナを聞きながら私はうとうとしていた。
そんなとき今はもう名前すら忘れた、近くにいた別の女子グループの子が声をかけてきた。
その子はクラスの中心人物的な存在で。
今思うと若干みんなから恐れられていたのだと思う。
当時の私も、できれば関わり合いになりたくないと思っていたから。
だけどその子は、この話が聞きたくて恋バナを仕掛けたのかもしれない。
自ら始めた恋バナが盛り上がってる中、私に質問をぶつけてきたのだから。
「恋人じゃないなら、あたしに夏輝くんちょうだい?」
「え?」
「だって恋人じゃないのにいつも一緒にいるっておかしいでしょ?夏輝くんだって心の中じゃ嫌がってると思うよ~」
「……っ!そんなことない!夏輝はそんなこと思ったりしないもん!」
大事な大事な私の幼馴染。
いつも優しくて、時には面倒くさくて。
でも最後には優しい、大事な幼馴染。
なのに『物』みたいにちょうだいって。
しかも私たちのことなんかわかりもしないで、わかったように夏輝の心情を語るその子がどうしても許せなかった。
だから普段は、あんまり声を荒げないのに。
その時ばかりは大きな声で怒鳴り返してしまったのだ。
その瞬間、女子部屋の空気が一気に下がったのがわかった。
怒鳴られた女子は唇をわなわな震わせて、布団にもぐってしまったし。
少し布団が震えていたから、泣いていたのかもしれない。
みんなも興醒めとばかりに、恋バナを止めて布団にもぐってしまった。
その日から、私はクラスの女子を敵に回したのだった……。
次話よりいじめ表現がありますのでご注意ください。