その四、映らない鏡
この前解明したどこからともなく聞こえる声の七不思議は無くならなかった。
ただ状況を聞くと離れた場所の声が聞こえるという、友達が言ったとおりの『ささやきの回廊』と呼ばれる現象だった。
私はなーんだ、と思いながらも特に訂正しなかった。
全部の謎が無くなってしまったら面白くないから。
そう言うと
「優しいね」
「違うよ、真実は全然不思議でも神秘でもないんだよってほくそ笑んでるから性格悪いんだよ」
できるだけ意地悪そうに笑ってみせたが微笑ましい目で見られてしまった。解せぬ。
映らない鏡は旧校舎の階段の踊り場にある。
そこに向かっている途中の階段でうっかり躓いて転びかけた。
友達が手を引いてくれなかったら顔面から行ったかもしれない。
「ありがとう」
「どういたしまして」
お互いにぺこりとお辞儀をしあうと笑いながら階段を登る。
こんな他愛のないやり取りをしている時間が幸せで仕方がない。
踊り場に着くと、壁に据え置かれている大きな姿見があった。
しかし噂通り何も映らない。
「これは本物…?」
怯える私を尻目に友達は鏡をずらして裏側を覗き込んだ。
「ああ、やっぱりそうだ。ごらん、これはただのガラスだよ」
「ガラス?」
言われて私も覗き見る。
確かに向こう側が透けて見える。
「本来鏡は裏側に金属を吹き付けてあるんだ。これはそれが無いから鏡では無いんだよ」
「どうしてそんな物を鏡のようにして飾ってるんだろう?」
「さあね。大きな鏡を作るにはお金がかかるから張りぼてで見栄を張っているのかもね」
大人の事情ってやつか…なーんだ。
興味の無くなった私はくるりと背を向けて階段を降り始めた。
背後からガシャン!と何かが割れるような音がしたけど、ガラスが割れたところでなんとも思わない。
友達が手を怪我してなきゃそれでいい。
この七不思議、本来は全く別の話だったそうだ。
映ってはいけないものが映る鏡が有ってそれを見た者に災いが起こる。
だから映らない鏡にしたんだとか。
…階段を降りようとした時、一瞬自分の姿が映ったような気がするけどガラスだし反射でもしたんだろうきっと。