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序章そして第一章(新たな脅威の出現)

こちらは実在する薬剤や細菌、ウイルスを擬人化したストーリーです。

薬剤王国(ファーマス王国)の平穏な日々が、一夜にして崩れ去った。

国王陛下の突然の発病。それは、王国直轄の第八研究所(通称:第八研)ですら分からぬ未知のウイルスによるものだった。王都メディシアの城壁に張り巡らされた警報が鳴り響く中、七つの師団からなる薬剤騎士団(ファーマナイツ)が緊急招集された。

高血圧を鎮める第一師団長アムロジピン、糖尿病と戦う第二師団長メトホルミン、高脂血症を退ける第三師団長アトルバスタチン、感染症を殺滅する第四師団長レボフロキサシン、精神を癒す第五師団長フルボキサミン、心臓を守護する第六師団長ニトログリセリン、癌撲滅を掲げる第七師団長シクロホスファミドの七人が集結した。

彼らの前に立ちはだかるのは、敵国イルネスillnessが密かに開発した新種のウイルスvirus。その正体は未だ謎に包まれていた。

「我らが剣は王と共にあり!」

薬剤騎士団(ファーマナイツ)の誓いの言葉が、夜空に響き渡る。

しかし、これは長き戦いの始まりに過ぎなかった。


~序章~

王宮の大広間は緊張に包まれていた。七人の師団長達は、第八研究所の所長アスピリンの報告に耳を傾けていた。

「陛下の症状は日に日に悪化しています。発熱、呼吸困難、そして...」アスピリンは言葉を詰まらせた。「そして、体内の細胞が急速に崩壊しているのです。」

「それでは...まるで、」第七師団長シクロホスファミドが眉をひそめる。

「はい、がん細胞のような振る舞いです。しかし、これはウイルス性のものです。」

一同の間に動揺が走る。

「我々には時間がない。陛下にもしものことがあれば、イルネスillnessとの大戦を引き起こしかねん。」第一師団長アムロジピンが立ち上がった。「レボフロキサシン、君の第四師団で何か対策は?」

レボフロキサシンは首を横に振る。「我々第四師団の精鋭をかき集めましたが、こんなウイルスは見たことがない。前例がありません。この敵は、我々の想像を超えています。」

「では、イルネスillnessとの交渉は?」第五師団長フルボキサミンが尋ねる。

「断られました。」アムロジピンの表情が曇る。「彼らは関与を否定しています。」

沈黙が広間を支配する。

「早急にイルネスillnessの動向を探るのだ。ここは特務機関(IVD:体外診断用医薬品)に頼らざるをえん。こういった諜報活動は、奴らの十八番だろう。」


霧深い夜、イルネス王国の首都トロンボキサンの外れ。ひっそりとした路地裏で、黒いコートに身を包んだ二人の人影が向かい合っていた。

「報告を頼む、エリーザ(ELISA)。」低い声で一人が言った。

もう一人の人影、エリーザが周囲を警戒しながら答える。「イルネスの研究所で、極秘プロジェクトが進行中です。コードネームは"メタモルフォーゼ"。ウイルスの性質を根本から変える実験のようです。」

「それが、我が国の陛下を襲ったウイルスと関係しているのか?」

エリーザは小さく頷いた。「可能性は高いです。しかし...」彼女は言葉を選びながら続けた。「イルネスの王族の中にも、このプロジェクトに反対する声があるようです。内部分裂の兆候が見られます。」

「そうか...」最初の人影、特務機関のリーダー、PCRピーシーアールは深く考え込んだ。「これは単なる敵対行為ではなさそうだな。もっと大きな何かが動いている...」

