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沈黙の園  作者: Yuki_Mar12
『鈴』の章その①~或る晩秋の一日から~
1/32

(1)

***




 とても寒い日和だった。


 まるで真冬のような、晩秋の一日。寒気が大陸より運ばれ、冷たく乾いた突風が、あっちへとこっちへと、やんちゃに吹き荒ぶ。


 空はスッキリと晴れており、日の光が明るく地表に差しているが、温度のない冷めた光なのだった。


 わたしは、学校より帰る途中だった。いつもの通り道の、公園の中の道を、独り、行く。気を遣わなくていいラクさがある一方で、寂しさもある。


 温かい季節にはそこそこ活気のある公園の賑わいは、晩秋の今となってはほとんどすっかり静まり、見える姿といえば、寒さに強い子供が遊んでいるものか、毎日のルーチンである散歩をサボらない義務感の高い有閑人が、せいぜいだった。誰も彼も、防寒着を厚く着込んで、何だかたくましかった。


 強い空風がブワッと吹く。灰色の枯れ木の間を高い風圧で抜け、地面に落ちた無数の枯れ葉を浮かせ、移動させる。


 わたしにおいては、突風に立ち止まることを余儀なくされ、長く伸ばした髪が、好き放題にいたずらっ気のある風に煽られて、口や目に巻き込み、束の間不自由さを覚える。


 防寒具はちゃんと身に付けていて、マフラーを首に巻き、ダウンまで着込んでいるのだが、いかんせん、下がスカートで、剥き出しの脚が寒くて仕方ない。一部の女の子のように短くミニにしてはいないが、それでも冷気は隙間という隙間に忍び込んでくる。


「ウゥ……」


 わたしは、目をギュッと瞑って寒気に身震いした。鼻水まで出てくる。


 早く家に帰ろう。


 ハンカチをダウンのポケットより取り出し、鼻を覆い、チンとかむと、再び歩を進める。


 11月の暮れ。クリスマスが約一ヵ月後と近いが、決まった予定はない。ひょっとしたら、クラスの誰かがパーティーか何かに誘うかも知れないけど、今のところは、フリーだ。家ではきっと、ケーキが用意されるだろうけど、キリスト教徒でなく、お祝い事というムードが毎年皆無なので、さほど気分は上がらないだろう。ケーキは勿論、嬉しいのだけど。


 上を見上げてみると、枯れ木の枝越しに、よそよそしい青さを湛える寒天が見える。程なく消えていきそうな片雲が虚空を漂い、夕暮れは近い。


《~♪》


 無線のイヤホンを両耳に着け、わたしは音楽を聴きつつ、歩いている。ひとりの時は、いつもそうしている。


 向こうで父子と思しき二人が、ファイティングポーズを取って、じゃれ合っている。40歳くらいの男の人と、靴の小さいまだ学校にも通っていないくらいの子。きっと、テレビでやっている戦隊物か何かの真似事だろう。子供がヒーローの役で、お父さんが怪獣とか悪者の役。


 ――クシュン!


 くしゃみが出、また鼻水で顔が汚れ、ハンカチが必要となる。


 あぁ、寒い……。


 丸太を加工したベンチとテーブルが枯れ木ばかりの木立にあるが、無人だ。木立の陰に埋もれたそのベンチとテーブルは、見るからに冷たそうだった。


 ハンカチをポケットに仕舞い、手で両頬に触れると、手の冷たさにびっくりする。




 早く家に帰ろう――。




***

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