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二条美由紀においては、自身の将来像は、何となく決まっているように思われた。
ライターだの、ユーチューバーだの、写真家だの、画家だの、いわゆる自由業は色々ある。
同じクラスで仲のよい一之清鈴には、雑談にまじえて話してみたけど、自分で口にして、自由業を選択するのは、現実味に乏しかった。
だが、結局、そういった職業とは縁がなく、遠くない未来、自分はきっと、母親のように、どこかの企業に正社員として雇用され、勤めていくのだろう……そのように、彼女はぼんやりと予測した。
令和の今、キャリアアップを望む女性が多いのか、少ないのか、美由紀にはうまくイメージ出来なかった。ただ、少なくとも道は開かれているように思われた。望めば、男性と同じ待遇で働けるのだ。
だが、その後の進展のしやすさは、男女差がある気がした。美由紀の母親は、管理職を任ぜられているが、彼女の働く会社が、女性向けの衣料品の製造メーカーで、社員のほとんどが女性なのだった。従って、男女間の見えない隔たりはあまりないのだった。
きっと、会社によっては、いわゆる『見えない天井』があって、女性の栄進を端から否定しているのだろう。
そういう煩わしいことに関わらなくていい点で、美由紀にとって自由業は望ましいものだった。
だが、どちらにも長所、短所のどちらもあり、どちらがよりよくて悪いと断ずることは、軽々に出来ないのだった。
壁掛けのカレンダーは、12月のものだ。
脱衣所にある洗濯機の稼働が終わったことが、『ピー』という合図の音で知らされ、和室でコタツに入っていた美由紀は、家事のために重い腰を上げるまで、ちょっと時間が必要だった。
PM6時ごろ。
彼女は、テレビを見るともなしに見ていた。ニュース。一応、コタツの上には、受験勉強のテキストや文具や電子辞書が雑多にあるが、あまり集中出来なかった。
山間の方面にあるマンションの一室。母親はまだ帰ってきておらず、いるのは美由紀のひとりのみ。
心細い思いとダルさを振り切って、美由紀はようやく立ち上がり、その辺に脱ぎ捨てたボア生地の上着をサッと羽織ると、襖を開けた。
スリッパを履いて廊下に出、カゴを用意し、角を曲がり、脱衣所へと移る。
うっすらと洗濯洗剤の香りが漂っている。
縦置き型の洗濯機。
蓋を開けて、中身を次々と取り出していく。大家族ではなく、二人暮らしなので、洗濯物の量は多くなく、さほど時間も手間もかからないが、冬の今、洗濯物を干しにベランダに出るのはちょっとした修行だった。
ぜんぶカゴに移し終えると、カゴを携え、脱衣所を出、廊下をベランダへと歩く。
カーテンを開き、吐息で白む窓の錠前を外すと、美由紀は窓を開ける前に、吐息の結露の向こうに、チラチラと細かい粒子の降っている様が、見える気がした。
「あっ……」
そう呟いて、美由紀が窓をゆっくりと開いてみると、その様は、よく見えるようになった。
その冬の初雪が、穏やかに舞っていた。
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