表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈黙の園  作者: Yuki_Mar12
『美』の章その①~母親とのふたり暮らし~
12/32

(2)

***




 美由紀は母親と二人暮らし。


 衣料品メーカーに勤める母親、二条美紗樹は、残業、ないしは社交上の理由で帰りが遅くなることがしばしばだ。管理職ということで、平社員のようには易々と解放されないのだろうと、娘には何となく推測された。


 だが、美紗樹は、毎日決まって帰宅が遅いというわけではない。週に2日くらいは、6時頃に帰ってくる。週によっては、毎日遅く帰ってくることもあるし、逆に、早く帰ってくることもある。


 その日の帰りがどのくらいになるかは、いつも美紗樹が夕方、大体の帰宅時刻が確定したタイミングで、美由紀へとチャットで知らせることになっている。




 ――冷え切った空気の中で、息が白く凍て付く。


 美由紀は、カゴの中身の衣類を次々とハンガーに掛け、物干しに吊るしていく。


 外には同じマンションの部屋部屋が見える。おおむね照明が付いており、どの部屋も、すでに誰かがおり、あるいは帰宅して、夜ご飯の支度などしているのだろうと、彼女はぼんやりと想像した。




 今日は、8時ぐらいになると思う。

                 』




 分かった。

      』




 母親のチャットを、娘はすでに受け取っていた。


 それぞれ家族同士だが、高校生と、忙しい管理職とでは、どうしても生活のタイミングやリズムが噛み合いにくく、すれ違いが起きやすい。


 そういう事情があって、二条家では、夜ご飯は別々に食べていいこととなっている。


 食費は母親の給料日ごろに、娘に一定額渡される。決して少額ではなく、外食が悠々と出来るほどであり、ひもじい思いをしなくてよい。


 だが、育ち盛りの子供にとっては、より必要なのは、食べ物でも金銭でもなく、家での親とのコミュニケーションであり、世代間の交流なのだった。


 勿論、美由紀と美紗樹は、それぞれ常に別々なのではなく、きちんと一緒に過ごせることはあったし、そういう場合には、思う様、ふたりでの時間を楽しんだ。




 寒いから、外食には、美由紀は、行くつもりがなかった。家にあるもので済ませようと思った。冷蔵庫に、先日美由紀が作った、豆腐だけあれば作れるインスタントの麻婆豆腐の残りと、何品目かの野菜が摂れる惣菜のサラダがあった。足りなければ、カップ麺もあった。


 食費として渡される金銭は、余った場合、母親に返却しないといけないものではなく、自分の貯えに出来るのだった。


 勿論、散在しても構わないが、その辺は、美由紀の良心次第だった。母親としては、娘に早く金銭感覚を身に付けさせたいという思いがあった。




 カゴの中身が空になる。


 物干しに吊り下がった洗濯物は、濡れているところに12月の風に晒されて、氷のように冷え冷えとしている。乾くのに時間がかかる季節だが、夏のように汗でベタベタに汚れず、洗濯物が比較的少ないのが幸いだ。


 美由紀はカゴを携えて掃き出し窓を開けて中に入って閉じ、カーテンでサッと覆う。




 こういう時期、居場所が、惨めに思えるほど寒い屋外より、風を凌げる屋内へ移ると、ホッと気が安らぐものだ。




 PM6時30分ごろ。




***

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