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嘘つきとAIと某国の諜報員⑦


 繁華街から離れた閑静な住宅街

 

 街の中心部からするとこの場所は、ホロ映像や無機質感も無く

 未だ2020年頃の令和な街並みを残した様子である。


 その住宅街にポツポツと点在するアパートは、住民がいなくなった事により取り壊され

 外国人労働者の為の国営アパートとして運営されている。



「この国のAIは随分人に優しいと見える」



 男は周囲に聞こえない程度の小声で呟き、住宅街の道を一人歩く

 

 その男は長い金髪を後ろで束ね、時代にそぐわぬ眼鏡をかけており

 茶色いタートルネックのセーターを、下にはジーンズを履き高身長を際立たせている。


 通りの先から60代程の女性が犬の散歩をしながら歩いて来たため

 男は車道側に立ち、右手を広げ女性に道を譲る。



「どうぞ菊池さん」



 菊池と呼ばれた女性は会釈をし、男の横にさしかかる

 そして男に向け笑顔で話しかけた。



「おはようデイヴィッドさん、今日もお仕事かい?」



 デイヴィッドと呼ばれた金髪の男も笑顔を返し

 頭をポリポリ掻きながら答える




「いえ、今から帰る所です」




 その返答に女性は同情の顔を浮かべる

 そしてデイヴィッドに向け




「大変ねぇ、デイヴィッドさんはご家族もいるのに単身赴任で海外まで来られて」

 



 それに対しデイヴィッドは又も頭をかきながら苦笑いを浮かべ頭をペコペコと下げる

 その間、女性の連れて居ていた犬がデイヴィッドの体の匂いを嗅ぐため、ズボン裾を匂っている。



「いえいえそんな事はないです、日本はとても住みやすくて良い国ですよ」


「いつか息子も連れて来てやりたいですね」



 

 そう言い端末から写真を映し出し女性に見せる

 そこにはデイヴィッドと14歳位の男の子が映っており、女性もその写真をじっくりと見る。


 

「あら、デイヴィッドさんの息子だけあってハンサムね」


「それにしても、こんな古い端末を持っているなんてデイヴィッドさんも“B.M.I”を入れてないの?」



 女性は畳み掛けるようにデイヴィッドに質問をするが

 デイヴィッドはなにも嫌そうな素振りを見せる事も無く、笑顔で質問に答えていく



「ええ、私は古いタイプの人間なのでどうも脳をイジられるというのに抵抗がありまして」



 私も同じなのよ、と女性が反応しその後しばらく話し込んだ後



「引き留めちゃってごめんなさい」



 女性がそう言い、その場を後にしようとした時異変に気付く

 女性の連れていた犬がデイヴィッドの足めがけて用を足そうとしていたのだ



「ちょっとあんた何やってるの!」



 女性はそう言いリードを引っ張る

 引かれた犬はやむなく用を足すのを止め、飼い主の足元へ戻る



「はっはっは、かまいませんよ」



 デイヴィッドは声を出して笑い

 右手を振りながら名残惜しそうに女性の元を去る。

 先程迄の愛想のいい顔とは打って変わり、その顔には何の表情も浮かんでいなかった。



「かなわんな……犬の嗅覚には」



 またも周囲に聞こえない程度に呟きながら帰路に着く





 そして

 数分歩いた後



 デイヴィッドは自らが住まう国営のアパートに到着する。

 3階建てのアパートの1階一番奥の部屋に向かい玄関の扉の前に立ち

 この時代に取り残された様な住宅街で、数少なく現代を感じさせる電子ロックの端末に自らの掌を添え、ロックを解除する。


 すると目の前の床に紙の茶封筒が落ちているのを確認し、それを拾う

 そして部屋の中へと入る


 

 部屋は簡素な配置で形作っており

 1Kの部屋に入って直ぐのキッチンには調味料などの物は一切無く、冷蔵庫を置くスペースには黒い袋に包まれたゴミが1袋

 

 そこを抜け部屋に入ると

 6畳の部屋の左手にはベッド、右手の壁には大きなコルクボードがかけられており、そこには多くのアルファベットの書かれた写真と付箋が貼り付けられている

 

 また写真を止める各押しピンを紐で繋げ彼にしかわからない蜘蛛の糸のようなものが作られている。




「本部からか……」




 デイヴィッドは茶封筒を見ながらそう言う

 そして封筒を裏返し、じっと見つめる




「奴を捕獲しろとは大胆な決定をしたものだ」



  

 一見なにも書いていない封筒の裏目にであったが、デイヴィッドにはしっかりとメッセージが見て取れた。

 その仕組は、視界の色調を“B.M.I”の設定で変えることによって中で規則的に折りたたまれた手紙の文字同士が重なり、そして消える事によって文章になった訳である。


 そう


 “B.M.I”の設定を変える事で可能になるのだ


 つまりデイヴィッドは先程女性に対して自然に嘘を付き“古臭い考えのワーカーホリック”を演じていた事になる。


 デイヴィッドの視界に入ったものはこれだ

 左下にはオフラインの文字、そして裏面に浮かび上がった文章は



 “対象を捕獲の為行動せよ”




——無茶を言う



 デイヴィッドは捕まる危険のある無理難題を振られている事を感じつつも未だ表情は動かない

 

 淡々と封筒を燃やし、そしてトイレに流す。


 一通り処理を終えた後、コルクボードの蜘蛛の意図に向き立ち

 両手を胸の前で組み考え始める。




「H……Bいや、GKZの順か」




 まるで呪文のように呟くが、これはデイヴィッドにとって頭を整理するのに必要なことだった。



「一人泳がせていた奴がいたな……そこに食いつけば」



「いけるな……Aを孤立させられればこちらのものだ」



 そして中央に貼られた写真を千切り取る。

 そこに写っていたのは銀色の長髪を持つ青い目の少女で、デイヴィッドはそれを見つめながら表情も変えずに言う



「この国のAI……“ツクヨミ”の秘密、頂くとしようか」



 そう言いデイヴィッドは部屋を出る 




 



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