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嘘つきとAIと某国の諜報員⑥

 秋山は聴取室の扉が開くと同時に勢いよく部屋に入室する。

 そしてそれを察知し、入口に背を向けている飯塚が口を開く



「何度きても無駄だ、話すつもりは——」



 しかし話を遮るように勢いよく飯塚に濡れたズボンを投げつける

 ズボンは飯塚の顔に当たり、膝の上に落ちる。



「くっせ!なんだこれ!!」



 飯塚は膝の上に落ちたズボンを膝から払い

 ズボンが床に落ちる。


 それを見ながら対面に移動した秋山が両手を広げ机に手をつく

 

 そして一言



「お前のツレ、漏らしやがった」



 一瞬理解ができず

 間を置いた飯塚が言葉の意味を理解する。


 その顔から一瞬で血の気が引き、そしてその反動で飯塚の怒りが溢れる



「アイツは関係ないっ——」



 そう言い立ち上がりかけた飯塚を制す様に、秋山は右側のホルスターから銃を取り出し机の上に大きな音を立て置く

 銃口は飯塚に向け銃の上へ右手を添えている。



「……座れ」



 飯塚は勢いを殺され、完全に戦意を喪失してしまい椅子に座り込みうな垂れる

 そして力なく言葉をなんとか発した。



「アイツはまったく関係がない……何にも知らないんだ」


 その言葉を聞き、秋山も椅子に座る

 しかしその態度は大きく相手に反抗を許さない、まるで拷問官か何かのように振舞う


 

「お前のツレもそう言ってたさ、だが誰も何も知らないなんてことはないからな」


「どっちかが口を割るまでは終わらない」



 秋山は右手の指をリズミカルに動かし飯塚に銃を意識させ続ける

 飯塚は何度か銃の方を見て絞りだすように声を出す。



「なんなんだ、なにが知りたいんだ……」



 秋山は机に左ひじを乗せ前のめりになる

 しかしあくまで銃の上か右手は離さない



「聞きたいのは二つ」


「一つ、お前が〝媒鳥〟がAIを独占しているという発想を得たのは何時だ……いや誰と話している時だ?」


「二つ、お前が行動に起こすときハッキングをかける場所などの手助けをした者がいるはずだ、それは誰だ?」

 


 秋山の問いに飯塚は少し鼻で笑う



「なんだ、そんなことか」



 そして力なく嘲笑しながら



「立ち飲み屋で会った男さ、外国人だった」


「前腕の内側に白い鷲の入れ墨のあるやつだ」



 

 そして飯塚はポツポツと話始める




 飯塚がその男にあったのは失業して一か月後の事だった。

 

 システムエンジニアの職を失ってからというもの毎日繁華街を飲み歩いていた飯塚は、ある立ち飲み屋でその外国人男性に出会った。

 

 声をかけてきたのは外国人男性で、IT関係の仕事で出向で日本に来ていると語り

 服装はピシっと決めた紺色のダブルのスーツを着ていて、体格は大柄で髪はブルネットであった。

 

 その男とは脳内の“B.M.I”の翻訳機能のお陰で意思疎通には困らなかった。

 そしてその男は失業した飯塚に同情し、

 自国ではAIの発展によって失業率は下がらなかった事、AIの運用は国民の意図をしっかり組んでくれていることを語り

 

 こう言ったそうだ



「君たちの国と私の国、この違いは組織の運用方法の違いかな?」



 その言葉で飯塚は、思い至った。

 自分たちの国にだけあり、相手の国には無い組織


 

 それは“媒鳥”という組織



 AIの秘匿性を高め、公に正確な情報を出さない


 

 そこに思い至った飯塚は、その外国人に“媒鳥”という組織の事を話した。

 すると男が神妙な顔をしてこう答えた。



「それはおかしな話だね……国家AIは国民皆のものだ、きっとその組織がなにか正常にAIが機能しないような細工をしているのではないだろうか」



 男はそのあと

 


「すまない、よその国の事情に首を突っ込むなんて」



 そういい飯塚に紙の名刺を渡し



「なにかあったら力になるよ」


 そう言い残し飯塚の元から去ったそうだ



 その後、調べる内になんの情報も出てこない“媒鳥”の特異性に疑問を感じた飯塚は情報を明るみに出すことを決意する。

 

 そしてもらった名刺から男に連絡をし再び再開した際相談を持ち掛け、調べるべきサーバー等のアドバイスをもらう事になる。

 

 

「……そんなところだ、これ以上は知らない」



 飯塚の告白を静かに聞いていた秋山が“B.M.I”を通じて係長、柚木に通信を行う

 しかし今回は口で発する事はせず、頭で考えた内容を声として送る



『柚木、飯塚は一度その男と連絡を取っているAIネットワークに残っているはずだからデータを掘り起こしてくれ』


 そしてその後


『係長……こんなところでどうかな?』



 秋山がそう尋ねると

 係長は答える



『良いよ、60点ってところだね』



 そう言い通信を切る

 

 そして秋山はうな垂れる飯塚に向き直り

 銃を向けた。



「なっ俺は全部話したぞ!!」



 慌てて席を立ち

 銃口から逃れようとする飯塚

 

 焦燥感から足をひっかけ体制を崩した

 そして壁に沿って部屋の角へ這って逃げ出す


 しかし秋山は銃口で飯塚を追いかけ

 照準内に捉える。


 

 そして


 引き金を引いた。



 パァン!!

