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序章(3)

 もうすぐ夏がやってくるねぇ〜。

 ふっふっふ〜。今年の夏も長袖で乗り切ってやるぞ〜!


「ここが……。」

「ようこそ、〈星空学院〉へ。」


 学院に着いた私達。

 そのまま理事長室……兼校長室へと向かう。その途中にあった校舎とは別の建物のことを、陽花が学生寮だと教えてくれた。偶々、部屋から出てきた誰かと目があった気がするが、気のせいだろう。

 グラウンドでは夏空の下、走っている者、サッカーをするもの、ベンチに座っているものなどがいて。


「みんな、いい汗かいてるねぇ。」


 と優お姉ちゃんが呟く。その後、部活中なのだと教えてくれた。……異世界の学校でも部活ってあるんだ。……まあ、私達の元いた世界も、こっちからみれば異世界か。それに学校には部活が必要だもんね。多分。


 昇降口から校舎内に入る私達。上履きもスリッパもないが、なんとこの世界ではいちいち上履きに履き替える必要なんてないみたいなのだ。そのまま土足で校内を進む。


 なんか、違和感がすごいけど……。それは追々慣れるとして。




 理事長室の扉の前。優お姉ちゃんがコンコンコンと三回ノックする。そしてすぐ開けた。中の人の返事も聞かずに。


……返事聞かないの……?


 私は驚き半分、呆れ半分の感想を心の中で呟いてしまった。つい、うっかり。

 当の中の人はというと……。


「……。ノックすればいいってものじゃないぞ……。」


 やっぱり、少し呆れた顔をしていた。


「えへっ。」


 しかし優お姉ちゃんは全く反省していないだろう。少し舌を出しながら首を傾げてウィンクしているのだから。


「『えへっ』てなんだよ……。」


 ポツリと陽花が呟いた。なんだかどこかで聞き覚えのある台詞な気がする。


「この子が鳥風月花、か。……確かに、陽花にそっくりだ。」

「いや、似てなきゃおかしいでしょ?双子だよ?……あ、月花、ここにいるのが柊眞(ひいらぎまこと)先生。理事長兼校長の先生だよ。」


 陽花がそう紹介してくれたのは若い、どう考えても二十代後半、ややもすると前半に見えなくもない。そんな先生だった。……もっと、こう……年取ったおじいさんとかおばあさんが出てくるものだと思っていたから少し……いや、かなりびっくり。


「……で、その……。いつまで見てるんですか……?」

「……あ、あぁ、すまない。つい、な。」

「?」


 柊先生……じゃなくて眞先生っていった方がいいのかな?……が私のことをすごい見てたけど、なんだったんだろう?

 と、気を取り直した彼女がプリントの束を渡してきた。


「え、あの、これって……?」

「ああ、突然で悪いが、君の学力を知りたい。別室でテストをさせてほしい。」


 ……。

 …………。

 ………………。


いやだああああぁああぁぁぁぁぁあああぁああぁあっ!




 しかし、思いの外問題は簡単だった。……数学は流石にわからないところが多かったが、国語も英語も、あっちと同じでホッとした。理科系と社会系は魔力が関わるところ以外は比較的簡単だったし。……あれ、もしかしてこの学校って……。


「え、すごいっ!高得点じゃん!」

「……。月花、君の通っていた高校は、陽花と同じ、だったよな?……てことは赤点の範囲は……。」

「六十点未満だけど……。やっぱりここって普通の学校なんだね。」


 即合格をくれる眞先生。私はどうやら、無事に〈星空学院〉への転入が決まったようだ。


「ところで……。眞先生と優お姉ちゃんの関係って……?」


 随分と仲のいい二人に、私はそんな質問をしてみた。そしたら、


「……私と優は幼馴染でな。学生時代は仲良し三人組と呼ばれていた。」

「懐かしいね〜。ふぅちゃんも混ざりたがって結局最後は四人組になったよね。」


 二人からそんな思い出話を聞けた。しかし、少し引っかかった私は、更に質問も重ねた。


「眞先生と、優お姉ちゃん、風香お姉ちゃんなら、三人組じゃないんですか?」

「ああ……。実はもう一人、いたんだ。彼女も君と同じで別世界からやってきた者でな。……まあ、君と違って〈世渡り迷子〉だったが……。学年もクラスも同じだったからすぐに仲良くなったんだ。」

「ある日突然姿を消しちゃったんだけど……。」


 言葉尻を濁す優お姉ちゃん。


「まあまあ、色々あったってわけでしょ?……それよりさ、月花の初登校日はいつになるの?ボクすご〜く気になるな〜!」


 陽花が、わざとらしくそう言って話を逸らした。


……え?私、何か言っちゃいけないこと言った?


 その後、私の初登校日、つまり転入初日は来週に決まったのだった。


 ――――――――――


「ねえ、あの子はどこ?今すぐあの子を渡しなさい。渡せば、わたくしは、この世界を襲わないであげるわ。」


 堕天使は、天使の女王にそう持ちかける。

 女王はその言葉に、一瞬の迷いなく答える。


「無理ですわ。」


と。彼女は続ける。


「あの子はもう逃しました。この世界にはいませんわ。」

「そう。残念ね。」


 堕天使は目の前の女王へとそう呟いた。

 そして、「ま、そこから見ているといいわ。」と言いながらゲートを開く。


「待ちなさいっ!何をするつもりですか!?」


 女王の叫びをガン無視した堕天使はゲートを潜り際、


「この世界を明けぬ闇で覆うのよ。」


と告げ、そのまま向こうへ去っていくのだった。


――――――――――


『――、どうか、これだけは覚えておいてちょうだい。』


「ん……。ふわぁ……。」


 夜、ふと目が覚めた。


 なんで今になってあの夢を見てしまったんだろ?――の仕業かな?


