モブ女、絶叫する(その1)
「う~、う~、う~」
「何唸ってるのよ?」
「これが唸らずにいられる!?陰謀だ!」
ダンダン!!
私は思わず飲み物が乗っているにもかかわらず、テーブルをたたいた。
目の前の志乃ちゃんが呆れた顔をしている。
だって、だって、だって!!!
「図書委員に志乃ちゃんがなるなんて、ひどい!!!」
「そこなの?」
「そこ重要!!」
そう私がなれなかった図書委員は、志乃ちゃんが立候補して幕を閉じた。
あと愛川さんも何故か図書委員になったのには驚いたけど。
ちなみにゲームだと、委員会はパラメータ上げに重要な要素を持つ。
攻略キャラによって重要パラが違うため、委員会に入ったり入らなかったりしていたっけ。
「まあ、いいじゃない。成実の雪辱を私が晴らしてあげたんだから」
「絶対に違う・・・。自分の好きな本を優先的に仕入れてくれるツテがいないからでしょ・・・」
「あら、よくわかってるじゃない」
中学時代。
やっぱり本が好きだった志乃ちゃんは、図書委員だった私に「この本を入れてくれ」ってよく脅し・・・頼んできたっけ。
高校でもそうしようと思ってたんだろうけど、残念。
私は何故かクラス委員になってしまったので、目論見は外れたというわけだ。
相変わらず唸ってにらんでる私に、志乃ちゃんは少し居直ると唐突に話を切り替えてきた。
「で、話を聞かせてくれるんでしょ?」
「う・・・っ、覚えてました?」
「もちろん」
だって、そのためにわざわざここまで来たんじゃない?
にっこりと悪魔の笑みを浮かべた志乃ちゃんは相変わらず綺麗で、同性の私から見てもうっとりしてしまう。
まあ雰囲気的には、こんなファミレスじゃなくクラブとかのほうが似合いそうだ。
私たちは今、学校近くにある某有名チェーンのファミレスに来ている。
そそくさと帰ろうとした私を志乃ちゃんが強制的に引っ張ってきたのだ。
(引っ張られる私に、夏輝が何か言いたそうにしていたけど、志乃ちゃんが視線で黙らせていた。)
中々話を切り出そうとしない私に焦れたのか、志乃ちゃんが直球で疑問を投げかけてくる。
「なんで愛川さんから隠れるような真似をしたの?別に人見知りじゃないでしょ」
ううっ、いきなり核心来た・・・。
そうだよね、私人見知りじゃないもんなぁ。
昔からモブ体質の普通少女だったけど、別に人付き合いが苦手というわけではない。
クラスの行事には和を乱さない程度には参加してきたし、ほかのクラスメイトとだって必要とあれば話している。
ただ自分から行動をしないってだけだ。
そんな私を知っているからこそ、志乃ちゃんは不思議に思っているのだろう。
でも、説明できるわけないよね。
ゲームの主人公と仲良くするシナリオなんてなかった!
とか言った日には病院行きだよ・・・。
私が返答にまごついていると、志乃ちゃんは「はぁ~」と大きなため息をついた。
そしてテーブルの上に出ていた私の手を、そっと両手で握りしめてきた。
その綺麗な瞳には涙を浮かべて、私をじっと見つめてくる。
「ねえ、成実と親友だと思ってるのは私だけ?」
「え?」
「中学の時に意気投合して以来、ずっと仲良くやってきたと思ってたんだけど・・・そう思ってるのは私だけだったみたいね」
「そ、そんなこと!!」
「じゃあなんで話してくれないの?」
志乃ちゃんの怜悧な瞳から、今にも零れ落ちそうな涙。
いつもとは違う。
本気で心配してくれているのがわかって、私の心は大きく揺らぐ。
大事な、たった一人の親友の志乃ちゃん。
いつも優しくて、ちょっとだけずるくて。
でも最後はいつも、私の味方でいてくれる。
胸を張って言える、大事なかけがえのない友達。
だから・・・。
「わかったよ、全部話すね。ちょっとだけ長くなるけど」
馬鹿にしないで聞いてね?
私は志乃ちゃんに、全部話すことを決意した。
前世、ゲーム、主人公。
私は思い出したことを全部話した。
そんな私の話を、志乃ちゃんは笑うわけでもなく真剣に聞いてくれて。
全部話し終えた時、テーブルに乗っていた飲み物の氷は溶けきっていた。
「そう、ここが『ワンダーワルツ』とかいうゲームの世界・・・ね」
「うん。信じられないだろうけど、ね」
私だっていまだに信じられない。
ずっ15年間信じてきた物が、全部壊れてしまった。
そんな感覚なのだから。
志乃ちゃんにはもっと信じられないと思う。
でも。
志乃ちゃんは私の予想をはるかに超える思考回路の持ち主だってことを。
この時の私はすっかり忘れていた。
「ふ、ふふ・・・」
「し、志乃ちゃん?」
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
こ、こわいよう!!!
志乃ちゃんが、壊れた!!!
少し目を伏せて肩を震わせている志乃ちゃん。
その様子に私だけじゃなく、近くで飲み物を運んでいた店員さんまでもが驚いている。
そして。
「なんでこんな面白いこと、成実は黙ってるのよ!!」
笑いながらいきなり立ち上がると、志乃ちゃんは私に指をびしぃぃぃ!っと突きつけて、そう言い放った。
「ちょっ、志乃ちゃん座って!!!」
みんなが見てるよーー!!!
ざわざわしてる周囲に気付いたのだろう。
志乃ちゃんは小さくこほんと咳払いすると、すとんと席に座った。
恥ずかしすぎてしばらくこのファミレスに来らんない!!
私がそう思ったのは言うまでもない。