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妙に真新しかった、あの指輪

「いや、わかるよそれ! こんなん、めっちゃモヤッとするやつじゃん!」


「そう……、っすよねえ……」


 他人に同意されると、なぜだろう?

 自分の覚えた理不尽(りふじん)な感情が、免罪(めんざい)された気になる。

 

 泰久は、野中のことを好きじゃない。

 好みのタイプでもないし、惹かれるものもない。

 今も昔も、変わらずに。


 ただ、何となく、今でも向こうが泰久がいいというのなら、あの時よりは話を聞いてみてもいい――と思っていただけだ。

 それなのに、蓋を開けてみれば何もなかったから、肩透かしを食らったような気になってしまったのだ。


 思った通りにならなくて……、何だか自分だけが一人取り残されたような気がした。


 すると、グラスに手酌(てじゃく)で注いだ赤ワインを飲んでいる夜香が、ふと呟いた。



「……彼女がつけてたその指輪、本物だったのかなあ」



「えっ?」



 驚いて泰久が目を上げると、夜香が苦笑した。



「ほら、泰久君の思い出の中で見たあの指輪、何だか玩具みたいに見えたから。同窓会にあなたが来るかもと思って、あなたに怖がられないようにつけてきたのかなって」



「俺に怖がられないように……?」



「そう。……考え過ぎかな。若い彼からのプレゼントだったのかもしれないわ」



「……」



 まだピンと来ない泰久に、どこかもう眠たそうな顔をしている昼恵が、頬杖を着いて教えてくれた。


「彼女がまたあなたを追いかけまわして、困らせようとしてる……なんて絶対思われたくなかったから、〈もう大丈夫〉って証拠の嘘の指輪をわざわざ自分で用意してきたのかもってこと。まあ、夜香ちゃんは深読みが好きだからね……」


 とろんとした昼恵の声に言われて、泰久はつい考え込む。


 あの指輪のデザインはどうだっただろうか。指輪になんて詳しくなかったから、ペアリング仕様のものだったかどうかすら、いまいちよくわからない。


 でも……確かにどこか、真新しかった気がする。

 だから――彼女の指に馴染んでいなかったから、そういうことに疎い泰久の目にもついたのだ。


「うーん……。そこまでするかなぁ?」


 朝奈が小首を傾げると、夜香がにやりと笑った。


「あんたなら、〈謝りたい!〉って思い立ったらSNSに即メでしょ」


「そうそう。わざわざ同窓会まであっためなくても……、って、こら!」


 朝奈が夜香に乗り突っ込みで言い返すのを聞き流して、泰久は頭を悩ませた。


 あの指輪――指輪――指輪……。


 SNSに、あの夜の同窓会の写真はシェアされているだろうか?

 わからなかったら、確かめる方法はただ一つ……彼女に連絡してみることだけだ。


 でも、こんなことは、直接訊けるわけがない。

 いや、たぶん、訊けないに違いない。


 たとえ野中と、何かあっても、なくても……。


 彼女に連絡してみるということは、それはつまり、こちらからアプローチをするということに限りなく近いことになるかもしれなくて、泰久はそこまで、彼女に何かしらの感情を抱いているのだろうか――……?


 頭を抱えているうちにレモンサワーを飲み終わって、泰久は席を立った。


「あの、俺、帰ります。お代は……」


「いいの。うちはそういうお店じゃないから。気が向いたらまた来てね。泰久君」


「はい。じゃあ――」


 気もそぞろに頷いて、泰久はエレベーターに乗り込んだ。



 指輪の真意………SNSを確認して……いやその前に自分の気持ちをもっとよく考えて……だって『彼氏がいる』とまで言われているのだ……これでしくったら、滅茶苦茶痛い奴になってしまう……それに、今度は彼女だけじゃなく自分も傷つくのだ……まあ、どう考えてもあの同窓会でモヤッとしてしまった時点で、それは確定しているわけで……。




 ++ ♢ ++




 カウンターにこてんと頭を預けて寝息を立て始めた昼恵の肩に、朝奈はブランケットをかけた。


「昼恵ちゃん、寝ちゃったね。御馳走作って疲れちゃったのかな。……泰久君、もうちょい早く来てたら一緒に食べれたのにねえ」


「いいんじゃない? 唐揚げも、美味しそうに食べてたんだし」


 夜香が、余ってしんなりしてしまった元気のない唐揚げにレモンをかけてしっとり唐揚げに味変して頬張って言う。

 皿に残った卵焼きの端っこをもくもく食べて、朝奈は呟いた。


「……泰久君、彼女に連絡してみるのかなあ?」


「うーん……。でも、そもそも『彼氏いる』って言われちゃってるのよねえ」


 夜香が首を傾げるので、朝奈は被せるように言った。


「あたしなら、相手に恋人いたって頑張っちゃうけどなぁ」


「……何そのちっさい嘘は。あんたこそチキンじゃない。いったい何年、片思い相手の男に連絡してないのよ?」


「いや、いやいやいやいや! あたしはほら、付き合いたいとか思ってないし! 彼の幸せを遠くから願ってるだけで満足っていうかっ……」


 朝奈の動揺した声に、夜香の冷笑、昼恵の寝息……。

 今夜も、秘密のバー【追憶の砂時計】の夜は、騒がしく過ぎていくのだった。



完結です!

ここまで読んでくださってありがとうございます。

もしよろしければ、本編「本命彼女はモテすぎ注意! ~高嶺に咲いてる僕のキミ~」の試し読みも読んでいただけたら嬉しいです。


また、お知らせです!

次作の女性向けR18小説の試し読み連載を、来週末くらいから始める予定です。

内容は、新人女教師×御曹司高校生のダブルヒーロー物です。

そちらも読んでいただけたら嬉しいです。


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