その六、増える階段の段数
「時計台、燃えちゃったねー」
私がそう言うと友達は
「かなり昔からある建物だったからね。消火する間もなく焼け落ちたらしいよ」
と頷く。
「物理的に七不思議無くなったね」
「前にも言ったとおり、そのうちまた新しい七不思議が生まれるさ」
学校の怪談は無くならない、のだそうだ。
「怪談と言えば…次は段数が増える階段だっけ」
「階段の怪談」
一瞬考えた後、友達が震えているのに気がついた。
「もー!真顔で冗談言わないでよ」
堪えきれずに笑い出す友達に釣られて私も笑う。
楽しいなぁ…こんな日がずっと続けばいいのに。
段数が増える階段は旧校舎にある。
例の映らない鏡があった踊り場に続く階段がそれだ。
あの日は躓いたが今日は気をつけよう。
旧校舎の階段は、なんの変哲もないただの石と木でできた階段に見える。
私はさっそく数えながら登ってみる。
「一…ニ…三…」全部で十二段。
今度は降りながら数えてみる。
「一…ニ…三…」十三段。
もう一度、数えながら登る事にした。
途中で躓きかけたけど、友達が支えてくれたおかげで転ばずにすんだ。
「何回数えても一段多い」
そう言うと友達が種明かしを始める。
「ごらん、この一番下の段。少し高くなっているだろう?」
そう言われてみると確かにほんの少しだけ段差がある。
「設計ミスか何かでできたこの小さな段差が上りと下りで段数が違う仕組みなのさ」
つまり、登る時はこの段差は数えないが降りる時はこの段差も段数として数えていると言う事らしい。
なーんだ。
くるりと階段に背を向ける。
これで六つ。知られている七不思議は全部自然現象だった。
そういえば七つ目は―友達に聞こうと思って振り返ると、階段の真ん中に立っている。
私が見ているのに気がついて、おいでと言うように手を振ってきた。
「なに、どうかした?」
「さっきあなたが躓いたのはこれが原因だよ」
そう言われてもただの階段にしか見えない。
「さっきも言ったようにこの階段は設計ミスしてるんだ。…この段だけ幅が広いんだよ」
よくよく見ると確かに少し広いような。
「人間の目は錯覚を起こしやすいからね。他の段と同じと思って足を動かすと上の段に躓くんだよ」
私が何度も転びかけたのはそのせいか。
「なんだよー、もう!」
と階段をぐりぐりと踏み潰す。
「もういいよ。それ以上やるとあなたの足が汚れてしまう」
言われて足を上げると確かに階段には黒いシミのようなものが。
「うぎゃー!ばっちい!!」
「大丈夫、足の裏には着いてないから。さあ、帰ろうか」
促されて旧校舎を後にする。
帰り際、友達が「ゴミがついている」と言って私の背中を払ってくれた。
優しいんだけど、ちょっと力が強くて痛かったのは内緒。
「そういえばあの階段の七不思議、もう一つあったんだって。段数を数えてる途中で躓くと良くない事が起こるって」
「そりゃあ…階段の途中で転んだら良くない事しか起こらないよ」
「確かに。まあでもそれも段の幅が違ってたからってだけだったけどね」
ただ、私達が行って以来転んだ人はいないらしい。
「あなたが鈍くさいだけでは」
「きー!」