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石の記憶 過去編 遺されたもの


病院へ通う日々は続いていた。

父の病状は少しずつ悪化していた。

仕事を終え。

病院へ向かう。

父と話す。

家へ帰る。

また翌日を迎える。

そんな毎日の中で、

智彦のスマホケースには龍眼天珠が揺れていた。

首元にはモルダバイトのチョーカー。

香苗から貰った天珠。

ミネラルショーで見つけたモルダバイト。

どちらも特別な意味で身につけていたわけではない。

ただ気に入っていた。

それだけだった。

ある日。

病院の帰り道。

香苗がぽつりと言った。

「最近疲れてるね」

「まあね」

智彦は苦笑する。

疲れていないと言えば嘘になる。

仕事。

病院。

将来への不安。

色々なものが積み重なっていた。

それでも父の前では笑っていた。

父もまた、

息子が無理をしていることに気付いていたのかもしれない。

数か月後。

父は静かに旅立った。

葬儀。

手続き。

親族への対応。

慌ただしい日々が続く。

気が付けば、

智彦はほとんど眠れていなかった。

そして四十九日を迎える少し前。

ある朝。

スマホを見た智彦は首を傾げた。

龍眼天珠がない。

スマホケースの紐だけが残っていた。

「あれ?」

探した。

車も見た。

職場も探した。

病院へ続く道まで思い返した。

見つからなかった。

数日後。

今度はモルダバイトだった。

首元が妙に軽い。

チョーカーのワイヤーが切れていた。

モルダバイトも見当たらない。

智彦は思わず笑った。

「そんなことあるか?」

短期間に続けて。

龍眼天珠。

モルダバイト。

どちらも消えた。

後日。

香苗と天然石店へ立ち寄った時だった。

事情を聞いた店員が驚いた顔をする。

「え?」

「同じ時期ですか?」

「うん」

店員はしばらく考える。

そして。

「偶然かもしれませんけどね」

そう前置きしてから続けた。

「ストレスをずっと受けていたアクセサリーが限界を迎えることはあります」

「身代わりというより……」

「ギリギリまで抱え込んでいた結果というか」

香苗が黙って聞いている。

智彦も黙っていた。

もちろん科学的な話ではない。

証明もできない。

ただ。

店員は最後に言った。

「それにしても」

そして香苗を見る。

香苗も同じ顔をしていた。

「このタイミングで切れますかね……」

店内に小さな沈黙が落ちる。

智彦は苦笑した。

「偶然でしょ」

そう言う。

そう言うしかない。

本当に偶然かもしれない。

父を見送る時期と重なっただけかもしれない。

ただ。

帰り道。

夕暮れの空を見上げながら、

智彦はふと思う。

龍眼天珠。

モルダバイト。

あれは何だったのだろう。

答えは出ない。

そして出なくてもいい。

ただひとつ確かなことは、

父を見送った日々のそばに、

あの二つがあったことだけだった。

夕暮れの風が吹く。

隣では香苗が歩いている。

智彦は小さく笑った。

そして二人はゆっくりと駅へ向かう。

消えた石の代わりに、

記憶だけを残して

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