(1)
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とても寒い日和だった。
まるで真冬のような、晩秋の一日。寒気が大陸より運ばれ、冷たく乾いた突風が、あっちへとこっちへと、やんちゃに吹き荒ぶ。
空はスッキリと晴れており、日の光が明るく地表に差しているが、温度のない冷めた光なのだった。
わたしは、学校より帰る途中だった。いつもの通り道の、公園の中の道を、独り、行く。気を遣わなくていいラクさがある一方で、寂しさもある。
温かい季節にはそこそこ活気のある公園の賑わいは、晩秋の今となってはほとんどすっかり静まり、見える姿といえば、寒さに強い子供が遊んでいるものか、毎日のルーチンである散歩をサボらない義務感の高い有閑人が、せいぜいだった。誰も彼も、防寒着を厚く着込んで、何だかたくましかった。
強い空風がブワッと吹く。灰色の枯れ木の間を高い風圧で抜け、地面に落ちた無数の枯れ葉を浮かせ、移動させる。
わたしにおいては、突風に立ち止まることを余儀なくされ、長く伸ばした髪が、好き放題にいたずらっ気のある風に煽られて、口や目に巻き込み、束の間不自由さを覚える。
防寒具はちゃんと身に付けていて、マフラーを首に巻き、ダウンまで着込んでいるのだが、いかんせん、下がスカートで、剥き出しの脚が寒くて仕方ない。一部の女の子のように短くミニにしてはいないが、それでも冷気は隙間という隙間に忍び込んでくる。
「ウゥ……」
わたしは、目をギュッと瞑って寒気に身震いした。鼻水まで出てくる。
早く家に帰ろう。
ハンカチをダウンのポケットより取り出し、鼻を覆い、チンとかむと、再び歩を進める。
11月の暮れ。クリスマスが約一ヵ月後と近いが、決まった予定はない。ひょっとしたら、クラスの誰かがパーティーか何かに誘うかも知れないけど、今のところは、フリーだ。家ではきっと、ケーキが用意されるだろうけど、キリスト教徒でなく、お祝い事というムードが毎年皆無なので、さほど気分は上がらないだろう。ケーキは勿論、嬉しいのだけど。
上を見上げてみると、枯れ木の枝越しに、よそよそしい青さを湛える寒天が見える。程なく消えていきそうな片雲が虚空を漂い、夕暮れは近い。
《~♪》
無線のイヤホンを両耳に着け、わたしは音楽を聴きつつ、歩いている。ひとりの時は、いつもそうしている。
向こうで父子と思しき二人が、ファイティングポーズを取って、じゃれ合っている。40歳くらいの男の人と、靴の小さいまだ学校にも通っていないくらいの子。きっと、テレビでやっている戦隊物か何かの真似事だろう。子供がヒーローの役で、お父さんが怪獣とか悪者の役。
――クシュン!
くしゃみが出、また鼻水で顔が汚れ、ハンカチが必要となる。
あぁ、寒い……。
丸太を加工したベンチとテーブルが枯れ木ばかりの木立にあるが、無人だ。木立の陰に埋もれたそのベンチとテーブルは、見るからに冷たそうだった。
ハンカチをポケットに仕舞い、手で両頬に触れると、手の冷たさにびっくりする。
早く家に帰ろう――。
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