モブ女、はめられる
波乱の校内案内から一転。
クラスに戻ってきた時には、すでにみんなぐったりしていた。
まああんなイベントが起こったのだから仕方ない。
一部の女子は啖呵を切った夏輝に、増々熱い視線を送っているが。
当の夏輝はどこ吹く風。
さっさと自分の席に戻り、鈴原君と話をしていた。
まあ不機嫌な様子は隠していないので、鈴原君が宥めているといったのが正しい気もするけど。
しかし帝王の最後の視線の意味は一体なんだったんだろう?
じっと見られたような・・・?
いや、気のせいだよね?
そう自分に言い聞かせて、委員会決めに心を戻す。
待ちに待っていた委員会決め。
私はすでに心に決めている。
委員会は絶対に図書委員会か美化委員会に入ると!
だって校内案内で見た図書室の蔵書量の多さ、そして温室の薔薇園の美しさ。
どっちも捨てがたいんだもの!
まあ選ぶなら本が好きなので図書委員会かなって気もするけど。
そんなことを考えていると、隣の席の志乃ちゃんが声をかけてきた。
「成実はやっぱり図書委員になるの?」
「うん!だって本に囲まれてるのってこの上ない幸せじゃない?」
「・・・その考えには賛同するけど、本の整理をするのが面倒なので私はパスね」
志乃ちゃんならそう言うと思ってたよ!!
一緒に図書館ライフを満喫してくれるなんて思ってなかったよ!!
私がいじけていると、担任が教室に入ってきて黒板に主な委員会を書き出した。
よしよし、図書委員会はあるね。
・・・美化委員会はないの?
中学の時はあったのに!!
よくよく考えてみると、部活案内のところに『園芸部』なんてものがあった気がする。
・・・そこに入部しようかな?
「じゃあ委員会を決めるぞ」
担任の言葉にクラスの視線が黒板へと向かう。
私の目当ての図書委員会をはじめ、代表的な委員会はきちんとあって。
クラス委員、定員男1名・女1名、の項目もあった。
まあ、私がクラス委員になることはないと思うのでそこは放っておく。
モブにはそんな花形委員会なんて似合いません。
「まずはクラス委員からな。誰か立候補したい奴はいるか?」
し~~~ん。
まあ、お決まりだよね。
誰も手なんかあげない。
時々お調子者が手を上げたりするが、大体は立候補しないのが普通だろう。
先生も初めからわかっていたのだろう。
すぐに言葉をつづける。
「なら推薦したい奴はいるか?」
この言葉って曲者だよね。
だって自分がなりたくないから、他人に押し付けろってことでしょ?
しかもまだ入学して2日目。
ほかのメンバーのことなんかよくわかんないんだから、押し付けた奴がいい奴だとも限らない。
案の定、ここでも手が挙がることはなかった。
ん~、こうなると先生の独断と偏見で委員会が決まるぞ。
「自薦・他薦はなしか。じゃあ俺が勝手に決めるぞ」
・・・やっぱりな。
あらかじめこうなると予想していたのだろう。
先生が持っていた手元の資料を捲る。
そこに何が書かれているのか気になるが。
おそらく内申点とか中学時代の人物評価とかかな?
なら私はいわゆるよくもなく悪くもなく、普通だったので除外されるだろう。
よかったよかった。
そう思っていた時期もありました。
次の担任の一言を聞くまでは。
「よし、クラス委員女子は、崎谷成実、お前な」
「・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
イマナントオッシャイマシタカ?
みんなの視線が私に集中するのがわかる。
う・・・っ、こんな視線耐えられないよ!!!!
今までの人生で、こんなに視線をあびたことなんてなかったよ!!!
思わず私は立ち上がって先生に抗議する。
「せ、先生!私、図書委員会がやりたいです!なのでクラス委員は・・・」
「言っただろ?俺が決めるって。異議は認めん」
しかし私の抗議に先生はにっこりと笑うと、あっさりと切り捨てた。
うそーーーー!!!!???
この独裁者ーーー!!!!
いいのか、担任がそんなんで!?
不平不満がでるぞ!!!(主に私から)
まだ親しくないせいか、誰も助け舟なんか出してはくれず。
縋る思いで隣の志乃ちゃんに視線を向けると、そこには笑いをこらえてプルプル震える志乃ちゃんの姿があって。
し、志乃ちゃん!!
おなかを抱えて、笑いを堪えないでくれる!?
顔が歪んで、面白いことになってるよ!?
先生は無情にもそのまま黒板に向かうと『クラス委員 女子(1名)崎谷』と書きやがった!!!
そしてそのまま私には目もくれずに、次の言葉を続けようとする・・・が。
「先生、クラス委員の男子は俺がやります」
先生の言葉を遮る勇者が現れた。
・・・うん、正直予想してたよ、この展開。
そこには不機嫌を隠そうともせず立ち上がった、幼馴染の姿があったのだった・・・。