第一章(1)
すっかり忘れてた。
今思い出しました、はい。
まあ、誰も読んでないだろうし問題ないっしょ。
「今日から皆と一緒に2年C組で勉強する仲間を紹介します。鳥風月花さん、A組の陽花さんの双子の妹さんです。事情により転入時期は少しズレてしまいましたが、皆、仲良くするように。……さ、席はあそこですよ。」
「なんか今年転入生多くね?」「かわいい〜。」「さすが双子。そっくりだなぁ。」
ザワザワとする教室内。人見知りの私は知らない人だらけで心臓バクバクである。ものすごく緊張しているのだ。死にそう。みんなの視線が苦しくて、少し俯いてしまう。
クラス中の視線をそのまま一身に受けたまま、公開処刑かなにかなのかと思いながらも、先生に言われた通りにクラスの中で一つだけ空いている席に座る。
窓側一列目の最後尾の席。よくマンガやアニメで主人公が座る席。その手のオタクにとって憧れで、人生一度でいいからそのポジションにいてみたい、と思ったり、逆にいやいやそれは恐れ多い、と思ったりする席。うん、やっぱりこういうこと言う時は語彙力が死んでしまう。まあ、きっと誰かにはこの気持ちが伝わるだろうと勝手に思い込むとして。
「ね、ね。」
ホームルームが終わって休み時間(実際は先生たちの授業準備の為の時間らしいが)になると、ふと、隣の席から声が掛けられた。私がその声のした方を向くと、一人の少女がこちらを見ていた。
「私、山野舞瑠。よろしくね。」
そして自己紹介をしてきた。私も「よろしく。」と言おうとしたが言葉がうまく出てこず、とりあえずペコっと軽くお辞儀をしておいた。
前の席の子と斜め前の席の子はこちらを見ない。
前の席の子はなんか難しそうな本を読んでるし、斜め前の席の子にいたっては机に突っ伏して寝ている始末である。……まあ、休み時間をどう使うかは個人の自由だし、むしろ転入生だー、て騒がないだけマシ。……ほら、クラスの人達の視線を今もチラホラ感じるし。……目立ちたくないなぁ……。……私、こんなんでやっていけるかなぁ?
その後、移動教室の時は舞瑠ちゃんに案内してもらいながら、無事放課後を迎えることができた。
帰り支度をしていると、誰かが教室内に入ってきた。黄色い髪を後ろで軽くまとめている少年。
「さあ!部活の時間だぞ!部員よ!部室に集合だ!……勿論、新入部員も大歓迎で受け付けているぞ!」
彼は、教室中に響く大音量でそう言った。朗らかに。……120db?そんなイメージだ。……どんなイメージだ。
というより、ここって部室なの?……なら早く帰らなきゃ。
「あ、勇志君。大声出さないでっていつも言ってるでしょ?静かに静かに、だよ。」
舞瑠ちゃんが少年に向かってそう言った。……友達、なのかな?
「月花……?ああ、陽花の……。ならば、自己紹介をせねばな。はじめまして、オレは西野勇志!はるか昔、この世界を魔の手から救った勇者の子孫なのだ!……そして、この学園でそれを知らぬ者はいない。ハーハッハッハ!」
少年……勇志くんは言った。……やっぱり120dbのイメージが……。
にしても、勇者の子孫、ねえ……。なんかちょっと、疑わしいなぁ……。信じがたい。
「彼の言っていることはウソじゃないですよ。……半信半疑な顔してますけど。」
と、前の席に座っていた子が突然話しかけてきた。
えっと、誰?……今朝、難しそうな本を読んでた子だってことはわかるんだけど。
「私は剣崎杏奈です。私には敬語じゃなくても大丈夫ですよ。」
杏奈ちゃんはそういってかるく微笑んだ。……この子、顔面偏差値高いなぁ。……可愛い子が微笑んできたらドキッとしちゃうでしょ。もう。……これは、誰か一人は勘違いしちゃった子いそうだなぁ。……絶対いるでしょ、この笑みは。……私?私はそこまで可愛くないよ。強いて言うなら乙女ゲーの主人公ヒロインみたいなかんじ?……パッとしないけど、取り立ててブスでもないし、一応可愛いと言われる部類には入る。……そんな感じ。
「そういえば、月花ちゃんってやっぱり人見知り?今日見てきた中で、ずっと声を出してくれたためしがないから、そうなのかなって。」
これまで静かに見守っていた舞瑠ちゃんがそう聞いてきた。私はそれにこくり、と頷く。
