(4)
***
お墓参りより家へ帰る途上だろうか、スマホにチャットの受信があって、帰宅して自室に着いた後、気付いた。
送り主はわたしの家庭教師の、綾先生だった。
『鈴ちゃん、こんにちは。今日のテスト、どうだった?』
『綾先生、こんにちは』
と、わたしはスマホのキーボードで文字を打ち込んでいく。
『テストは、まぁ、可もなく不可もなくといった感じです』
『そう。残りの日程も油断しないでね。応援してるから』
『ありがとうございます。がんばります』
――何とも事務的で空々しい感じが、チャットの文面に滲んでいた。それぞれの言葉が、場当たり的で、軽いのだ。
誰か導き手がいれば、わたしはフラフラせずに済むのだが、自分の展望を開いてくれる先導者はあいにくいなかった。先生も、お父さんも、美由紀も、綾先生も――亡くなったお母さんも――それぞれ独自の道を歩んでいるのであり、わたしに行くべき方向を示してくれるのではなかった。
自分は将来、何になりたいのか? 何をしたいのか? 皆目分からなかった。
とにかく、目先のテストをやっつけるための勉強は欠かすことは出来ず、家に帰ったわたしは、昼食としてカップヌードルと冷蔵庫にあった総菜を食べた後、自室の勉強机に向かった。次の日の科目は現代文と英語だった。二科目とも、わたしの比較的得意とする科目であり、勉強は苦ではなかった。
その日は平日であり、お父さんは、土日祝が休みの会社に勤めているので、有給でも使わない限り、平日の日中は留守だった。
従って、家にはわたしひとりだった。
適度に休んでは、適度に勉強し、悠々とわたしは家での時間を過ごした。
後少しでテスト期間が終わり、冬休みへと入ることに、小学生のように、わくわくしていた。特にこれといった予定はないのだけど、朝は寝放題で、通学しなくていいというのは、やはり相当の解放感があるものだし、また、冬の寒い時期は、教室中央のストーブしか暖房器具のないしみったれた公立高校より、コタツもエアコンもある自宅の方が快適であるのは、間違いなかった。
テスト期間中は授業がなく、お昼には下校していいことになっているので、半分休みといった感じだった。
勉強だけに時間を割けるほどわたしの性分は謹直でないので、合間に、洗濯・掃除などの家事も、息抜きとしてする。普段、怠けてお父さんにやってもらいがちなので、こういう時に、やっていない分を取り返そうとするのは、悪いことではなかろう。
勉強、家事、休憩を交互にやっていく内に、昼が過ぎ、夕方になり、そして夜になった。
お父さんの帰宅時間というのは、読めない。電機メーカーで営業として働いており、その仕事内容も、わたしには縁遠く、理解が及ばない。電化製品を売り込むのだろうが、詳しいことはさっぱりだ。
ふと、勉強中付けていたイヤホンより、ラジオのニュースが始まり、いくつかの事件が報道された。犯罪や会社の倒産など、あまり景気のよいニュースはなかったが、昨今はそういうニュースばかりなので、別にこれといった感慨はなかった。
夜の早い頃、勉強に集中していると、玄関のドアの開く音が聞こえ、お父さんが帰ってきたのだと、わたしは察した。
炊飯器は、すでに米研ぎを終え、炊飯の予約の設定がしてあるし、冷蔵庫には、肉も野菜もあって、調味料もある。今日は買い出しに行かなくていいくらい、食材がある。野菜炒めでも味噌汁でもすぐに作れるといった具合だ。
――わたしは、切りのいいところまで、勉強を続けることにした。
PM6時半ごろ。
***