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嘘つきとAIと某国の諜報員③


「昨夜起こったのは、我々“媒鳥”のデータベースへの不正アクセスだよ」


 

 秋山、柚木から係長と呼ばれる男が声色も変えず淡々と話し始める。

 係長は杖をつき立ち上がる。



「一部のデータが抜かれた形跡も見受けられるね」



 実際にデータが抜かれてしまっている


 その事実があるにも関わらず

 秋山達の反応は先程までの緊張とは打って変わって冷え切ったものだった。



「はぁ、またかよ……」



 秋山がため息を零した後、柚木が続けて愚痴を零す



「最近多いわね、確か2日前にもあったんじゃない」



 柚木の言葉を聞き終えた後、秋山がやれやれと立ち上がり出発の準備を始めるが

 しかし、その秋山に向けて係長が声をかけ、制止する。



「これこれ、待ちなさい秋山君まだ話は終わって居ないよ」


「は?そいつら捕まえるって話じゃないの?」


 

 秋山は怪訝な表情を浮かべ会議室扉の前で立ち止まる。

 柚木も同様に疑問を浮かべた表情をする



「係長、どういう事です?」



 2人から疑問を投げかけられた係長は又も、表情を変えること無く淡々と話始める。



「昨夜の件は既に5班が捜査に掛かっている」


「君達に調べて貰いたいのは、全体」



 2人が揃って首を傾げる

 全体とはどういう事なのだと



「さっき柚木君も言ったよね2日前もあったって」


「その前は何時発生してた?」



 未だ言わんとしている事を理解出来ていない柚木は首を傾げる。

 しかし、何かを察した秋山は考え始めた。



「“媒鳥”のデータベースへの不正アクセスが発生した日は2月の2日、5日、7日、10日そして昨日の13日……」



 

 係長は小さく頷き、柚木に向け質問を投げかける



「では先月の発生件数は?」



 質問された柚木が端末を操作し始める。

 柚木の端末はキーボード部分から宙に画面を映し出し、事件記録を調べているのが見て取れる。



「先月の発生件数は2件です。」



 素早く検索した柚木が2人に告げる。

 それを聞いた係長は又も小さく頷き



「ここ迄で分かった事は?」



 再び質問をされた柚木は考え込み

 暫く考えた後に出した答えは係長に対する反論であった



「しかし、これらの犯人は既に捕まっています、どれもAIの発達によって仕事を失った者達で、個人的な恨みからの犯行で接点は無いと結論付けられているはず」



 

 実行役の者達はみな様々な動機があり

 当然背後関係についても取調を受けていたが影響を受けた人物、依頼した人物等の特徴が一致しなかったことから関係性は否定されていた。



 しかし、反論されたにも関わらず

 係長は小さく頷き淡々と答える



「では、関わりの無い者達が次々と同じ目的の為に行動に移す確率はどんなものかな?」



 柚木は言葉に詰まる。

 そして辛うじて言葉を絞り出す



「すごく……低いです。」



「そうすごく低いんだよ、もちろんゼロではないけどね」



 係長は満足したように大きく頷く

 そして続けて満足げな顔で一言



「全ては“虚像”に過ぎない」



 係長の考えは、この一連の関係性が薄いと思われている事案も何かによってそう思わされているとの判断なのだ

 それに気付いた秋山が係長に問いかける



「係長は何かがこの裏で手を引いていると考えてるってことでいいのか?」



 

「何か……良い表現だね、そう“何者”では無く“何か”」

 

「目に映るもの、想像させられるもの全てにとらわれること無く疑わないといけない」



 係長が話した内容は“媒鳥”としての心構えだ

 相手は、あの手この手の嘘から編み出す“虚像”を携えやって来る

 その“虚像”を見破り“実像”を把握しなければならない


 でなければ、待っているのは破滅

 失敗は直ぐに知れ渡る。




「可能性として考えられるのは何かな柚木君」




 係長の急な振りに戸惑いながらも柚木が答える




「AIによって失業した者達を取り込んでいることから信頼を得やすい“反AI組織”もしくは思想的なインフルエンサーとか、もしくは……」



「もしくは諜報員……つまりプロのスパイ」



 

 秋山が口を挟み自らの考えを告げる




「そう考える根拠は?」



 

 係長が秋山の考えに耳を傾けだす



「1点は、狙ったのが“AI”本体ではなく“媒鳥”のデータベースであったこと」



 柚木の言う通り首謀者が反AI組織、並びに思想的なインフルエンサーであったのであれば狙うのはAI本体の情報であろうという考えであり

 その守護組織である“媒鳥”を狙うのは、理にかなっていない

 



「2点目は、実行役の挙げる発想を得た等の関係性のある人物の特徴が一致しないこと」


 

 頷く係長をチラリと見た秋山が続けて言う



「これは任意に印象に残る特徴を操作して、決定的な印象を残すことを避ける典型的なスパイの行為だ」


 

 そして杖をつく係長を見て秋山がニヤリと笑い言う



「例えば、係長みたいにね」



 それに対し係長は何も答えなかったが

 少し微笑んだのが見て取れた。



「3点目は1点目に追随した理由で、俺達“媒鳥”の特徴に関係している」


 

 秋山は3本の指を立て続きを話し始める。



「“媒鳥”は他の動物なんかを捕まえる為の囮、俺達は皆AIに関する特殊な経歴なんかを持っている」



「即ち、俺達を狙うということはAIを所有している国、もしくは所有しようとしている国の意思が働いている可能性が高い」



 秋山の話に説得力を感じたのか柚木は黙って考え込む

 係長も少し笑顔で話を聞いている。

 そして最後に秋山が肝心なことを付け加える




「まぁ、係長の言う説が本当ならの話だけど」




 そう言い秋山が係長の反応を待つ

 結局のところどうするかは係長の決定待ちであるからだ

 しばし沈黙が続いた後

 


「良いね、その線で調べようか」



 係長が指示を出す



「しかし、察しの通り人員は割けないまだ確証はないからね」



 そう言われた秋山と柚木はため息を零し

 秋山の方が口を開く



「どうでも良いけどその俺達を試すみたいなの辞めてくれない?疲れるんだけど」



 秋山の言葉に同調し、柚木も強く数回頷く

 しかし係長は悪びれもせず



「僕はもう引退間近だからね、君達を育て無いと」



 そう言うと杖を肩に乗せ、係長が決定指示を出す



「それじゃあ秋山、柚木でこの件を捜査すること」


「何か確証を得たら応援も出すから」




 そう言い杖を回し元気に両足で歩いて部屋を出ていく

 秋山と柚木は互いの顔を見合わせて、同時に言う



「……やるか」



 そして2人揃って会議室を出る。



 

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