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ファントム、保護者になる3

 部屋に入ると、彼はまず、ストイックなまでのクールダウンのストレッチを寸分の狂いもなくこなす。


 それから決まった温度のシャワーを浴びながら、彼はその日、始末すべき「タスク」を頭の中で整理していく。勿論それは暗殺対象のリストではない。喫茶店で仕入れる豆の種類や、ランチの新メニューの試作まで。


 シャワーを浴び終えると、ラフな黒のTシャツとチノパンに着替える。向かうのは小さいながらも、完璧な調理器具のそろったキッチンだ。


 彼は、まず精密なデジタルスケールに、ガラス製のビーカーを乗せた。 棚から取り出したのは、市販のカラフルなパッケージのプロテインではない。ラベルの貼られていない、銀色のパウチが数種類。中にはそれぞれ特性の違う真っ白な粉末が入っている。 ホエイプロテイン・アイソレート、必須アミノ酸(EAA)、クレアチン、グルタミン……。


 彼は、それぞれのパウチからスプーンで粉末を取り出し、0.1グラムの狂いもなく正確に計量していく。 その動きは、料理人のそれではなく、薬品を調合する研究者のように正確無比だった。


 計量した数種類の粉末を、高性能のブレンダーに入れ、浄水器から正確に400ミリリットルの冷水を注ぎ込む。 スイッチを入れきっちり15秒間、中身を攪拌した。


 出来上がったのは、わずかにとろみのある、白く濁った液体。 そこに味や香り、食事を楽しむという、概念は一切存在しない。


 ただ、15キロのランニングと激しいトレーニングによって酷使された肉体を最も効率的に、そして、最短で修復・強化するためだけに、計算され尽くした「栄養素の塊」があるだけだった。


 彼はその液体を、数回に分けて一気に飲み干す。 そして、作業台の上にあらかじめ並べておいた、十数種類のサプリメントをミネラルウォーターで、胃へと流し込んだ。


 彼にとって食事とは、自らの肉体を常に最高のパフォーマンスを発揮・維持するためのタスクに過ぎなかった。


 セグレトで働く前は、コーヒーを淹れるというタスクもあったのだが、最近は練習もかねて店で飲むようになっていた。


「行くか」


 そして、喫茶セグレトに向かうのだ。


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