表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

ファントム、保護者になる4

 今ではマスターに信頼され、灰島は預かっている鍵で「セグレト」のドアを開ける。 もちろん、それはただの鍵ではない。まず、シリンダー錠を三回右に回し、一度半回転だけ左に戻す。これはマスターが仕掛けた、古風だがピッキングの専門家でも、解錠に数分はかかる特殊な仕掛けだった。


 次に、彼はドアノブのすぐ下にある、目立たない金属プレートに、自らのスマホをかざす。画面には、複雑な幾何学模様が表示されており、それを寸分の狂いもなく、なぞることで、初めて第二のロックが解除される。これは瀬尾が面白半分で、しかし、完璧に作り上げた、二段階認証の電子錠だ。


 カチリと重い金属音が二回、ドアが開けば来客を告げるレトロな鈴も鳴る。


 その瞬間から、10秒。それが、店内に張り巡らされた、第二の防衛網を沈黙させるための、制限時間だ。


 それは瀬尾が仕掛けた、客のプライバシーを侵害しない、ミリ波レーダーと集音センサーの複合システム。そして、マスターが仕掛けた、床と窓、僅かな振動さえも捉える接触センサー。


 ——その全てが、一人の少女を守るための『砦』だ。


 灰島は、二人のプロが作り上げた過剰とも言える防衛網を、まるで日常のルーティンの一部であるかのように、流れるような動作で解除し、店内の照明をつけた。


「おはよう、ファントム」


 マスターはまだ来ていない時間だが、ユキはミルクの入ったカップを片手に2階から降りてきた。


「……ファントムは止めろと言っただろう」


「えーっと、灰島さん、だっけ? 覚えにくいわね。そうね、パパって呼ぼうかしら」


「止めろ」


「ケチ」


 そう言いながら、彼女も用意したサプリを口の中に放り込み、ミルクで胃の中に流しこんだ。


「……」


「……なに?」


「いや」と、灰島は言いたいことを飲み込んだ。


 いつまでここに住むつもりなのか? どこか行く当てはあるのか? これから先どうするつもりなのか?


 今はマスターの好意に甘えているに過ぎない。それは、自分も同じことですべて自分に返ってくる。同じ質問をされた時、彼も返すべき答えを持っていないのだ。


「……いいけど、別に」


 そんな彼の考えなど分かるはずもなく、ユキは不思議そうにそう返しコップをシンクに置いた。


 灰島はそれから、店の掃除を始める。器具をセットし、いつでも営業できるよう備える。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