 


 

 しかし銃弾は発射されておらず聴取室に乾いた音が響いただけであった。

 飯塚は自分の体になんの異常がないことに気が付き、体中を触って確かめる



「お前がさっきまで足を突っ込んでいた世界はこういう事もあるってことを忘れるな」



 秋山は銃をホルスターにしまいながら飯塚に対して忠告をする

 そして、一つ付け加える



「勘違いするなよ、俺達のことじゃない……さっきの外国人のことだ」



 そういい

 飯塚に手を差し伸べる


 がしかし


 飯塚は少し呆気にとられた後、秋山の手を弾き飛ばす



「ふざけるな!お前達がアイツを拷問したって事実は変わらないだろうが!!」



 飯塚は秋山を見上げ、精一杯の抗議の気持ちを声に出す

 そして自ら立ち上がり部屋の中を歩き始める、秋山への警戒は解かずに


 すると秋山が表情を崩し

 すこし笑いながら飯塚にネタ晴らしをする



「ここまでどうやって来たか覚えてるか?」



 飯塚は質問の意図が分からない

 沈黙してしまう



「“B.M.I”のUI左下を見てみろ、オンラインってなってるよな?」



 飯塚が何を当たり前のことを聞いているんだ、と抗議の言葉を口にする前に秋山が質問の続きを話し始める。

 その真相に飯塚は驚愕することになる。



「そう、大体の人間はオンラインのまま生活する、便利だもんな」



 AIネットワークに接続するためには通常“B.M.I”をオンラインにしておく必要があり、AIネットワークに繋がっていることで様々な機能を扱うことができる


 先ほど秋山が係長、柚木などと行ったような通話機能

 

 ネットワーク上のサイトなどのブラウジング


 飯塚が外国人との会話を行うために使った同時翻訳機能


 

 そしてなにより

 この部屋、人、机、銃、そして濡れたズボン

 これらすべてがAIネットワークによって与えられた機能の一部


 この場は一般的にこう言われている。



「ここは“仮想空間”だ」


 この空間は、創造された空間で現実に似た偽りの世界

 “虚像”で成り立っている。


 秋山の言葉に飯塚は固まって考え込んでしまう

 その顔は困惑の表情に包まれており、未だにこの事実を受け入れられないといった風だ



「つまりここは仮想空間で、このズボンは……」



 飯塚の疑問に秋山がすぐに答えを出す



「柚木もうこのデータ消してくれ臭くてかなわん」



 秋山がそういうと濡れた鼻をつく臭いのするズボンが床から消えていく

 そしてそれをみた飯塚が秋山に問い詰めだす。

 


「仮想空間はAIが管理想像する世界のはずだ!それをこうやって操るのはやはりお前たち“媒鳥”がAIを私的に利用しているからだろう!!」



 すると秋山が呆れた顔をし飯塚の耳元へ近づき、静かに言う



「AIの居場所って項目は、“媒鳥”のデータベースに存在すらしなかっただろう?」



 飯塚は思い出したかのように目を見開き、

 興味をそそられる内容に、秋山の言葉の続きを傾聴する。



「俺達にAIの情報は何一つ知らされていない、何一つだ」



 飯塚が絶句する。

 公にAIを守る事が職務とされる“媒鳥”が、その守護する対象のことを何一つ知らされていないということ

 その事実が信じられなかったからだ


 そしてその不自然さに、自然とある答えにたどり着く



「そんなのは……嘘だ」



 飯塚は自信をもって言い切ることができなくなっていた

 なぜならこの場所で、偽物つまり嘘のものに囲まれている状況では尚更である。


 何が本当なのかわからなくなっていき

 それは次第にあの時自分に協力をしてくれた外国人のことさえ、疑いの目を向けてしまうほどであった。



「確かに嘘かもな、なんせ俺は嘘つきだからな」



 そう言い秋山は部屋を出る

 

 するとその後、飯塚にジャーキングのような現象が起こり

 仮想空間から遠ざかっていくような気分を感じながら

 その後


 目を覚ますのは、偽りだらけの現実世界だった。


 

 


 




 



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