その五、時計台の人影
旧校舎の映らない鏡は枠だけになった。
「七不思議減ってるのに誰も何も言わないね」
「そんな物だよ。そしてそのうち新しい七不思議が生まれるのさ」
これは予言となった。
枠だけになった旧校舎の鏡は、いつしか異世界に繋がっているという次の七不思議になる事を私はまだ知らない。
「七不思議の五つ目は時計台の人影か」
「それは聞いたことある!七不思議とは知らなかったけど。何年も前に飛び降りた生徒がいるんでしょ?その子の影が時計台に出るって」
「ふむ…」
友達はいつものように顎をつまむと空を見上げた。
「今日は出ないかもしれない」
友達の言葉通り、その日は何も出なかった。
それから数日後。
その日は朝から小雨が降っていた。
「今日は出そうだな」
その一言で連れだって時計台へ向かう。
時計台は学院の外れの旧校舎の隣に建っている。
高い塔になっているので離れた場所からも時計が見えた。
時計台に近づこうとすると
「ここでしばらく待つといい」
と止められる。
そのまま待っていると、新校舎の灯りが点いた。
一瞬そちらに気を取られて時計台から目を離す。
「ほら、ごらん」
そう言われて再び時計台に目をやると、そこには虹色に輝くような人影が見えた。
「今度こそ本物?」
「…動いてごらん」
どこか笑いをこらえるような姿に首を傾げながらも言葉に従って動いてみる。
「あっ、同じ動きだ」
人影は私と同じ動きをしていた。
「ブロッケン現象と言うやつだ。詳しくは省くけど、雨や雲や霧に影が写るんだよ」
「だからこの前は出なかったんだ」
あの日は晴れていたから。
面白くていろんな動きをしてみる。
手を上げ下げしたり、ジャンプしたり、反復横跳びしたり。
すっかり夢中になって、いつの間にか友達が姿を消したことにも気が付かなかった。
「あれ…?」
影がピタリと動かなくなった。
どうしたんだろう?と見ていると、くるりと上下逆さまになる人影。
そのまままるで落ちていくかのような格好に…。
あれは…そうだ、私はあそこから飛び降りて…。
「違うよ」
誰かに肩を掴まれて我に返る。
「あれ…私どうして」
いつの間にか時計台の最上階にいた。
「ごらん、あの新校舎の灯りが反射して影が写っていたんだよ」
「そうなんだ」
「それをあなたに見せたくてここまで連れてきたんだよ」
「へー、それがブロッコリー現象か」
納得していると友達が笑いだした。
「ブロッコリー…ふふっ、もういいよそれで」
友達が楽しそうだと私も嬉しい。
笑っているうちにどうやってここまで来たかという疑問は消し飛んだ。
「雨も上がったし帰ろう」
そう言われて時計台を後にする。
この日の夜時計台は燃えて無くなってしまった。
不思議な事に隣の旧校舎には一切被害が無かったらしい。
原因は不明だが、雷が落ちて老朽化していた時計台はそのまま焼け落ちたのではないかと結論付けられた。