すると、舞瑠ちゃんは「そっか〜。」と穏やかに言った。ほわんほわんとした声で。……この子も顔面偏差値高めだなぁ。……杏奈ちゃんの方に若干軍配が上がる感じだけど。あの子とは違った可愛さがある。
そんな風に穏やかな空気が流れる放課後の教室に、突然大声が響き渡った。
「うにゃあっ!!」
声がした方を見ると、そこにはいつの間に移動したのか、さっきの陽気で活発な少年、勇志くんといったか、が、あの授業中ずっと居眠りしてて今さっきもなお、絶賛居眠り中だったあの子の狐耳を引っ張っていた。……あー、あれは確かに痛そう。
「お前は、一体いつまで眠り呆けるつもりだ?」
「だからって、耳引っ張るこたぁないでしょ〜?いーたーいー。あー、耳ちぎれたかも耳ちぎれたかも。」
「んなわけあるか!」
という会話も聞こえてくる。
そこにもう一人教室内にずかずかと入り込む影が。それは見覚えのある姿だった。それもそのはず。
「あ、陽花〜!ねぇ〜、聞いてよ〜!さっき勇志の莫迦がね〜!」
と言いながら少女が抱きついた先にいたのは、私とは別クラスの陽花だった。
「もう〜、ま〜た居眠りしてたんでしょ〜。ほんと懲りないね〜。……でも、勇志も勇志で、耳を引っ張るのはダメだよ。やりすぎ。」
「……陽花……。」
私はさりげなく陽花に近づいた。あのコミュ力お化けの力を借りる為である。
「んぁ?あ、月花。どう?こっちの学校はもう慣れた?」
「そんなたったの一日で慣れるわけないでしょ……。」
私は陽花の陽キャな質問にそう返した。コミュ障、ぼっち、オタク、etc……な私にとって、新しい環境に慣れるにはものすごく時間がかかるってのに。
陽花はそれを知ってか知らずか(多分知ってる)、「まあ、月花は人見知りだもんね〜。」と呟き、そのまま勇志くんの方へ。さっき抱きついてた子はもう既に陽花から離れている。
「で、勇志。部室まだ行かないの?」
「ん、ああ。行くぞ。よし!皆、早く来るんだぞ!絶対にサボらないように!……あ、バイトとか大事な用事があるなら先に言ってくれ。それかメッセでも。……じゃっ!」
陽花に指摘され、ピューッと音が出そうなくらいの速さで教室を飛び出していった勇志くん。途中で「廊下は走らないのー!」という注意する声も聞こえてきた。まだ教室内に残っているクラスメイト達は、「またか。」とか、「いつものことだなぁ。」とか言ってすぐに皆思い思いの談笑に花を咲かせている。
私は陽花に聞いた。
「さっきの子が言ってた部活って、陽花も入ってるの?」
「うん。そうだよ。なんなら見学する?」
「何部かわからないけど……。まあ、見学はしたいかな。陽花の入ってる部活ってなんだろうって興味あるし。」
「なら、一緒に行こ〜!道案内はボクに任せて!」
と元気よく返され、私は陽花達についていって、その部活見学をすることに。
その道中。
「そういえば、恵美だけ月花に自己紹介してないですよね。」
「?」
「あ、月花ちゃん。この子は狐塚恵美ちゃん。見ての通りの狐獣人だよ。」
私は狐耳の生えている少女……恵美ちゃんに、ぴょこっとお辞儀をした。相変わらず人見知りモード発動中なのである。一方恵美ちゃんはというと
「うん、よろしくね〜。」
そう、のんびりした口調で返してくれた。
ーーー
「うふふっ。やっと見つけたわ。」
まだまだ暑さの残る九月の炎天下。アタシ達は遂に見つけた。そう、あの子を。
今、目の前にいる堕天使が指差す先。ある学校の校舎。あそこに、いる。
「あの学校は……。いえ、何でもないわ。」
アタシはその校舎を見て、暫し懐かしさに耽りそうになるのを必死に堪え、堕天使に一つ質問を投げ掛ける。
「この後、どうするの?」
「勿論あの子の元へ行くわ。ねぇ、良いわよね?」
答えは即返ってきた。アタシは彼女のその切実な眼差しを一瞬だけチラッと見た後に、
「ええ、行きなさい。」
と、一言告げる。
「ただ……。」
「ただ?」
アタシはこの学校にいるあの子達を守る為、堕天使に一つお願いをする。
「何か、建物とかを壊したり、関係無い人達を襲ったり怪我させたりしない事。……人類じゃないからとか言って人外扱いして攻撃するのも駄目よ。」
すると女は「ええ、わかったわ。それは元々わたくしもそう考えていたもの。」と答えた後、