 そう思いながら布団から出る。隣にもう一組敷いてある布団で寝ているのは鳥風月花。ボクによく似た姿形で、今も規則的にその胸を上下させている。

 今、ボク達がいるのは優姉ちゃんの家。ふと、時計が視界に入った。そのまま時刻を確認する。午前三時半過ぎ。


なんか、中途半端な時間に目が覚めちゃったなぁ。


 部屋の外からも音は聞こえず、静寂の夜闇に満ちている。音を立てないようにこっそりと部屋を出て、そのままキッチンへ。

 キッチンの窓から外を見る。……まだ、暗い。

 あれから一週間。今日の朝がくれば、月花もあの学院に登校することになる。


「夏の夜って涼しいな……。ボクは昼の方が好きだけど。……ん?」


 夜空を見上げて一人呟いてると、ふと何かが飛んでいくのが見えた。人間大の影が二つ。学院のある方向に。でもボクは深く気に留めはしなかった。……この世界じゃあ、飛行魔法を使って郵便配達とかよくあるし。


「うっ。なんかちょっと寒くなってきた……。」


 いくら夏の夜でも、窓を開けてしばらく空を見ていたんだ。夜風で冷えるのは当然だろう。ボクは身体を軽くさすりながら部屋への戻る。


「さて、もう一眠りするか。」


 布団に潜り、眠りにつく。


 ――あの“何か”が、その日何を起こすかも知らずに。――


 ――――――――――


「今、誰かこっち見てた気が……。」


 アタシの隣を飛んでいる彼女がこっちを見て呟く。


「気のせいでしょ。仮に誰か見ていたとして、夜に何か飛んでいても気に留める人はいないわよ。いるなら余程の心配性が……。」


アタシと同じ、あの世界からの客か。


 その言葉を、アタシはすんでのところで飲み込んだ。ここでボロを出すわけにはいかない。

 幸い向こうは勝手に「単なる見張り警官くらいね。」と解釈してくれたので、そういうことにする。


「さあ、早く行くわよ。この世界にいることは確かなんだから。」


 そしねさりげなく話題を逸らす。すると彼女は簡単に引っかかってくれた。


「……えぇ。わかってるわ。」

「ふふ……。もうここまで来たら後戻りは許されない……。さあ、見つけましょ?あの子を……。」


 アタシは一呼吸おき、彼女に向かって言った。


「〈天使界〉の姫君を……。」

「早く、早くあの子に……。」


 ――――――――――


「朝になったよ〜!起きて〜!」

「ん……。ふゎ……。」


 朝、大きな声で起こされた。軽くボーっとする頭。しかしすぐに眠気を覚ます。覚まされる。陽花が私の頬をつねってきたからである。


「ちょ……。何するのさぁ……。」


 朝に強く、すぐに目覚めることのできる陽花と違い、私は朝にとても弱いのだ。特に冬は死んでるのかと間違われるほどに。


「おはよう、二人とも。」


 優お姉ちゃんが私達に向かってそう言った。

 そして私達はリビングへと向かう。風香お姉ちゃんは家で寝ている。……私も寝たい。眠いよ……。

 それにしても、陽花がルンルンなのは何故なのか。いや、わかる。こんなに元気なのは学校があるからか。


「制服ここに届いてるからね。あ、陽花ちゃんのもサイズ調えたのそこにあるから。」


 優お姉ちゃんの指さす先に制服が置いてある。ご丁寧に名札までついている。私達は空いている部屋でそれに着替えてから出てくる。

 その後、歯を磨き、顔を洗って、席につく。


「「「いただきます。」」」


 3人でいただきますをして、食べ始める。今日の朝ごはんの献立は、麦ご飯、焼き鮭、ほうれん草のおひたし、味噌汁。the和食、である。完全に優お姉ちゃんの好みである。


……にしても、ほうれん草か……。苦手なんだよなぁ……。でも、作ってくれた人が目の前にいるし……。


 私は意を決して一口食べてみた。……雀の涙程の量でしかなかったかもしれないが。


「……苦くない。なんで?」


 いつまで経ってもあの独特な苦味がやってこない。飲み込めずにすぐ吐き気を催す、なんてこともない。


「月花ちゃん葉野菜苦手だって聞いたから、味付けでごまかし〜。」


 なるほど、それで苦くないと……。


「「「ごちそうさまでした。」」」


 しばらくして朝ごはんを食べ終わり、時計を見ると丁度いい時間。

 私達は優お姉ちゃんにお礼を言って外へ出た。もうこの家での生活もおわり。今日からは寮生活なのだ。と、外にはいつの間にか風香お姉ちゃんが立っていた。この時間に起きているなんて珍しい。彼女にもちゃんとお礼を言う。


 そして最後に。


「「いってきます!」」


 と大きな声で二人に告げ、一歩を踏み出した。


「「いってらっしゃい!」」


 という二人の言葉を背に。

 梅雨って、好きじゃないんだよねぇ。

 だってさ、バイト行く時にチャリ乗れなくなるもん。カッパ着たって無理無理。前髪死ぬし。


 次回から一章始まるよ。よかったね。


(いい感じのシーンまで進めるといいんだけど。)

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