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第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている  作者: 山法師


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21/28

8-5

「アメリア? 急にどうしたの」


 アメリアは自分の婚約者へ、このような態度を取る侍女じゃない。

 他のみんなだってそうだ。


 驚いているシャーロットを膝の上に乗せたまま、セオドアは記憶を辿る。


 知っている、それも、自分(セオドア)に原因があると確信している口ぶり。


 なら、自分も推測ぐらいはできるはず。

 思ったけれど。


「発端……は、不甲斐ないが、今すぐどれと、確信が持てない」


 セオドアは緩く首を振った。


「僕はずっと、父と母のことをシャルが知ったから、僕との婚約が嫌になったんだと思っていた」

「え?!」


 驚く、というより素っ頓狂な声をシャーロットは上げてしまう。


 そんなシャルも愛らしいと思いながら。


「でも、君は今、僕から聞いて初めて、父と母の話を知った、んだ、よな……?」


 シャーロットへ改めて顔を向け、不安になりながらも確認する。


「はい。はいそうです。びっくりしました。あとセオ様は悪くないですからね」


 軍に関係する話以外、そういった話題はあまり耳に入ってこない環境にある。

 それを謝るのは違うよなと、シャーロットはしっかり何度も頷く。

 自分にとって一番重要な「セオ様悪くない」も、ちゃんと強調しておく。


 こくこく頷くシャルは何をしても愛らしいし、こんな自分を悪くないと言ってくれるシャルがどこまでも愛おしいなと、セオドアは思った。

 思ったが。


「……そうなると、もう、今までのどれが発端なのか、(おこな)ってきたこと全てが失態に思えてくる……どれが隙で、どうやってつけ入られたか、今の僕には分からない……すまない……」


 項垂れたセオドアを見て、シャーロットは焦った。


「いえ?! あの、そもそも、あたし。発端とか原因とか、関係あるならあたしです」


 淑女になれない、暴れ馬の『名ばかり』王女。

 自分が持つその二つ名だけでも、つけ入る隙になる。


「それだと、矛盾が生じるんだ」

「矛盾?」


 顔を上げたセオドアの言葉に、シャーロットは首を傾げた。


「シャル、君は、……僕を、最初のほうから、その、好いてくれていたんだ、よ、な……?」


 だんだんと不安そうになっていくセオドアを、


「そうです最初から好きです今も好きです安心しろ違った安心してセオ様」


 また泣かせてなるものかと抱きしめ、焦ったせいで早口になって淑女らしくない言い方が混じってしまったが、しっかり言葉にもした。


「あ、りがとう、シャル、その、だとしたら、やはり矛盾が、生じるんだ」


 抱きしめられたり好きと言われたりして動揺しかけたセオドアは、『矛盾』の説明をしなければと動揺を押さえ、言葉を続ける。


 自分と婚約することになった彼女は、こんな生まれの自分との婚約を無理やりに決められたのだと思っていた。

 けど、彼女は自分の家の『公然の秘密』を知らなかった。

 彼女がそれを知るまでは、もしかしたら知ったとしても、彼女ならと思っていた。


 君との未来を夢に見た。

 君が婚約の解消をと言った時、『公然の秘密』を知ったのだと思った。

 けど、違った。なら。


「僕が何かしでかすか、僕の何かを利用されるかしないと、君からの『婚約の解消』に繋がらない」


 だって。


「僕はひと目見たときから君に恋をして、どうしたら君に好いてもらえるかと、そればかり考えていたんだ」


「えっ?!?!」「どちらも正解、といったところでしょうか」


 シャーロットの驚愕の叫びと、アメリアの淡々とした声が重なる。


「……やはり、僕が原因か……」


 項垂れ、シャーロットの肩に頭を乗せて、一拍。


「っ、すまない! 断りも入れずに!」


 弾かれたように顔を上げたセオドアの目に映ったのは、深い紅紫色のつぶらな瞳をこれでもかと開いて、幻でも見ている表情で自分を見つめるシャーロットだった。


「その、すまない、シャル。君の気分を害し──」

「セ、オ、さま、が……あたし、を、さいしょ、から、すき、だ……た……?」


 呆然と言ったシャーロットは、


「いや、いやいやいや」


 自分へ言い聞かせるように口を動かす。


「え? だって、セオ様はあたしなんかどうでもいいって、え、でも、セオ様はあたしが好き、で、え? うん? あれ? だって、えっと、最初からどうでもいい、じゃなかった? あれ? セオ様はいつ、あたし? え? あれ?」


 今までで一番の混乱が、シャーロットを襲っている時。


「……どうでもいい……?」


 すぐ近くから、周囲を凍てつかせるような声がした。

 声の主、セオドアを見たら、セオドアはアメリアへと顔を向けている。


「僕が、シャルを、どうでもいいと、誰が言った」


 凍えそうな冷たさを帯びた翡翠の双眸を鋭く眇め、低く、問う。


「言ったことも書いたことも思ったこともないそんな嘘を、誰がシャルへ伝えた」


「セオドア様が我らがシャーロット様へ贈った花をご覧になった、ミラ様が」



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