第1話 (2)
一方、玄関口で浬と別れた鴻は、2階の自室のベッドに横になっていた。
クーラーと扇風機を同時に付け、太陽にやられた熱い体を冷やす。
(女と同居、ねぇ……)
叔母からは一言も聞いていなかった。聞いていたところで何も変わりはしないだろうが。
鴻は枕に顔を埋める。次第に肩が小刻みに揺れ、笑いが止まらない。
久しぶりに面白い玩具を手に入れた。多少手荒く扱っても、壊れなそうな玩具。
どう遊んでやろうか。なんて考えていると、机の上に置いた携帯が震えた。
マナーモードにしているのは、単に音の設定が面倒なだけ。
「うるせぇなぁ……」
鴻は携帯を取るでもなく、机から目を背けた。
先程帰ってきたばかりで気だるい鴻に、携帯を取るという選択肢はない。
主に取ってもらうまで震え続けるところを見ると、メールではなく電話のようだ。
ひとしきり震え続け、やがて止まった。
着信があったことを伝えるランプがチカチカと光る。
(……たく、面倒くせぇ)
負けた。鴻はため息を吐くと重い体を起こし、携帯に手を伸ばす。
着信が誰であったか確認だけしようとディスプレイを開くと、同時にメールが入った。
『件名:3
本文:花のところ』
本人にしかわからない、暗号のようなメール。
鴻は伸びをすると、意を決したように立ち上がった。
ようやく効いてきた部屋の冷房も、名残惜しそうにスイッチを切る。
(今日もうちょっとイジってやろうかと思ったんだけど)
今日は終わり。明日からは、ずっと遊び放題なのだから。
鴻は棚に飾ってある香水の小瓶を手に取ると、シュッと一吹き首筋にあてた。
スタンドミラーの前に立ち、ワックスで髪型を整える。
準備はバッチリだ。
――カチャン。
鴻がカバンに手を伸ばすと同時に聞こえてきたのは門の音。
窓から様子を窺うと、彼の双子の兄、鴇が帰ってきたところだった。
玄関から小さく「ただいま」と声が聞こえる。
鴻は口端を不敵に歪ませると、全ての身支度を済ませ、急ぎ足で部屋を出た。




