十一話
「いざ、参らん!フリータール王国へ!」
『よし、ちゃんと捕まれよ!?』
「うん!」
トンッと身軽に飛び立つジョウ。常ならば、お腹がキュッとなるアレを感じずにはいられない。
だがジョウの背中の上では、それも一瞬。後は、異世界の風景が眼下に広がるだけ。
「ふぅおわ〜〜!?異世界だ!異世界よ、こんにちわぁ!」
『おはようございます、だろ?』
「いいの!」
そこは突っ込むところじゃないのだよ、ジョウ。
これが、私がこれから暮らしていく世界の景色。
風光明媚すぎて、実家の高知を思い出す。
「あっ、水車がある!田んぼはにゃい。お米より粉物系だにぇ。水車のとにゃりにある小屋で、製粉してるのかにゃ?」
石臼とかの動力水車だ。今のところ、お米は期待出来ないけど、どっかで稲作してたらいいなぁ。
「ん?……あれが、聖教会の本拠地かな?」
『そうだろうな。あそこから、ウルシア様の一際強い神力を感じる』
「見つからにゃいように、さっさと通り過ぎるが吉!」
『同感だ!』
ジョウが言い終わるや否や、グンッとスピードをあげた。
『落ちるなよ?ミオ。身体の重心がズレている』
「……気をつけるよ」
下の景色に吸い込まれて、落下するところであった。一応、命綱みたいな紐は付けてるけどね。
『もう少しで、聖国の王都を抜けるぞ』
「にゃんで、そんにゃことが分かるにょ?」
『聖国の規模はあまり大きくはないが、王都を囲うように大きな結界が張られている』
「ほぇ〜。確か、ジョウは魔力が見えたもんにぇ。それで分かったにょか」
『その通り』
魔力視って便利。
相手が魔法を使う時にも、魔力の流れが分かるから、こっちにバレバレだ。
そんなこんなで、景色を楽しんでいたのも始めだけ。私たちは今、謎の魔導船に追われているのであります。
「にょ〜!?」
〘飛行魔獣の騎手に継ぐ〙
「にゃに〜!?」
フォンフォンと謎の音を発しながら、バカでかい機体は、私たちに接近し並行する。
〘この空路は、我々魔導船の航空路である。直ちに、道を譲られたし。繰り返す。直ちに道を譲られたし〙
「航空路!?この世界に、航空路なんてあるにょ!?」
『知らん!だが彼らが、魔物の出現が少ない道を選んでいても不思議ではない。魔導船は、非常に貴重で高額らしいからな。我輩が飛んでいるルートも、魔力の残滓が少ないルートを選んでいる』
「まじか!?魔導船って、地味に有能!」
『古代遺物だからな!高度な文明時代に作られた導具は、地球の電化製品と喧騒ないだろう!』
魔導船のフォンフォンってうるさい!ジョウも声を張り上げている。
「いや、それよか便利でしょ!?魔法なんて、卑怯以外なにものでもないよ!?」
〘応答せよ!?速やかに退避を願う!……速やかに退避せよ!〙
「ひぃ〜ん!?駄弁ってる場合じゃなかった!怒ってるよぉ!どうする?ジョウ」
『はぁ、仕方ない。一度陸に降りるか』
「そうしよう!是非そうしよう!」
私の返事を聞くや、グンッと急降下するジョウ。なんだか、苛立ってません!?
「んにょわ〜〜!?陸に下りると言ったけど、もう少しお手柔らかに〜〜!?」
私の悲鳴だけが、空に残った。
『全く、喧しい奴だ』
ため息を吐きながら、そんな事を宣うジョウ。陸に降りた私は、地面に突っ伏し大の字だよ。
「あぁ、地面だよ。地に足をつけるって、超安心する」
『付いてないではないか。寝転がりながらなにを「シャラップ!」…ちっ』
地面に頬擦りしながら、私は匂いを満喫する。安心するわぁ。全く……急な進路変更はご遠慮願います。
「でも魔導船の所持者って、クリーク連合王国だよね?」
全く!急に現れたと思ったら、道を譲れなんて、なんて傍若無人だ!会社はどこだ!?苦情をいれちゃる!
『ウルシア様の資料は、魔導船の保有台数を誇る国という記載ではないか?一艘だけなら、聖国が持っていても可笑しくないぞ?後は、高額の定期運行便かもしれん。馬車だと時間はかかるが、魔導船ならひとっ飛び。多少高額でも、速さを選ぶ輩もいるからな』
「う〜ん、時間をお金で買うんだにぇ。飛行機や新幹線みたいなもんかにゃ。まだ分からにゃいことばっかり。だけど、異世界も意外と暮らしやすいかも?」
『こちらに来て、まだ二日目だ。知らないことだらけで当然。徐々に、知っていけばいい。焦る必要はない』
「うん、そうする」
『ところで、この場所の詳細は分かるか?』
「MAP、オープン!」
おなじみの半透明のボードが現れる。深層の森が大部分を埋め尽くす地図に指二本を付け、グイーンと引き伸ばす。
場所はもちろん、私達のピンが立つ場所だ。
「場所は、聖国寄りだけど、クリーク連合共和国に近いよ」
駄弁っていたから、思ったより距離が進んでる。さっきまで王都の近くだったのに。
『そうか。ならば、軽く昼飯にしないか?その後、再度夕方まで飛べば、クリーク連合共和国は越える。今日はそれで終いだ』
「了解。和食と中華・洋食の、どれがご所望?」
気分は、小料理屋の女将。インベントリから机を取り出しながら、ジョウに希望を聞く。
「和食がいい」
「それなら、おにぎりと焼きおにぎり。具だくさんお味噌汁でいい?」
『うむ!焼きおにぎりと味噌汁で頼む!』
即座に人化を済ませたジョウだが、はち切れんばかりに揺れる尻尾が見えるのは、気のせいだろうか?
『気のせいだ』
「人の考えを読むな!」
『ミオは、考えていることが表情に出過ぎだ。ポーカーフェイスを練習するといい』
「ご忠告、どうも!」
へい、お待ち!と、焼きおにぎりとお味噌汁を机に置く。何故だ。これでは女将というより、大将じゃないか。
「ありがたくいただこう!」
両手を合わせ、早速食べ始めるジョウの表情は、恍惚としていました。
そんなに焼きおにぎり好きなの?今度も作ってあげるね。