嘘つきとAIと某国の諜報員①
2089年の未来の出来事
「いつからだ……」
「いつから私は騙されていた」
そう言った男は向かい合うもう一人の男に問いかける
問いかけた男の恰幅は良く背丈も190cmはある大柄の男で、金髪の無造作に伸ばされた髪をオールバックにしており
伸びた顎髭はモミアゲと繋がっているワイルドな身なりである。
更に羽織った革のジャケットがその特徴を際立たせている。
「そう言うと君は初めからだったと言うのだろうな……」
大柄の男の悟った様な言葉を聞き届けた相対する男が反応する
「……俺達は、逆の立場だよな」
問いかけられた男がポツポツと話し始める。
こちらの男は先程の大柄の男に対しては小柄に見え、身長も170cm程と小さめであり
中肉中背といった特徴のないシルエットだ
しかし、一つ彼を特徴づける様な要素があり
それは前髪の一部が脱色していてまるでメッシュを入れたようになっている
小柄な男は相対する男に堂々とした素振りで続けて話始める
「守る側と奪う側」
「立場は違えど共通の認識があるはずだ」
互いを指差す仕草を交えて話す男は、白色のジャケットを風になびかせる
それもそのはず、此処は10階建ての横に広がった政府施設の屋上で
周りに遮るもののない屋上は風をよく通すからだ。
そして、小柄な男が背後に立つ銀髪で長い髪をなびかせる少女を親指で指差す。
「全ては“虚像”に過ぎない」
大柄の男は理解に苦しむ
無機質に立ち尽くす少女は、男の欲する貴重な情報そのものである
しかし、目の前に居る前髪に白のメッシュの入った男によるとその全てが“虚像”だと言う
——それすらも嘘なのか……
真実と嘘の境界が曖昧になっていくのを感じる
大柄な男は、その言葉全てをそのまま受け取ると事実が成立しない事に気付く
そう、目の前の男は“嘘つき”自分を騙しこの窮地に追いやった存在であるということを改めて認識する。
「悩んでいるなデイヴィッド・ロッシ」
煽るようにデイヴィッドと呼ばれた大柄な男にが呼ばれる
その事自体にデイヴィッドは驚かなかった
この名前も多く使っている偽名の一つでしかなかったからだ
しかし、その名を呼んだのが銀髪の少女であること以外には
少女は口角を上げ、微笑むというよりも邪悪な笑みを浮かべ自分に語りかけている
その立ち振舞は自分の知る少女のそれとは違い、どちらかと言うと目の前に立つ男のものに近いということに違和感を覚える
「どういう事だ……秋山響」
銀髪の少女に気を取られていたデイヴィッドが秋山に向き直ると彼が目を瞑っていることに気付く
「そういう事か……」
デイヴィッドの言葉に反応する様に、閉じられた瞳を開きながら秋山が笑みを浮かべる。
「そこに気が付くのは流石だな」
秋山の称賛にデイヴィッドはついつい笑みを零してしまう
「“虚像”だと思っていたものが逆に真実だったとはな」
「降参だ、教えてくれないか“真実”を」
目の前の男はまんまと自分を騙し罠に嵌めた
その事実だけは揺るぎようのないものである
その事にデイヴィッドは素直に関心し、秋山の口から語られる言葉を今か今と待つ
「職業柄、“真実”については語れない」
そう前置きした秋山は微笑みながら続ける
「だが起こった“事実”なら教えてやるよ」
そう言って秋山はここ数日の出来事について語り始める。
周囲には秋山の応援に駆けつけた、同僚のヘリの羽音が響き始めた。