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美由紀も、ただ漫然と高校卒業までの日々を過ごしていくつもりはなく、一方ではみずからの学力、関心に見合った大学あるいは専門学校を探し、一方では、学校斡旋で募集されている職種の求人票の内、めぼしいものをピックアップした。
12月の半ばに差し掛かり、何日間か、季節外れの暖かい日々が続いた後、急激に空気が冷え込み、雪が降り、かなりの降雪量で、ドカ雪だった。
夕べから降り出し、一定の強さで降り続き、明くる朝には辺りは銀世界だった。平日だったが、美由紀は学校を休むことにし、美紗樹も、いつも利用している電車が大雪の影響で運休となったことで、有給を使ったようだ。
学校への連絡を済ませた後、美由紀は、鈴へとチャットを送ってみた。
『今日、鈴は学校、行く? 雪、すごいけど』
『行くよ。美由紀は、来ないの?』
『わたしは、休む。こんな日くらい、休んでもいいかなって思ってさ』
『了解。美由紀って寒がりだもんね』
『まぁね。期末テストが近いから、今度学校に行く時、必出の箇所、教えてね』
『ひとつの教科につき、千円ってところかな。情報代として』
『え~っ、有料なの?』
『冗談だよ。それじゃあね』
――自身の体温で温められたベッドの中で、美由紀は、充電ケーブルを繋いだスマホで動画を見たり、ふと気になった事柄を検索したりして学校を休む日の朝を悠然と過ごし、やがてお腹が減ってくると、ケーブルを外したスマホをポケットに、ベッドを出た。
ダイニングでは、母の美紗樹が食卓に付いて、コーヒーをお供に、ジャムトーストを食べている。
美由紀もキッチンで袋入りの食パンの一枚を取り出し、トースターに入れてつまみを回した。だいたい5分で、キツネ色になる。
テレビが付いており、朝の情報番組をやっていた。普段、時計代わりにしているものであり、今は大雪の報道をリアルタイムで伝えている。
ジーというトースターを待って、美由紀はインスタントコーヒーを淹れ、食器を整理する。ゆっくり過ごせる朝くらい、きちんとバランスの取れたメニューを食べればいいのに、パンが楽だからと、結局パン一枚になってしまう自身の惰弱さに、美由紀は若干自己嫌悪の念を催すのだった。
「すごい雪ねぇ」、と、美由紀がトースターとカップを持って食卓に付くと、美紗樹が、テレビに目を向けたまま呟く。
「そろそろ真冬に突入って感じだね」、と美由紀。
「クリスマスに降ってくれたらいいけど、ここの雪は安定しないのよね」
「ママは何か考えてるの? クリスマス」
「今年のクリスマスは、イブも含めて平日だからね。あんまり何かやろうっていう風には思わないなぁ」
「もし仕事が忙しかったら、わたしケーキとか買ってくるよ」
「そうね。ケーキくらいは、食べたいわね」
「カタログ、貰ってくるよ」
「わたしも、仕事の帰りにどこか洋菓子屋さんに寄って見てこようかな」
その後、二人はいっしょに朝食を摂り、食べ終えたら、それぞれの時間を思うように過ごした。美紗樹は、リモートの仕事があったので、自室でパソコンに向かって資料作成をし、美由紀、自室で、学校で貰ったいくつかの求人票を総覧し、また、テスト勉強もした。
――雪は、朝になり、やや降り方を弱めたが、まだ結晶度の高い雪の粒子を空に蓄えていて、雪がやむまで、また、積雪がとけるまで、長い時間が必要みたいだった。
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