嘘つきとAIと某国の諜報員⑧
日も沈み夜も更けてきた
ここは多数の飲み屋が集まる繁華街で多くの人が楽しく飲める空間を求めさまよい、道路は人で溢れかえっている。
その繁華街に立ち並ぶ繁華街に1軒のお店があった。
そのお店は女の子が客として来た人に付き、色々な話をして楽しむ種類の店で俗にキャバクラと呼ばれる。
店中では多少空席もあるが、大変賑わっているようで
あちこちから男性と女性の笑い声が聞こえてきており、店内の装飾からも賑やかさがうかがえる
その内の一席
一人の男が楽しげに酒を飲んでおり、両サイドにそれぞれ華やかな衣装の女性が付いている
男は羽振りの良さに反して服はよれており、ズボンはジーンズという非常にラフな格好をしている。
そして、その内に男の席から楽しげな掛け声が聞こえてきた。
「かんぱ〜い!!」
男の大きな掛け声に続き2人の女性も乾杯の音頭を取る
右側に座る女性は金髪の派手めなメイクをした女性で見た目によらず少し大人しめの印象の女性だ
そして、もう1人
男の左側に座る女性は銀髪で長い髪と青い目が印象的でまるで人形の様な見た目である。
しかしその見た目に対し、かなり積極的に男にボディタッチをしたりとしており、軽めの女性の様に見える。
「えぇ~すご〜い、お兄さん政府のお仕事手伝ってるんだ〜」
銀髪の女性が真ん中に座った男に寄りながら話し始める。
女の反応に気分を良くしたのか、男も饒舌に話し始めた。
「そう!ここだけの話なんだけどな」
「俺ってばある諜報機関にとある機密情報のセキュリティチェックを任されてたんだって」
男から出た言葉に銀髪の女性は動じること無く、話を深掘りするよう誘導しているような口振りで
「すご〜いそんなお仕事出来るなんて尊敬しちゃ〜う」
「でもでも、そんな機密情報ってホントにあるんですか〜?」
興味を持っているのかいないのか
曖昧な答えを繰り返し、女性は男の興味を引いていく
女性のさらなる関心を引こうと男は更に詳細な話を始めだす
「まじであんだって!海外の諜報員が狙ってるとっておきの秘密がさ!」
その言葉を聞いていた女性は急に興味を持ったのか男と身体が密接する距離まで近寄る
そして太ももに手を添え、艶めかしく耳元で囁く
「なにそれ気になる、ねぇ私だけに教えてよ」
男は更に上機嫌になり
もう1人の大人しい女性を下がらせ声のボリュームを落とし話し始める。
「今、世界には6基のS級AIが存在する——」
男が話した内容は以下の通りであった。
今世界でS級AIを所有するのは、アメリカ、ロシア、中国、日本、イギリス、ドイツであり
そのAI各基基開発理念と思想の元つくられており
AI達はそれぞれ独自に学習している為、自国のAIに不足した機能を補う目的で他国のAIを探っている
又、非所有国も厄介であり
何とかして自国でS級AI製造を行う為、所有国の開発関係者などにアプローチをしたりと動いている事が確認されている。
つまり、自称この男はそんな他国の諜報員から日本のAIを守るために動いていた、と言いたいようであった。
銀髪の女性はB.M.I“”の通話機能を使い、通話相手に話しかける
『駄目だ柚木……こいつなんも知らないわ』
通話の相手は“媒鳥”の柚木であり、相手からもすぐに返事が返ってくる
『やっぱり見当違いだったのね……その男、生駒だけ証拠不十分ですぐに釈放されていたから大した情報持ってないとは思っていたけど』
この男生駒は、現在調査中である一連の事件を起こした者の存在の推測もたてられておらず
突発的な行動だとして通常の手順で警察に引き渡された後、証拠不十分ですぐに釈放されていた。
『もうそろそろ戻るわ』
銀髪の女性は通話で柚木に言うと男の元を去ろうと
「ごめんなさい私呼ばれちゃった、今日はありがとうね」
そう言い立ち上がろうとする
すると生駒は銀髪の女性の手をつかみ
「待てって!とっておきの話がまだあるんだって!!」
そんな餌をちらつかせ女性を引き留めようとするが
「ほんとごめんなさい、私すごく急いで—―」
「銀髪で青い瞳のAIの話を聞いたことないか!?」
女性の足が止まる
少し間を置き、生駒に向き直ると生駒は満足そうな笑みを浮かべ続きを話し始める
「AI“ツクヨミ”が管理運営する仮想空間、その中で時折目撃される銀髪の謎の少女がいるんだ」
「そう、ヒビキちゃんみたいな奇麗な銀髪の少女だ」
このヒビキと呼ばれた女性は再び席につく
そして生駒に対しうっすら笑みを浮かべ静かに言う