「でも、もし歯向かって来たら……。殺さない程度には攻撃させてもらうわ。……勿論、いきなりではなく、説得に失敗した場合だけよ。」
と、そう言った。……あの子達にこの事態が伝われば、恐らく、いや、必ず、確実にこの女を止めようとするだろう。……大切な親友達を失う可能性だっておおいにある。それは辛い事だけど……。でも、あの子なら何とか出来るはず。今までがそうだったもの。今回もきっと。
そう自身の想いに整理をつけたアタシは、
「そ。なら早く行きなさい。」
そっけなく、たった一言だけ返した。
「それじゃあ、行ってくるわ。」
彼女は、そう言ってアタシに背を向け学校の校舎へと真っ直ぐ進んでいった。
アタシはその後ろ姿にこう呟いた。
「行ってらっしゃい。」
そして……。
ーーサヨナラ、と。ーー
ーーー
陽花達の言う“部活”の部室は、北と南に分かれている校舎の内、北側にあった。四階のとある空き教室。すぐ近くには図書室があり、その廊下を東へ進んだ突き当たりには吹奏楽部の部室である第二音楽室があって、そこから楽器の音が聞こえてくる。ちなみに第一音楽室は反対側の南校舎にあるという。
ここは西の突き当たりに近く、そこにある美術室からは和気藹々とした声が聞こえてくる。なんでもこの学校の美術部は最早部活と呼べるのかわからないくらい自由度が高いらしく、夏の部展と体育祭の横断幕作り以外はほとんどすることがないという。その代わり、学ぶ事もないという、自他共に認めるサボり部グチり部お喋り部になってしまってるみたい。……それでいいのかとツッコミたくなるが、それはまあ置いといて。
さて、話を陽花達の言う部活の部室である空き教室に戻すが……。この空き教室、なんだか不思議な感じがするのである。
どうしてだろうと私が思っていると、陽花が何かを制服のポケットから取り出した。
それは、何の変哲もない鈴付きストラップ。鈴だけでなく、宝石も付いている。光を受けて、様々な色に輝く虹色の宝石。なんの種類かはわからないけど、こんなストラップ、陽花、持ってたっけ……?
陽花は部室のドアの前に立ち、そのストラップの鈴を鳴らした。
チリリーン……
それから程なく。
ガチャッ
と、カギの開いた音がした。
ガラララッ
大きな音を立て「おっまたせ〜!」と言いながら中に入る陽花。その次に恵美ちゃん、舞瑠ちゃんが入っていく。最後に杏奈ちゃんが私に手を差し出してきたのでありがたくその手を取りーーといってもおずおずと、だけどーー教室の中に入る。
そこには先に着いていた勇志くんともう一人……。
「眞先生!?」
転入手続きの際に会った、〈星空学園〉の校長兼理事長の柊眞先生がいた。
「おや、やはり来たみたいだな。」
眞先生は、そう言って私に微笑みかけたのだった。
ーーー
その頃、〈星空学園〉裏門付近では、小さな騒ぎが起きていた。
「そこの者、止まれ!何者だ……?ここから先は〈星空学園〉の敷地内。立入許可を得ていない者は即刻立ち去りなさい!」
不審者の不法侵入。それは、かなりの脅威になり得ると思うだろうが、この〈ブル•プランタン〉において、この程度では全く脅威にならない。何故なら、それ程までに各公共施設の警備員達は強いからである。だから、小さな騒ぎにしかならない。一部の生徒もこの騒ぎに気付いてはいたが、
「なんだ、ただの不法侵入か。」
で終わってしまう。どこかの地震大国における震度三の地震の様に。一部の人がそれを感知しても、「なんだ、ただの地震か。」で済ませてしまう様に。
「止まれ!それ以上進めば現行犯で身柄を確保する!」
と、もう一人の警備員がやってきた。どうやら騒ぎを聞きつけた仲間の警備員が増援に来たみたいだ。
総勢五名の警備員。不審者はすぐに周りを囲まれてしまう。……これではなす術なしだろう。誰もがそう思った。校舎で見ていた野次馬生徒も、ここにいる警備員でさえも。
だが、しかし。
「……。嫌よ。出ていく訳にも、捕まる訳にもいかないわ。」
ドガッ
「だって……。」
ドゴッ
バンッ
バキッ
「待てっ!止ま……!」
ズシャバタン
「わたくし、〈堕天使〉だもの。こんな所で止まってちゃ意味がないの。」
不審者……自称〈堕天使〉の女は、そう言って一人、校舎の方へと向かって去っていくのであった。
