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同窓会

 ――さよなら、日南さん。


 ……って。



 ♢ 〇 ♢



 それから、高校を卒業して大学に入って、大学院まで進んでも、泰久に恋人ができることはなかった。


 焦る気持ちもある気がしたけれど、出会いもなかったし、高校時代に経験した野中との一件を思い出すと気が引けたし、他に好きなこともあったから、〈今じゃなくていい〉と思ったりもしていた。


 ……不思議なもので、ここまで来ると、〈野中でもいいから付き合っときゃよかった〉と惜しく思うこともあった。


 気持ちって変わるんだな、一生同じじゃないんだな、と、当たり前のことをあらためてしみじみと身に染みて学んだりもした。




 そんなある時のことだった。

 成人式すら何となくパスしたのに、あまりに何もないものだから、泰久は、SNSで告知のあった、高二の同窓会に参加してみることにした。


 あの時仲の良かった男達とは今でもたまに飲む仲で、彼らも参加するという話だったし――ちょっとだけ、野中を遠目からでも見てみたかった。


 ……失礼な話だが、怖いもの見たさや好奇心も、あったかもしれない。


 でも、別に仕方がないじゃないか。

 泰久と野中は、別に友達というわけですらなかったんだから。



 ♢ 〇 ♢



 勇気を出して参加した居酒屋チェーンで開かれた同窓会では、基本ずっと今でもたまに会っている男同士で固まって話してばかりで、そう楽しくはなかった。


 けれど、驚いたことに……野中は、あの頃よりずっと女の子らしくなっていた。

 顔の原型はよく見ると野中なんだけれど、高校の頃より少し痩せて、化粧や身だしなみに気を遣うようになって、服もゴテゴテした感じじゃなくなって、清潔感も出て……。

 とにかく、あの頃とは全然印象が違った。


(今の野中だったら……)


 なくはなかったかも。

 彼女の方から物凄く積極的に声をかけてきたら、だけど。



 ♢ 〇 ♢



 もしかして彼女の方から話しかけてくるかも――なんて思っていると、同窓会解散間際の駅前ロータリーで、本当に野中の方から声をかけてきた。



「――山脇君、久しぶりだね!」



「あ、うん。久しぶり……」



 驚いて挙動不審になりかけながらも、何とか泰久は野中に対応した。


『元気にしてた?』とか、『今何してるの?』とか、少しだけ社交辞令的に近況報告などを話し合った後で――。

 恥ずかしそうに目を逸らして、野中が、ふいにこう切り出してきた。



「……あの……。……あ、あのさァ! 高二の時……、あたし、ほんとごめんね。何かすっごい迷惑かけちゃって。あれ、悪かったなあってずっと思ってたんだ」



 細かくは言及しなかったけれど、彼女はそんなことを口早に言った。

 面食らって、でも、気がついたら、泰久は反射的に首を振っていた。



「いや、いいよ。全然気にしてないし……」



 これは本当だ。

 理不尽を感じながらも、泰久は当時から、たぶん、野中のことを全部許していた。

 そんな自分を、〈結構いい奴じゃん〉と、自分でも思えていたし。


 すると、野中はほっとしたように、緊張を緩めた。



「……ほんと? よかったぁ。山脇君って、やっぱり優しいね。てか、心広いよね……」



 恥ずかしそうに泰久を持ち上げて、野中が口元に手を当てた。

 その手に――左手の薬指に、指輪がきらりと光る。

 一瞬その手に目をやると、泰久の視線に気づいたのか、野中が〈どや!〉とばかりに冗談めかして示してきた。



「あ……、あはは! えっと、あたしね、今彼氏いるんだ。だからね……。ほんと、心配しないでも大丈夫だよ……。山脇のこと、もっかい困らせようとかじゃないの。本当にただ、謝りたかっただけっていうか……。高校の時のあれ、マジであたしにとっても黒歴史だしさ。あの時のあたし、マジでウザかったよね。だから……あの、やな思いさせちゃってほんとごめん! それだけ……、です。じゃ、お互い頑張ろうねっ」



 それだけ言って深く頭を下げると、泰久に迷惑をかけないように――という感じで、彼女はさっさと女友達の輪に戻っていってしまった。



(あっ……。終わり……?)



 目を瞬いて、呆気に取られながら野中の後ろ姿を眺めて――……。

 それから、自分も友達の輪に戻って――、泰久は彼らと一緒に帰路に着いた。



 ♢ 〇 ♢



(……あー、あれで終わりだったんか……)


 SNSにも、あれ以外に特に何のアクションもなかった。

 というか、野中はあの頃の印象と違って、グループの中でぐいぐいコメントをするような子じゃなくなっていた。


 時は――流れる。


 泰久だけじゃなくて、他の人にも。


 突然そのことが深過ぎる実感となって襲いかかってきて、泰久は家に帰って一人ぼんやりとスマホを眺めた。


 人生でたった一度告白して振られたあの時のように、グサッと切り裂かれたわけじゃない。

 ただ……、まるで(なまり)でも飲み込んでしまったみたいに、消化不良で胸がむかつく。


 そう、胸がもやもやして、……苦くて酸っぱい。


 この――レモンサワーの風味のように。




 ♢ 〇 ♢




〈振られたわけでもないのに振られた気になるのはなぜなんだ〉――と、思ったことをそのまま口にすると、朝奈が首がもげるほどの勢いで何度も頷いた。


「いや、わかるよそれ! こんなん、めっちゃモヤッとするやつじゃん!」


ここまで読んでくださってありがとうございます!


また、お知らせです!

次作の女性向けR18小説の試し読み連載を、来週末くらいから始める予定です。

内容は、新人女教師×御曹司高校生のダブルヒーロー物です。

そちらも読んでいただけたら嬉しいです。

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