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勇者召喚、ヤバいのが混じってた。 ~近代兵器と戦い抜いた男は、異世界で慈愛を振るう~  作者: 風水
第三章:絶望の隣国、レベル1の進撃

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第十二話:弾幕の洗礼、伝統の終焉

第十二話:弾幕の洗礼、伝統の終焉


1.伝統の袋小路


クレイオス領の奥深く、険しい岩山に隠されたレジスタンスの拠点。そこには、奪われた故郷を取り戻そうとする兵士たちの熱気と、それ以上に重い「限界」という名の閉塞感が漂っていた。


「――サキモリ様。折り入って、お願いがございますの」


拠点の中央広場。銀髪を高く結い上げたエレンが、愛用の大弓を手にサキモリの前に立っていた。その瞳には、昨日の戦場で見せつけられた「未知の暴力」への困惑と、それを超えようとする武人としての矜持が宿っている。


「昨日のあなたの戦いぶり、夜も眠れぬほどに考え抜きましたわ。ですが、私の積み上げてきた武術の理では、どうしても説明がつきません。……どうか、私と手合わせをしていただけませんこと? 私の武を、これ以上どう磨けばよいのか。その答えを、あなたの槍で示していただきたいのです」


サキモリは、手元で再生槍の穂先を点検していたが、無表情な瞳をエレンへと向けた。


「……。手合わせですか。それは、実戦に向けた訓練シミュレーションの一環と捉えてよろしいですか?」


「ええ、もちろん。全力で参りますわ!」


エレンが弓を構える。その所作は、まさに芸術品のように完成されていた。


2.届かぬ「一射」


「――参ります!」


エレンの指から弦が放たれる。

矢は吸い込まれるようにサキモリの眉間へと突き進む。だが、サキモリは首をわずか数センチ傾けただけで、その必殺の一射をやり過ごした。


二射、三射。

エレンの射撃は、どれもが「急所」を、寸分の狂いもなく射抜こうとするものだった。クレイオス公国に伝わる古流弓術。それは、限られた矢で確実に敵を屠るための、研ぎ澄まされた「一点」の武である。


しかし。


「……。丁寧すぎます」


サキモリは、ただ歩いていた。

飛来する矢を、最小限の予備動作で、まるで雨粒を避けるように回避し続ける。


「当たれ……っ、なぜ当たりませんの!?」


エレンの焦りが募る。一時間、二時間。エレンの呼吸が乱れ、肩が上下し始めても、サキモリは一滴の汗も流さず、ただエレンの周囲を回遊するように動くだけだった。


「……もうやめましょう。これ以上続けても、あなたの矢が私に当たることはありません」


サキモリの平坦な声が、エレンの自尊心を鋭く抉る。


「……まだ、まだですわ! 私の誇りを、この一射に!」


エレンが最後の一矢を番え、渾身の魔力を込めて放つ。それは、空気を切り裂く雷鳴のような一撃だった。

だが、その矢がサキモリの鼻先を通過する瞬間、彼は「回避」ではなく「前進」を選択した。


視界からサキモリが消えた、とエレンは錯覚した。

次の瞬間、彼女の首筋には、冷たい金属の感触があった。


「……やめましょう。これで、私の勝ちですね」


至近距離。エレンの視線の先には、くすんだ槍の穂先を正確に彼女の頸動脈に突き立てた、サキモリの無機質な瞳があった。


3.美学を殺し、「構造」を撃て


エレンは力なく弓を降ろした。


「……完敗、ですわ。……ですが、解せません。私の射撃は完璧だったはず。これ以上、何をどう磨けば、あなたのような怪物に届くというのですか?」


「エレン殿。あなたの弓は、美しすぎます」


サキモリは槍を引き、静かに告げた。


「あなたの『一射一殺』は、一点に荷重をかけすぎている。それは、敵があなたの美学に付き合ってくれることを前提とした、脆い構造です」


「美学……? 武術において、精度を高めることが間違いだと言うのですか?」


「実戦において、精度は変数のひとつに過ぎません。必要なのは『美学』ではなく――『弾幕』による面制圧です」


サキモリは、地面に落ちていたエレンの矢を数本拾い上げると、それを一度に掴んで見せた。


「一本の矢を百点にする必要はない。五十点の矢を、百本同時に叩き込む。外れることを計算に入れ、敵の『逃げ場』を物理的に封殺する。……それが、近代的な飽和攻撃の概念です」


「……外れることを、計算に入れる……?」


エレンにとって、それは天動説が覆るほどの衝撃だった。武人にとって「外れる」ことは恥辱であり、克服すべき課題だった。だが、目の前の男は「外れることを前提に、数で制圧しろ」と、冷徹な効率を説いている。


「精度を捨て、速度と手数を選んでください。一点を射抜くのではなく、空間そのものを破壊するのです。そうすれば、私のような個体でも、物理的に回避不能な領域が生まれます」


サキモリの言葉は、冷たい水のようでありながら、エレンの胸に不思議な高揚感をもたらした。

一撃にすべてを賭ける美しき孤独。それを捨て、圧倒的な「物量」という暴力の構造へ。


「……『弾幕』。……あぁ、なんて恐ろしくて、合理的な響きでしょう」


エレンは、震える手で再び弓を握り直した。

その瞳には、伝統を捨てた者だけが持つ、凶暴なまでの「ロマン」が宿り始めていた。サキモリが提示した、感情を排した勝利の形。それに染まっていく自分に、エレンは抗いがたい魅力を感じていた。


「サキモリ様。……私を、再教育リビルドしていただけますこと?」


銀髪のお嬢様が、残酷なまでの微笑みを浮かべる。


「不肖エレン。あなたの『弾幕』となるため、伝統を捨て、新たな戦術を学びたいと思いますわ」


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