第二百三十七話:【砂上の要塞:巨大掘削と底固め】
第二百三十七話:【砂上の要塞:巨大掘削と底固め】
朝の光が東の海を照らし出す。
昨日確保した広大な砂浜を前に、サキモリは地形の最終確認を終えて四人に向き直った。
「これより、塩田の基盤を構築します。エレンさんは掘削、アリサさんとミャオさんは底固め、ルミナ先生は乾燥をお願いします」
サキモリの指示が飛ぶと同時に、まずエレンが動いた。彼女は弓を番えると、砂浜の特定の位置へ向けて精密な爆裂魔法を叩き込み始める。
「爆裂、連鎖……! 深度は三十センチで固定します」
乾いた破砕音が砂浜に響き渡る。
サキモリが算出した座標を正確に射抜くことで、砂浜は一定の深さで均一に掘り下げられていく。舞い上がる砂塵の向こう側で、混沌とした荒地が整然とした長方形の窪みへと姿を変えていく様は、もはや土木機械による精密な切削作業そのものだった。
エレンが掘り進めた直後、その窪みへアリサとミャオが飛び込む。二人の背後には、サキモリがストレージから供給した特殊配合のモルタルが運び込まれていた。
「ミャオ、角の処理を。私は中央の水平を出します」
「了解にゃ! 一滴も逃がさないように隅まで固めてやるにゃ!」
アリサがトールハンマーを振るい、凄まじい重圧でモルタルを砂の底へ叩き込んでいく。同時にミャオが、その俊敏な動きで壁面と底の接合部を隙間なく塗り広げ、水漏れを許さない完璧な床と壁を形成していく。
だが、塗り立てのモルタルはまだ柔らかい。海水を流し込むには強度が足りない。そこで空からルミナが舞い降りた。
「みんな、そのまま進めて。私がすぐに固めてあげるわ」
ルミナは塩田の上を自在に滑空し、塗り終わった先から高密度の風魔法を吹き付けていく。
風による強制乾燥。
ルミナが通り過ぎた後の床は瞬時に白く乾き、人が乗ってもびくともしない強固な石の器へと変貌を遂げた。
数時間が経過した頃。
かつてただの砂浜だった場所には、五十メートル四方にも及ぶ巨大な「灰色の器」が完成していた。
「……にゃー、もう腕がパンパンだにゃ。これ以上はコテを振れないにゃ……」
ミャオが砂浜にひっくり返り、力なく尻尾を振る。
「これはさすがに疲れますね。聖都の石畳をすべて一人で張り替えたような気分です」
アリサも額の汗を拭い、大きく息を吐いた。通常の土木作業員が数百人で数ヶ月かける工程を、彼女たちはわずか数時間で完遂させていた。
「お疲れ様です。皆さんのおかげで、完璧な基礎が組み上がりました」
サキモリは労いの言葉をかけつつも、歩みを止めない。彼はストレージから、次なる工程の図面を広げた。
「器は完成しました。次は、ここへ海という『命』を流し込む仕組みを作りましょう」
(第二百三十八話へ続く)




