ファントム、保護者になる2
「あ、そうだ」
アパートにもう少しで到着、というところで玲奈が声を上げた。
「玲奈ちゃんのことなんだけど──」
「……なんだ?」
一瞬、玲奈は灰島が戸惑ったように見えた。けれど、それは本当に一瞬で、今はもう普段通り。だから見間違いだと思い、続けた。
「うん、今はセグレトの2階に仮住まいだけど、どうするのか考えてる?」
玲奈の言う通り、ユキはマスターの好意でセグレトの2階に住んでいる。セキュリティーに若干の不安はあったが、マスターに『大丈夫です』と言われてしまえば、疑いようもない。けれど、玲奈の言う通り、いつまでもそこに住むわけにはいかない。
しかし、10代の少女が独身男性の灰島と一緒に暮らすのは問題があるだろう。血縁関係は一切なく、戸籍上も赤の他人である彼に、彼女の処遇を決める権利はどこにも見当たらない。
「……ユキの好きなようにすればいい」
これが考えた結論なのだが、玲奈はこれ見よがしにため息をつく。
「もう、ユキちゃんはまだ子供なんだから、大人が考えないと!」
「見た目は子供でも、年齢はお前より上だ」
「うっ、そうだった! けど、ほっとくわけにはいかないじゃない!?」
彼女の性格ならそうだろう。
「でね、おばあちゃんに相談したんだけど、空き室あるから、そこどうかなって」
「……」
玲奈の祖母は、灰島も住んでいるアパートの管理人であり、大家だ。
「ね? いい考えでしょ?」
これは完全に彼女の善意だ。灰島は彼女が同じアパートに住むメリット・デメリットを即座に頭の中に並べるが、どう並べてもメリットの方が圧倒的だ。
「……そうだな、後は本人次第、だな」
だからそう答えると、玲奈は満面の笑顔で「分かった! ユキちゃんに聞いてみる!」と手を振って部屋に入っていった。
太陽がようやく顔を出し、足元には長い影が伸びる。毎日少しずつ季節が変わっていくように、彼の生活も変わろうとしていた。