ーーー
「私がここにいる理由?簡単な事だ。私がこの部活の顧問だからだ。」
眞先生がそう言った。そういえば、一つ肝心なことを聞いていない。
この部活は何部なのか。一体全体何もわからない。予想もできない。
「あ、そういやまだここが何部か言ってなかったね。」
と、私が思っていることがまるでわかっていたかの如く、丁度いいタイミングで陽花が呟いた。私に向かって。
「でもまあ、この部活は少し変わっ……特別でね。何たら部っていう名前がある訳じゃないの。」
「〈冒険者スコードロン〉公認〈ギルド〉〈虹色の英雄〉の支部っていう立ち位置なんですよ。」
舞瑠ちゃんと杏奈ちゃんがそう説明する。冒険者スコードロンとかギルドとか、アニメの中でしか聞いたことの無い名称が出てきたがまあ意味はわかるからそのまま続きを促す。
「それで、具体的に何をしてるの?えっと……。」
「ギルド〈虹色の英雄〉だ。まあ、部活として活動してる時はただの便利部だかな。お手伝いみたいなもんだ。」
ギルド〈虹色の英雄〉。その名の通り、虹色の英雄みたく様々な物事を手助けするギルドだという。ここで言う“虹色”とは、個性や魔力適性のことを指すんだって。……魔力適性ってのがよくわからないけど……。
そんな風にこの部活……ギルドについて色々教えてもらっていると、突然ものすごいスピードでノックもなしに、いきなり部室のドアが開けられた。鈴の音が聞こえなかったのはここと外が別の空間になっているかららしい。助けを求める者、つまり依頼人はあれを鳴らさなくてもいいんだとか。……でも、どうしたんだろ?
何事だと私も含めその場にいた全員がその方向を見ると、中等部生の制服を着た男の子が血相を変えて、息も絶え絶えにそこにいた。
「だ、堕天使が……!はぁはぁ……!攻めてきて……!もう警備員もみんなやられてるっす!」
「た、助けてください!」
と、後ろからもう一人男の子が。……兄弟だろうか?よく似ている。
そんな二人を部室に迎え入れる勇志くん。そして先程までのお調子者の顔はどこへやら。一気に真剣な顔になり「敵の情報は?」と二人に聞いた。
「大量の堕天使と悪魔の群れっす!」
「ボスは魔王軍七幹部序列第一位〈傲慢のルシファーです!」
呼吸を落ち着けた後、二人はそう報告した。
彼らは中等部三年の天野秀とその弟で中等部一年の天野翔というらしい。そして、二人ともギルドメンバーで、星空学園中等部支部の子達だという。ちなみに今いるここは高等部支部だ。
報告を受けた勇志くんは更に真剣な顔をして、
「敵の相手はオレ、陽花、杏奈、恵美でやる。舞瑠は校内の皆を安全地帯へ避難させてくれ。秀と翔はここで待機。何かあれば〈念話〉するし、そっちも何かあったらそうしてくれ。それと……。」
早口で、しかし全員に聞き取れるように指示を飛ばした後、彼は私の方を見て、
「月花はギルドメンバーってわけじゃない。だから、安全地帯へ避難してくれ。……手伝いだそうな顔だな。……なら、舞瑠のサポートを頼んだ。」
そう言った。
そんな勇志くんに対し、何か言いかけた私だけど……。
「……。わかった。」
喉元まででかけて言葉を飲み込み、こくりと頷き、舞瑠ちゃんと共に安全地帯へ。
ーーでもこれが、まさかあんな事態を巻き起こすなんて、この時は誰も知る由もなかった。ーー
ーーー
ふふっ。どうやら、前奏が鳴り始めたみたいだね。
……。「何の?」だって?それはもちろん彼女の……いや、彼女達の物語の、さ。
君も、ワクワクし始めているだろう?盛り上がってくるぞ、てね。
……。「そんなことない。」?全く素直じゃないなぁ。さっきからずっと、スクロールする指の動きも、文を追う目の動きも、一切止める素振りを見せていないよ?
……。……!あっ!やめてっ!ページを閉じないで!これからなんだからさぁ。
全く……。せっかく君にはこの物語を見届ける権利があるというのに……。まあ見ない権利もあるけどさ……。
……。「ところでアナタは誰なの?」だって?……さあ、誰だろうね。ヒントは物語の中で少しずつ出てくるから、とりあえず今は心身共に女性だって答えておくよ。
引き止めて悪かったね。じゃあ……。
「続きを、見始めようか。」
最近、すごく眠い。




