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ファントム、保護者になる1

 彼は動きやすい服に着替え、軽く15キロのランニングに向かう。


「おはようございます、灰島さん」


 気配もなく近づいて声をかけてきたのは、同じアパートに住む女子高生、紅林玲奈。長い髪をポニーテールに結び、短パンにTシャツというラフな姿だ。


「おはようございます」


  いつも通り、感情の読めない声で灰島が返す。玲奈もそれを気にすることなく、完璧なペースでその半歩後ろについてきた。


 二人の間に会話はない。 ただ規則正しい呼吸音と、アスファルトを蹴る二対のシューズの音だけが、夜明け前の静かな住宅街に響き渡る。空は、まだ深い藍色。ひんやりとした空気が心地よかった。


 ランニングのコースから少し逸れ、橋の下へと続く脇道へ入っていく。その時、灰島が不意に、ほんの一瞬だけ走るリズムを変えた。普通ならまず気づかないほどのわずかな変化。 だが、玲奈は即座にそれに反応した。一瞬で臨戦態勢に近い、低い重心へとそのフォームを変える。


 突然、灰島の蹴りが玲奈の頭めがけて飛んできた。彼女はそれを体を下に沈ませ、最小限の動きでかわした。かわしてすぐさま反撃。深く体を低くし、彼の軸足めがけて足で蹴り払おうとしたが、それは軽く飛ぶことで簡単にかわされる。


 トン。


 気づけば、灰島は玲奈の背後におり、彼の手が玲奈の首を叩いた。


「……反応はいい。だが、力みがある」


 もしも実践なら、首を切られていた、という意味だ。


「肩の力を抜け。本当に危険なのは、予備動作のない攻撃だ」


「……灰島さんに勝てる人なんて、居ないんじゃない?」


 この男には、一生敵わないんじゃないだろうか? そう思えるほど、この男は強い。


「どこかにはいるだろ」


「どこかに、ね」


 いたとしても、きっとそれは人類以外だろう、などと玲奈は思いながら、灰島の差し出した手を取り立ち上がった。


「とりあえず、躊躇なく攻撃できるようになったのは成長だ。やられる前にやれ」


「はーい」


 それからも、ひとしきり組手のレクチャーを受け、来た道を同じペースで帰っていく。


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