1-2
シャーロットの婚約者、今年の冬に十七歳を迎える、次期公爵のセオドア。
軍事力が他国より抜きん出ているこの国は、だからといって無闇に力を振りかざす外交政策を行う訳では無い。
その外交政策、他国との交渉などの政を担うことが多いセオドアの家、フォーサイス公爵家。
公爵家の嫡男であり一人息子のセオドアも、二つ名らしきものを持っている。
冷淡で冷静、そして冷徹な次期公爵。
氷の王子セオドア。
彼にお似合いの二つ名だと、シャーロットは思っている。
自分とは違って、良い意味で。
うなじで結わえられている、背中の中ほどまである冬空色の髪。切れ長な翡翠の瞳。白皙と呼ぶらしい白い肌。
自分も肌は白いけど、彼のほうが綺麗な肌なんだろうな、と、彼の頬どころか手にさえ触れたことがないシャーロットは思ったりしている。
小柄なシャーロットは今、流行りだという踵の高さが手のひらほどもある靴を履いている。
それでも、頭一つぶんは彼のほうが背が高い。
背が高く、細身に見えるセオドアは、自分の婚約者を──シャーロットを、翡翠の瞳で冷たく貫く。
氷の王子に相応しい、凍えそうなほど美しく整った顔の、同じように美しく整った形の良い眉一つ動かさないで。
ドレスが似合っていないとか、髪型が似合っていないとか、アクセサリーや化粧が似合っていないとか。
あとは、そもそも自分を見たくもないとか。
見たくもないのに顔を合わせないといけない不愉快さから。
そういう理由で、さっきから自分をずっと見ているんだろうな、と、シャーロットは考えている。
シャーロットが身に付けているドレスは、今ここにいる侍女を含めた侍女たちやメイドたちが選んでくれた、流行りだというドレス。
襟ぐりは鎖骨──こういう場だとデコルテって言うんだっけとシャーロットはなんとなく思い出した──まで見えるほど深く、肩を出す形をしている。
だからこそと侍女が言っていたが、薄くて流行りの模様を織りだしたレースで、開いている襟から首元までを覆っていて。
袖や上身頃はぴたりと体に沿う形、ウエストから下、つまりスカート部分は、ほころぶ薔薇のようにふんわり広がる形状の。
レースやリボンなどで装飾されている、薄水色のドレスは可愛いと思うけど、『あんな二つ名がある自分』に似合わないと、シャーロットは思っている。
侍女たちやメイドたちは全く悪くないので、どこまでも自分が悪い。
小柄な背を覆う長さの白銀の髪も、これまた今ここにいる侍女を含めた侍女たちやメイドたちが、しっかり整えてくれた。靴やドレスと同じく、今の流行りだという『編み込みのシニヨン』に。
頭の後ろ、高めの位置で。少し後れ毛を出すと良いらしい。
それもまた、こんな自分には似合わない。
流行りの形や加工が施された、緑系統のアクセサリーも。
『愛らしいお顔がより一層愛らしくなりましたよ』と侍女たちが言ってくれた、流行りの化粧も。
一生懸命色々してくれた侍女やメイドたちには悪いけど、自分には似合わない。
妖精姫の二つ名を持つ優しい姉のほうが、よっぽど似合う、着こなせるんだろうな、と、シャーロットは遠く思う。
自分の婚約者だって、次期公爵に相応しい装いが、どこまでも格好良く似合っているけれど。
お似合いですね、も。
格好良いです、も。
言ったとして、彼の機嫌を損ねるだけだろうからと、シャーロットは何も言わないでいる。
けれど、何も言わないままだと茶会が始まらないから。
それだけの理由でシャーロットは淑女の礼をし、簡単な挨拶を述べた。
セオドアも低く涼やかな声で簡素に応じ、やっと茶会が始まった。
茶会という名目の、自分たちの『未来』についての打ち合わせが始まった。
はずだった。
◇
互いの主人が紅茶に口をつけたことを確認した二人は、
「「……」」
主人たちに気づかれないよう、刹那に満たない時間で目配せを交わし、行動を開始した。




