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6 混乱が混乱を呼ぶ。

「はい。お二方とも、見るからに混乱してますねー」


 軽く言ったジュリアンは、


「ま、混乱してても大丈夫なんで、解説続けていきますよ」


 言った通りに混乱している二人の前に、また、肖像画を魔法で構築した。


「今のところの継承権の話は、まぁ、一区切りついたと思うんで」


 構築されたのは、シャーロットの肖像画。


「セオドア様とシャーロット殿下、お二方のこれからとか、そこのお話をしていきますかね」


 王位継承権第二位のセオドアと、直系の王女であるシャーロットが婚姻した場合。


「生まれてくるだろうお二方の赤ちゃんが」


 軽く言ったジュリアンの言葉を聞いて、混乱しているシャーロットは、


「へぁっ?! あ、赤ちゃんっ?!」


 小さく悲鳴を上げ、朱に染まった頬を両手で挟んだ。


 すぐ隣に座るシャーロットの反応が可愛すぎたようで、


「────、っ!」


 セオドアは意識を飛ばしかけたらしかったが、可愛らしいシャーロットを目に焼き付けるために意識を取り戻したようだった。


「はい赤ちゃんですよ赤ちゃん。セオドア様とシャーロット殿下の赤ちゃん」


 そんな二人を気にせず、ジュリアンは続ける。


「赤ちゃんが男の子だったら」


 血統の関係で、王位継承権第三位になる可能性が高い。


 ジュリアンの言葉を聞いたセオドアが、何かに気づいたように眉を片方、わずかに動かし、


「……」


 気づいたその『何か』について思案するように目を細めた。


 自分の主人が始めた行動を気にするでもなく、ジュリアンは話を続ける。


「女の子だったら」


 継承権は遠いけれど、王族の血が濃い娘としての将来を見据えた教育や婚約話が立ち上がる。


「なんで、男女関係なく重要な存在に、」

「待った待って、ちょっと待って」


 目を細めているセオドアとは対照的に、シャーロットは混乱したままジュリアンの話を遮った。


「お姉様は? お姉様だって婚約してるし、今年に婚姻式をするでしょ? お姉様たちの赤ちゃんだって同じでしょ?」


 シャーロットの母は自国の伯爵家から嫁いだ。

 姉の母は国を一つ隔てている他国出身だが、他国は大国で彼女はその王族、それも直系。


 血筋だけなら、正妃であるシャーロットの母より側妃である姉の母のほうが、本来の立場は上。


 それは自分と姉にも当てはまるはずだと、シャーロットは言った。


「それに、そもそも、お姉様の──」


 姉の婚約者は自国の貴族、それも、国王の従弟である侯爵の妹の息子。

 国王からすれば、自分の従妹の息子。


 現在、王位継承権第三位にいる人間が姉の婚約者。


「よね? だよね? 第三位、もう、いるよね?」


 シャーロットの問いかけを受け、


「あー……その辺も、その辺、は、知らないんですっけ、殿下」


 軽い雰囲気で聞いてきたジュリアンに、シャーロットは首を傾げた。


 何を知らないのか。その辺、も、とは。


「ご存じないかと」


 アメリアが淡々と言い、


「話の大枠は見えた。一旦やめろ。これ以上彼女を混乱させてくれるな、ジュリアン」


 セオドアは静かに命令を出す。


「それじゃ、いつになったら殿下は全部を知れるんです?」「ちょっ、ちょっとここで話が終わりなのは納得できないです訳分かんなすぎです」


 軽い雰囲気のジュリアン、混乱しているシャーロット。

 二人に言われ、セオドアはアメリアへ──シャーロットの侍女であるアメリアへ、目を向けた。


 翡翠の目を細め、無言で問いかけた。


 知らないのに、このような場で聞かせるつもりか、と。


「私は、我らがシャーロット様を第一に考えます」


 無表情で、淡々と応えるアメリアが。


 彼女が望むなら話せ。そして彼女を支えろ。彼女と未来を歩みたいなら。

 それができないほど腰抜けじゃないだろう?


 視線で正論を叩きつけてきた。


「……分かった」


 セオドアは重くなりかけた息を、なるべく軽く吐き出す。


「シャル」

「は、はい」


 愛称で呼べて、呼ばれたことで頬を染めながら頷いてくれる、愛しい君に。


「少し、いや、だいぶ、酷な話だ。混乱どころじゃ済まない話だ。それでも、」

「良いから早く話してください。前置きが長いです」


 自分は淑女じゃない。軍で鍛えられた暴れ馬だ。舐めるな。


 隣に座るセオドアを、睨んでやる。


 そんな自分を見たセオドアが、慈しむように微笑んだから、心臓が高鳴った。


「シャル」

「っ、は、はい。どうぞ話してください早く」

「ああ、話す。けど、シャル」


 僕も怖いから、君を抱きしめながら話して良いだろうか。


「えっ?!」


 驚きに目を瞬いたシャーロットの深い紅紫色の瞳に、不安そうに微笑むセオドアが映る。


「……どうぞ、はい。だ、きしめる、の、はい。大丈夫なので」

「ありがとう、シャル」


 優しい声のセオドアに抱きしめられ、話が始まるかと思ったら抱き上げられた。


「はっ?!」


 抱き上げられた驚きで声を出してしまったシャーロットを膝の上に乗せ、横向きに抱える形でセオドアはイスに座り直す。


 ちょっとこの姿勢は聞いてない。嬉しいけど聞いてない。


 文句を言おうとしたシャーロットは、


「……シャル」


 怯えているようなセオドアの声に、思わず口をつぐむ。


「君の姉君──ミラ殿下は、国王陛下の血を引いていないんだ」


 続けられたそれを聞いて、シャーロットは今度こそ、何も言えなくなった。



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