「詳しく聞かせて?」
ヒビキが言うと生駒は早口で話し始める
「俺の掴んだ情報ではその少女こそがAI“ツクヨミ”の仮想端末って話なんだ」
「つまり、“アバター”って事だ」
ヒビキは軽く相槌をうち、話を続けさせる
「AIが仮想空間で人間に接触し人間を観察している、話しかけると普通に返事も返ってくるらしい」
「わかるか?その様な行動をするAIはこの日本のAIだけなんだ」
ヒビキは足を組み、腕組みをした後考える仕草をして独り言の様に話し出す
「まさか一般人にまで話が広がっていたのか……」
「ってなるとここは一言文句でも言っとかないとな……」
話し出したヒビキという女性が自分に興味のない様子に
生駒は女性の名前を何度か呼び意識を向かせようと努力する。
「さっきの秘密の任務がその端末を調べる事なんだ」
再びヒビキが生駒へ意識を向け、笑顔を向けながらその胸へと倒れ込む
そして静かに
「私酔っちゃったみたい……だからここで聞いたことは直ぐ忘れちゃうと思うの」
「教えて……“誰”にそのお仕事を依頼されたの?」
そこからの生駒は全てを饒舌に話し始めた
仕事を依頼してきた男は身長180〜190cm程の大柄の男
身体は筋肉質の様に見え髪色は茶髪にニット帽を被り、上腕の内側に鷹の入れ墨、生駒の様なヨレヨレの服装
それでいて話口調には教養を感じられたそうだ
そしてその男とは繁華街外れの喫茶店で出会い話をするうちに意気投合
政府の仕事を手伝っているというその男に愛国心を認められ調査員をする事になった。
『柚木今言った喫茶店と今日捉えた飯塚の証言にもあった立ち飲み屋周辺の監視カメラの映像をAIに調査させろ』
ヒビキはもう一度柚木に通話を行い続けて指示を出す
『対象は身長180〜190の大柄な男、髪色を自在に変えていることからも人種の特定は不可能でおそらく“機械構成人体”だと推測される』
すぐさま柚木も指示に答え
『入れ墨の件はどうする?白い鷹で思いつく組織といえば——』
『CIAだがおそらく誘導だろうな……』
CIAの可能性は捨てきれないが分かり易すぎるという点からヒビキは否定する
『どちらにせよ奴等に問い詰めた所で知らぬ存ぜぬだろうしな』
『“B.M.I”のアクセス履歴は洗わなくてもいいの』
『いやおそらくオンラインにする事は無いだろう』
ヒビキと柚木がそのようにやり取りを終えた後、改めて席を外そうとする
「待てってヒビキちゃん」
再び生駒に腕を掴まれたヒビキは、うんざりしながらも引き離そうとする
しかし、生駒はまだ手は離さない
「てんちょぉ〜」
ヒビキが店の奥へ向かいそう叫ぶと2人の男が出てくる
ガタイもよく筋骨隆々の2人の男が生駒を抱えそのまま裏口へ連れて行く
「もう、宜しいのですか?ヒビキさん」
そして奥から出て来た高級そうなスーツをピシッと決めた中年の男に話しかけられ
ヒビキも中年の男の前で足を止める
「協力ありがとうございました、私の身体はいつもの手順で本部へ宜しくお願いします。」
そう言い残し奥の部屋へ足を向ける
しかし一度立ち止まり
「私の身体に変なことしないでくださねぇ〜」
いたずらに笑う
しかし店長の男は神妙な面持ちで
「するわけないでしょう、“媒鳥”の方の身体をさわるなんて」
その言葉を聞くと満足そうに笑いながら部屋の奥へ消えていく
——数分後
裏口から連れ出された生駒の元に警察官が現れる、
警官達は“媒鳥”から証拠が届いたという理由で生駒を繁華街の道路脇に停めた車両へ乗せている
その光景を道路の反対側にある雑居ビルの屋上から眺める男がいる
「駒の内一人だけ泳がせていたが……まさかもうこちらに接触があるとはな」
そこにいたのはデイヴィッドであった。
屋上は昔ながらのバッティングセンターになっており、辺りを囲むフェンスは錆びに覆われている。
「生駒に辿り着くということは一連の行為から私の存在を嗅ぎつけたということか……」
泳がせていた生駒はデイヴィッドの保険の一つであり、“媒鳥”の動向を探る為にも必要なものであった。
しかし、そこに辿り着かれたということはもう時間があまり残されていないということだとデイヴィッドは知っていた。
「これは少し急がなければな……」
そう言葉にしながらも焦りは不思議とデイヴィッドにはなかった。
なぜなら“媒鳥”は気付いていないと確信があったからだ
デイヴィッドが奪おうとしているものが何か
悠然とその場を去りながらデイヴィッドは思う
「……面白い」