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高校では、11月は特にこれといった予定がない。文化祭も体育祭も、9月、10月に催された。
だが、12月の初旬に後期中間考査が待っているので、呑気に構えてはいられない。
卒業後、就職するにしろ、進学するにしろ、在校中の成績が、内申点という点数として加算される場合がある。
勿論、おのれの学力に確かな自信があれば、成績を気にする必要はあまりない。
わたしは、決して秀才ではなかったので、日々のたゆまぬ努力というのが肝要だった。怠れば成績は落ち、励めば上がる。
担任の先生が連絡事項を伝えたりするSHRの後、一時間目は現代文の授業だ。
2年1組のわたしの教室。クラスメイトは総勢20名ほどだ。女子と男子の割合が、7対3くらいと、女子がより多い。何名か私語が多い女子がいて、先生の注意のターゲットによくなっている子がいる。反対に、男子はほとんど皆、静かでおとなしい。だが、おとなしくて線が細い感じが、多くの女子に好ましく思われておらず、カップルが成立しにくく、クラスの雰囲気はどこかぎこちなく陰気臭いところがある。
教室には荷物入れがなく、それぞれリュックやバッグなどを、机のフックにかけている。
公立高校に相応しく、備品の更新が頻繁ではなく、ことごとく使い古されるので、さほど新しくなければ、建て替えなどされたことのないわたしの『滝ノ沢高等学校』の教室は、机や椅子を含め、年数相応にくたびれており、壁、床などには、消えることのない大小の傷や汚れが付いている。
「寒~」と、わたしの前の生徒が、両手を擦り合わせて嘆く。白シャツ、ネクタイ、グレーのスカートという制服の上に、セーターを重ねて、袖を手の半ばまで覆わせていう。
二条美由紀という名前の女子。
髪の手入れに余念がなく、背中までかかるロングヘアーはパサつきのなくしっとりとしていて、堂々たる黒色だ。身長が150センチ代と低く、人相は、どちらかという魅力的だとわたしは思う。パッチリと大きく開く目に、ちょこんと顔の中央にのった慎ましい鼻。キッと一文字に結ばれた口はどこか不機嫌そうに彼女を見せるけど、愛嬌があって、割かし好かれている。気の強いのがたまにキズで、同じクラスの男子には目もくれないといった具合だ。
「暖房入れてほしいなぁ」
美由紀はそう呟いて手をゴシゴシしている。
「ねぇ、鈴?」、と彼女はサッと体をひねって振り向き、わたしの同意を求めてくる。
「そうだね。寒いもんね」、とわたしはあっさり返す。
「今日はどこからだっけ? 現代文」
美由紀はわたしの机上にあるテキストを取って、自分のがあるにも関わらず、ペラペラとめくりだす。
「今日は……」
わたしは現代文用のノートを開き、最後の板書を確かめ、美由紀にページを教える。
納得した美由紀は、テキストを閉じてわたしの方へ戻し、「あぁ、寒。寒」、とブツブツ言って前に向き直った。
AM9時前。じき、一時間目を知らせるチャイムが鳴る。
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