突然、遠くで物音がした。二人は素早く身を隠す。

「急いで本部に戻るぞ。薬剤騎士団に報告しなければならない。」PCRは静かに言った。「そして、イルネス内部の動きも探る必要がある。味方になるかもしれんからな。」

エリーザは無言で頷き、二人は夜の闇に溶けるように姿を消した。

薬剤王国とイルネスの間で、新たな駆け引きの幕が開こうとしていた。


敵国であるイルネスillnessでは、大きく3つの階級で分けられている、「上流貴族ヴァイルスvirus(ウイルス)」、「中流貴族バクテリアbacteria(細菌)」、「下級貴族ファンガスfungus(真菌)」。イルネスでは、全てが階級により決まるとされている。また、この貴族たちに属さない、いわゆる貧民街に住む「奴隷パラサイトparasite(寄生虫)」。イルネスの上流貴族ヴァイルスの人間は、かつての薬剤王国との大戦でも活躍したものも多く、裕福な暮らしをしているのに対し、下級貴族ファンガスfungusや奴隷parasiteは前線の兵隊として使い捨てにされたり、あるいは秘密裏に研究材料として人体実験などに用いられていた。そのため、特に一部の特権意識の高いヴァイルスvirusを憎む者も少なからずいた。

一方、その頃第八研では・・・

主任研究員のフェンタニルは、研究補佐官であるモンテルカストと顕微鏡と睨めっこしながら残業していた。

「新種のウイルスだなんて。それだけなら珍しくもないけど。これほどの致死性と細胞の崩壊・・・陛下も今年で72歳でしょう。そろそろ隠居しても良い頃合いだと思うけど。」とフェンタニルがつぶやくと、

「不謹慎ですよ。騎士団の設立や今までのイルネスとの大戦での勝利は、国王陛下の統率力とカリスマ性あってのものでしょう。それに第一王子であるメトトレキサート様は、病弱で足も不自由なようですし。まだ、王座を譲れるような状況ではないのでしょう。」とモンテルカストは答える。

「けれど、この新種のウイルス、今は中枢のみに留まっているけれど、いずれ民衆たちにも流布する危険性もある。早く手を打たないと大変なことになるかも。」


~第一章~新たな脅威の出現・・・敵国イルネスにおける諜報機関、通称COX(シクロオキシゲナーゼ)に所属する女性研究員、ニューモ(本名:ニューモシスチス)は複雑な胸中にあった。細菌とウイルスのハイブリッドの研究を専門にしていた彼女の研究材料であった「ネオコロナ」が紛失し、何者かに持ち出されたのだ。COXは、2つの部門に分けられる。COX-1は、いわゆるスパイで、調査員として薬剤王国への潜伏が主な任務である。そして、ニューモがいる研究担当のCOX-2。彼女は、若くして優秀な成績で、COX歴代最高点をたたきだし、女性初の首席研究員として期待されていた。しかし、彼女は下流貴族fungusの生まれであったため、COXのようなエリート集団で、その多くが上流階級のvirus出身の中では大層居心地が悪かった。また、彼女には大いなる野望があった。それは、前回の大戦で会ったある少年との再会である。その少年は、彼女にとっては敵国である薬剤王国の人間だった。お互いに大戦で両親を亡くし、両国の対立を無くし、平和を取り戻すため、成人となる20歳になった時、再会を約束したのだ。その少年の名は、アセト(本名:アセトアミノフェン)。彼女は、かつて交わした約束通り、20歳になる頃、約束の場所でずっと待ち続けたが、結局彼は来なかった。あの時の約束は彼は忘れてしまったのか。それとも何か他に理由が・・・ そんな複雑な思いを抱えるニューモとは裏腹にアセトは立派な青年に育っていた。彼は現在、第四師団の騎士補佐官を務めている。彼は、14歳になる頃、敵国イルネスの上流貴族virusによって致命傷を負い、一命は取り留めたが、後遺症として14歳以前の記憶を無くしていた。当時、第四師団の副団長だったレボフロキサシンに救われ、彼のような騎士になりたいと願い、現在に至る。そして、今回の国王陛下の新種のウイルスによる深刻な状況を受け、とても心を痛めていた。同時にその頃、師団長数名と敵国イルネスの過激派マールブルグと穏健派のアデノによる極秘裏の会合が始まろうとしていた。







「アイリスIF5大賞」

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