モブ女、絶叫する(その2)
しかし、志乃ちゃんは恥ずかしいとは思っていなかったみたいだ。
そのまま店員さんを呼び止めると、デザートを注文し始める。
「このロイヤルチョモランマチョコレートパフェください」
それ、お値段1500円もする超高級品じゃないか!!
なんてリッチなの、志乃ちゃん!!
店員さんはあまりこのテーブルに関わりたくなかったのだろう。
注文を聞くと復唱することもなく、そのままそそくさと立ち去った。
そんな店員には目もくれずに、志乃ちゃんは氷の溶けきったアイスコーヒーを飲み干す。
ううっ、強者だ!!
「で、愛川さんがゲームの主人公なのは間違いないの?」
「う、うん。デフォルトのアバターだと、あんな感じの容姿だったと思う」
実際初めてこのゲームをプレイした『あたし』が操ったのは、愛川さんみたいな容姿だったと思う。
ただワンダーワルツはゲームをクリアするごとにカスタマイズ機能が増える仕組みで。
カスタマイズをしまくった結果、最後にはキャラが原型を留めてなかったので、記憶は曖昧だけど。
「私はゲームには出てなくて、愛川さんと同室でもないっていうのがゲームとの相違点?」
「あとは生徒会長の対応と、入学式が全然違うベントになってた」
生徒会長はゲームだとあんなに隙がないキャラじゃなかった。
もっと突っ込みどころが満載で、愛すべき弄られキャラって感じだったと思う。
あとは入学式。
あそこで愛川さんが代表挨拶をするってイベントは絶対に起きなかった。
だってあのイベントがないと、愛川さんが夏輝を認識できないのだから。
「でもそのイベントを阻止したのって、成実よね?」
「う・・・っ」
そう、そのイベントを阻止したのは私に他ならない。
だって私が倒れるってイベント自体、ゲームにはなかったのだから。
「夏輝がクラス委員になるイベントはあるの?」
「あ、それはあるよ。VS生徒会長ルートだと発生するの」
「ば、ばーさす・・・?」
「でもあれ発生は2周目以降なんだけどな」
私の説明に志乃ちゃんはわけわかんないという顔をしている。
ていうか若干引いている。
だって仕方ないじゃない。
そういうイベントルート名なんだから。
ちなみにこのルート、夏輝を本命にしつつ帝王の好感度を最高まであげてクリアした場合のみ発生する。
夏輝と帝王の両方を落とすことのできる、ハーレムエンド(というか両手に花エンド)の一種なのだ。
クラス委員になるってことは、生徒会とも当然関わり合いになるということが多くて。
夏輝と帝王の冷戦をいっぱいみられるってことで、人気のルートだったりもする。
といっても、発生条件が難しくこのルートに入るの、結構苦労した思い出が・・・。
「じゃあゲーム通りに今のところ進んでないのね」
「うん」
「悉く、成実が邪魔してるのね・・・今のところ」
がーん!
私もそう思ったけど、あえて言わないようにしてたのに!
って・・・?
「なんで悉く?私が邪魔したのは入学式だけだよ」
「違うのよね、それ。・・・実をいうと、成実が入寮した場合私と同室になることが決まってたの。父にお願いしてたから」
・・・・・・・・・・・・・・・・・は?
「なんでそこで志乃ちゃんのお父さんが?」
「・・・言ってなかったかしら?私の父はこの泉が丘の理事をしているのよ・・・・。私の母が蔵前の出身だから」
「え・・・?」
「晃さんとは、いわゆるハトコなのよね」
あ、晃さん???
・・・って、帝王かぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
聞いてないよぉぉぉぉ!!??
あっさり爆弾発言をする志乃ちゃんを、私は思わず凝視する。
ついっと頬に一筋の汗が見えるところを見ると、まずいと志乃ちゃんも思っているらしい。
春輝といい志乃ちゃんといい、まだまだ甘いな!
(※5話参照)
でもまあ、これで納得いったよね。
公立の高校を目指していたはずの志乃ちゃんが、私に合わせてあっさりとこの学校に決められた理由が。
普通、私立高校に一緒に来るなんてありえないもの。
いくら名門といってもね。
・・・金銭的な面で、親泣かせの学校だから。
「じゃあ、私は無意識のうちにイベントを潰しまくっているということ?」
「まくってるって程じゃないとは思うけど、そういうことになるのかしら」
志乃ちゃんは届いたRCCPをおいしそうに頬張りながら、無情にも言い放つ。
くっ、おいしそすぎるよ!そのRCCP!!!
あ~んとかしないで志乃ちゃん!!
ダイエット中の私にはその一口が命取りなんだ!
ううっ、早く小っちゃくなれ、胸!!!!